君は煙のように消えない

七星恋

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「やばい。」
「何が?」
「忘れれん。」
 気づけば別れて二週間が経っていた。
 そんな簡単に彼女との日常が忘れられるとは思っていなかったが、ここまで色濃く残られるというのも想像していなかった。
「仕方ないだろう。まだ二週間くらいしか経ってないだろ?」
煙草を吹かして廉が言う。
「二週間も経ってるんだよ。」
不貞腐れたように僕が返す。
 二人同時に煙を吸い込み、ゆっくり吐き出す。喫煙所で話すときは会話のペースを気にしなくてもいいのが、個人的には好きだ。
「まあ、」
と言って一呼吸おいてから廉が話し始めた。
「無理に忘れようとする必要もないだろ。忘れようとする行為が元カノを呼び起こしてるんじゃないか?」
なるほどねえ、と思いながら筒を口に運ぶ。
「俺なんか高校の時に初めて付き合った子のこと今でも思い出すんだぜ。それ以外にも何人かとは付き合ったけど、いろいろなタイミングで甦ってくるよ。あの子可愛かったなとか、あの時あんなことしたよなとか。」
「そうゆうもんなの?」
恋愛経験の少ない僕にはよくわからなかった。
「そうゆうもんなの。」
そしてまた沈黙が流れる。
「そもそもさあ、なんで忘れたいわけ?」
廉が怪訝な顔をして問いかけてきた。
「いや、そりゃだって自分も辛いし、何より自分が思うことで相手に迷惑をかけたくない。」
「それがよくわからないんだよね。」
煙を吐きながら廉は宙を眺める。自然と僕の目線もその空間に行く。煙が消えてぽっかりと穴が開く。
「自分が辛いってゆうのはよくわかるよ。なんというか、胸が苦しいというか。でも、相手に迷惑をかけるってなんなの?そりゃ、ストーカーとかしちゃうとダメだけど、心に潜めとく分には問題ないでしょ。」
正論過ぎてぐうの音も出ない僕は、彼の顔をみれず、未だ虚空を眺めている。
「こう言う言い方はよくないかも知れないけど、自分が相手に迷惑をかけないようにって言うのは、裏を返せば自分は相手を幸せにできるって考えであって、それはもう、もはやただの傲慢なんじゃないかな。」
「ズバズバ言うなあ。」
僕は苦笑いして返すしかなかった。
「お前を思ってだよ。」
「なんだ、傲慢じゃないか。」
「俺はいいの。」
そういって僕らは二本目の煙草に火をつけた。
「まあなんだ、どうしても忘れたいと言うなら、方法を教えてやらんでもない。」
「あるの?」
「ないことはない。」
「はっきりしないなあ。」
廉はまた一呼吸置いてから口を開いた。
「いいか、結局のところ、失恋を浄化するには新しい恋と時間だけなわけ。どれだけ忘れたいと思っても、この二つくらいしかうまく作用しないのさ。」
「なるほど。」
「でもな、恋なんてもんは直感で生まれるものであって自発的に得られるものじゃないのよ。だから時間。とにかく他の事を考えなくていいくらい忙しくなって時間を埋めればいいんだよ。何でもいい。バイトであろうが遊びであろうが、それこそ勉強でもいいわけだよ。」
 珍しく一息で長文を話すものだから、彼が本気で僕を心配してくれているのだろうと思った。
「いそがしくねえ。」
 別れてから心だけじゃなくて時間までぽっかりと空いていることに気がついた。よくよく考えれば彼女といる時間がなくなって、そこが空白になっていた。確かにここが埋まれば少しは彼女の事を考えなくて済むかもしれない。
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