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18 おはようもまたねもありがとうもごめんもヤリたいも全部キスだ
しおりを挟む俺はがっちりとひなたの肩に腕を置いて拘束する。
あごをつまんでこちらに顔を向かせた。
「連絡しろって言ったろ?」
「ご、ごめん。余裕、なくて」
「次からはお仕置きだから」
「お仕置き!? なんで!」
「俺の恋人だからに決まってんだろ」
「こっこっこいびとって……! 横暴だ!」
「嫌なら早く自分で対処できるように頑張るんだな。それまで出しゃばるから。俺彼氏だし。
ほれ、助けてくれた彼氏にお礼は?」
「かっかれっかれ!? お試し期間だろ!?」
「お試しで付き合ってるだろ? プラトニック中はお試し期間だよ。
ほら、窮地を颯爽と救ってくれた彼氏にお礼お礼」
顔を真っ赤にして釈然としない表情でひなたはちっちゃく「ありがとう」と言った。
こいつすぐ真っ赤になるけど血圧大丈夫か? 赤いの可愛いけどちょっと心配になる。しかし俺は自重する気は全くない。
「恋人同士の挨拶の基本はキスだって昨日教えただろーが」
「知らないよそんなの! 聞いたこともないし!」
昨日俺が作った俺ルールだからな。
「じゃあ今覚えろ。おはようもまたねも、ありがとうもごめんもヤリたいも全部キスだ。
ハイ、やり直し」
「やりたい!?」
「当たり前だろ。キスしたらヤリたくなるだろーが。ならヤリたいと同義だ」
アバター以外、キスをひなたとしかしていない。
キスしなくたってセックスは出来るが、ひなたとは全部したい。
「遅れるぞ。俺はチューブ(※列車型公共交通機関)でだっていいけどな」
「ま、待って!!」
手を引っ張りさっさと駅に向かおうとすると、すっかり眉を下げた顔で足を踏ん張る。
「する……お礼するから……っ」
やっべ。ひなたの血圧心配してる場合じゃなかった。俺の鼻の血管も心配すべきだった。
しやすいように少し顔を下げて見つめれば、バイオレットブルーの瞳がうるうるしている。
「見るな。目、閉じろ」
ニヤリと笑って目を閉じてやると、裾を引かれたので抵抗せずに上半身を曲げる。やがてちゅ…と頬に軽い感触がした。
しばらく待っても次がこない。バチンっと目を開ける。まさかこれだけ?
ひなたはそっぽを向いて耳まで真っ赤にしていた。
イヤ、そんな可愛くても許さねーし? バードキスでも唇だったら、恋人(暫定)初日だし許してやったのに頬はない。
「お前の感謝の気持ちはそれだけなんだな? よくわかった」
「え、え? 冠城?」
ひなたをひきずるような勢いで引っ張って車両に乗り込み、角に押し付ける。
「ちゃんと感謝してるよ! き……キスだってしたじゃないか!」
「あんなものは知り合いレベルだ。ちゃんと唇に。自分から舌を入れて絡めろ」
「そんな……、できないそんなの!」
「やれ。昨日だってしただろ」
「あれは冠城が……!」
「そうだな、俺がヤリたいからしたし、お前の謝意を無理やり徴収した形だ。今日はひなからのが欲しい」
「ちょ! ヒナってのもなんなんだよっ」
「ひなはひなだろ。名前で呼ぶ事にしたんだ。お前も龍玖と呼べ」
ひなたは口を噤み、大きな瞳を不安そうにきょろきょろさせて考えているようだったが、やがて考えがまとまったのかキッと目に力を入れた。
「りゅぅ…くはいいけど、ひなはいやだ。こんなの女の名まひぇっ!」
ぱくりと耳にかぶり付く。丁寧に耳朶を弄り、耳穴に舌を突っ込めば身体がビクビクと揺れる。
「ひぁっ! やめ、ろ、ンンッ、やっっ」
遥か昔は公共の場でいちゃつくなんてという風潮だったらしいけど、今は見せ付け推奨である。
さすがに服を捲り上げてまでするのはやり過ぎだが、熱烈キスは全く問題ないし、公共の場で最後まで出来るところもある。公園とか劇場とか、時間帯によっては地下鉄1両とか。もちろん住み分けはレンジで表されきちんと為されている。
なんでも、見ている方もヤリたいホルモンだかが出てきて妊娠の確率を高めるのだそうだ。
ちなみにプライベート法で肖像権は守られているので記録に残る心配はない。もし撮られたのなら自分の危機意識が足りない。
現在の撮影機器類は、対応する機種の撮影許可印を撮影対象者の首から上の肌に貼るか、2秒以上撮影機器のレンズと視線を合わせないと撮影できないからだ。それなく撮影すると体全体が、まだら色のジンジャークッキーみたいにぼやける。
撮影機器には人物認識登録ができるので、家族や友人など予め登録しておけば手間もない。
「お前はもうオメガだ。学校は仕方ないが、TSだとバレると学校外ももっと有象無象が寄ってくるぞ? リスクは少しでも避けろ」
反対の耳を指で弄りながら熱い吐息と共に囁く。
まぁ俺から絡んでるのに何言ってんだって感じだけどな。うるせぇ俺はいいんだよ。
ってひなたはちゃんと聞いてんのか? ホント感じやすいな。快感で力が抜けるまで全力で抵抗するのがいじらしい。
「わかったか? ひな」
目をぎゅうーっと瞑り、ひなたはコクコクと首を振った。
とにかく今は同意して、放してもらうのが先決らしい。
解放してやると、バッと両耳を両手で塞ぎ、やっぱりプルプルしている。こいつ……! 可愛過ぎておかしいぞ。
眉を寄せしかめっ面で言い聞かせたが、実は内心悶えていると、「あのぉ?」と肩をちょんちょんと叩かれた。
振り返ればうちの学校からは離れているミドルスクールの制服を着た女たちだった。
ますます眉を寄せて訝し気に見れば、女共は上目遣いで口を開いた。
「拒否ばっかしてるコより、私達とどぉですかぁ?」
「かわいコぶってヤダヤダゆってるのってメンドくさいですよねぇ?」
「私達の方が絶対そんなコより気持ち良くさせてあげられますしぃ~」
なんだこいつら。バカの見本か。
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