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12 頭沸いてんじゃないの

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 店員総出で見送られ店を後にする。
 香坂はもうずっと真っ赤になりっぱなしで、可愛さが留まるところを知らない。

「ピンも買えば良かったな」

「へ?」

「これじゃピアスが見えないじゃないか」

 サラサラと流れる髪を耳にかけて、軽く耳にキスをする。

「おい!」

「ん?」

「どういうつもりだ!」

「なにが?」

「天然石だよっ! エ、エターナルの!」

 うん。言い出す気はしてたよ。
 さて、なんと言おうか。ここで返答を間違えたらこじれるにおいがプンプンする。
 ごまかされてくれないかな。

「とりあえずどっかでテイクして公園でも行くか。話はそこで」

 普段ならカフェでもいいが、今は誰にも聞かれたくない。
 人気のない適当なベンチに座ってカップを渡す。
 俺より小さくても男らしく、「あぁ」なんて言いながら香坂は受け取った。
 やべぇ。こいつなんて色気まとってんだよ。これがオメガというものなのか? それとも香坂だからなのか?
 内心悶えながらジュエリーボックスを取り出す。

「これオマケで付けてくれた。お前にやる」

 スイッチに触れてから香坂に渡すと、両手で掲げて目が釘付けになっている。

「うわぁ……。すごい、キレー……」

 バイオレットブルーの瞳をキラキラさせて、手の平の上で舞うピアスキャッチを見つめる。
 お前の目の方がよっぽど綺麗……ってバカか! クラシックムービーかよ、恥ずかしい!

「ホントに僕が貰っていいのか?」

「ああ、いいよ。俺が飾ってたら引くわ。それ見て誰と付き合ってんのか片時も忘れんな」

「付き合ってない!」

「お試しだろーが付き合ってるっつーの。
 いいか? お前に自慢して回れとは言わないから、常に耳は出しとけ。口説かれたり、ピアスを聞かれたら『龍玖と付き合ってます』だ。
 もし学校外なら"クアドラプル"と言え。そんでも聞かなかったら、ヴィジフォン(※映像付き通話)掛けて来い」

 真っ赤になって口をパクパクしている。
 こいつこんなに表情豊かだったんだな。
 キスしたい。キスで天然石の話流れてくれねーかな。つーか流そう。そうしよう。
 手を伸ばせば「ちょっと待て!」とアゴを掌底された。ちょっと待ったらいいんだな? 言質取ったからな。

「……なんだよ」

「ピアスはいいとして、天然石ってどういうつもりだよ! 人工石や人工樹脂でいいだろ!」

「俺に人工石や人工樹脂着けろってーの? バカにしてんの? 今すぐ最後まで食われたいの?」

 わざと煽るように言う。
 俺に鑑定眼がある訳でもなし、全然人工石でもいいんだけど、何となく香坂に人工石を着けさせる気になれなかっただけだ。人工樹脂などと言うおもちゃは論外だ。
 俺の気まぐれだな。
 案の定、香坂は顔を真っ赤にしたまま怒って突っ掛かってきた。

「頭沸いてんじゃないの?!
 僕はお前を利用しようとしてんだぞ?!
 3ヶ月お前を男除けにしてポイなんだぞ?!」

「…………。
 ぶはっっ!! あっははははは!!
 おっ前、可愛いーなぁ!!」

 ダメだ、笑いをこらえようとしたが耐えられなかった。
 むぎゅーっと抱きしめ、銀の頭をグシャグシャに撫で回してやった。
 バタバタもがくのを封じ込めて、チュッチュとキスの雨を降らす。

「何するんだよ、やめろ!」

「俺を心配してくれてんの?
 これを可愛いと言わなくて何を可愛がればいいんだよ」

「心配なんてそんなワケないだろ!
 3ヶ月後に突き返してやるんだから! 売却価値が下がるだけだ、ざまーみろ! 僕に手を出すからだ!」

「ああ期待してるな」

 もうガマンできなかった。
 こんな面白いやつ他には絶対居ない。
 絶対逃がさない。
 可愛い文句を言う唇を塞ぐ。
 口を開けてくれる訳はないから、ちょっとかわいそうだけどアゴにかけた手に力を入れる。

 縮こまった舌を吸い出し、俺の口の中で思う存分嬲る。「んーっんーっ」と抗議の声を上げるうちは放してやらねーよ。
 香坂の力が抜けてこちらのなすがままになってやっと香坂の口腔をゆっくりと味わう。
 ピクピクと体を揺らして鼻から甘い吐息をもらしはじめる。

 なにこのコ? すっげー感じやすくない? 処女なんだよな? オメガ教育受けてきてないはずだよな?
 じゃあコレ天然? マジで?
 つーか精通前のセンズリ訓練や献精センターでの行為はしてねーの? ちっとも快楽に慣れてなくね? ただ感じやすいだけ? これってもしかして――人口激減時代の少子化対策の一つ、ネコ科の遺伝子が入ってるとか?

 唇を離せば香坂は肩で息をしていた。
 また涙の滲むバイオレットブルーの瞳で俺を睨んで、突き放そうと両腕を伸ばすのを掴んだ。
 だからそーゆーの逆効果なんだって。
 なんで元男がわかんないかな?

「なぁ、献精センターには通ってたんだろ?
 VRでもキスしなかったのか?」

「なに言ってんだ、冠城!」

「だってお前、あまりにも慣れてないもんだから」

「うるさい、バカ、放せ!」

「まさか図星? お前センターでセンズリ? 本気で初めからオメガ目指してたってこと?」

「違う! そんな事ない! 僕は男だ!
 そりゃオートはやったことないけど、男性機能を上げようとちゃんと訓練してた!」

 ジュニアスクールの時に習ったような気がする。
 男性機能を上げるために自慰の練習をするように。但し無理のない範囲で。という内容だった筈だ。
 確かに男性機能は精子を出せば出すほど上がるそうだが、そんなに根詰めてやるものではない。
 教師も、精通の時期や精子生産能力は各個人違うものだから、絶対に無理せずに己に合わせて地道にやる事と言っていた。
 こいつ、なんでこんなに気負ってるんだ。まるで追い詰められてるように。


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