君は煙のように消えない

七星恋

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 両腕をなくし、首をなくした魄皇鬼の身体が崩れ落ちる。

 終わった。

 最後まで、兄様に助けられた。
 あの様子では、兄様も生きてはいないだろう。

 止めどなく溢れる涙が視界をふさぐ。

 ふと、〈紅桜〉が私の手を引いた気がした。
 涙で歪む視界に、白い闇が躍り出る!

「はっ」
 身をひねる私の左眼に、魄皇鬼の首が牙を剥く。

「あぐぅっ!」
 瞳を襲う、けるような痛みに視界が揺らいだ。

 まだ動くのか?

 駆け降りてくる首は禍々まがまがしく殺気を放つ。

 視界が霞む。
 構える〈紅桜〉に、何かが手を添えた気がした。

 行け!

「忌まわし鬼よ。去れ!」

 刀にある限りの霊力を乗せ、迫り来る魄皇鬼の首を一刀の元に斬り伏せる。
 霞む視界に、紅い五芒星が確かに写って見えた。

 今度こそ、魄皇鬼の首がチリとなり風に消えて逝く。

『紅、桜……』

 魄皇鬼の声が夜の闇に消えた。



 東の空に輝く太陽が、一日の始まりを告げる。
 鮮やかな朱色の柱が立つ境内で、座り込んだまま夜が明けてしまった。 

 左眼の灼けるような痛みは引いたが、もはやこの瞳が物を映すことはないだろう。

 手を離した〈紅桜〉は、鞘に収まったのだろう。
 左手の中には、確かに熱く力の源を感じる。

 魄皇鬼は滅んだのだろうか。

 兄様。

 あの時刀に添えられた手は……。

 思考のまとまらない頭には、疑問ばかりが増えていく。

 そして鬼の戯言ざれごとと捨てていいのか。
 魄皇鬼の残した言葉。

 〈紅桜〉。お前はなぜ人に宿る。
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