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<フリーター探索編> ~ジーナはどこへ消えた?~

第八十話:土の精霊ドムドム、地竜に敗れる

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 ローグ山の内部、洞窟深部。

 小さな村が丸ごと入りそうな空洞で、地竜が七転八倒する。

 そのすきをつき、俺とエル姫は、行き止まりだった枝道から脱出する。

「リューキはん、エル姫はん、こっちや!!」

 ふたたび、俺たち全員は合流する。

「ドムドム! 地竜を倒す方法は何かないのか?」
「むむっ! 地竜ならば何度も退治したことはありますが、これほど硬い皮に包まれた個体は見たことがございませぬぞ!」

「くっ、デボネアは? なにか知らないか?」
「うちもわからんわー。ていうか、あの地竜、頑丈なだけやのうて、気が触れとるようやな。下位とはいえドラゴンや。言葉を話せるはずやのに、唸り声しかあげへん。魔素中毒が進みすぎて凶暴化バーサークしとるんやろか?」

 土の精霊グノームドムドムだけでなく、風の精霊シルフデボネアも打開策はないらしい。

 なかなか厳しい状況だ。

「リューキはどうじゃ? 強い光が弱点とか、兵糧攻めとか、人間界出身にしては地竜の弱点に詳しいではないか。他に何か知らぬか?」

 逆に、エル姫が俺に問いかけてくる。

 つまり、異世界のあらゆる知識に精通している異国のお姫様も、なにもアイデアがないということか。

「地竜の話は、昔聞いたのを思い出しただけだよ」
「誰じゃ? 人間界にいたリューキに、誰がそんな話をするのじゃ?」

 俺は誰から地竜の話を聞いたかを思い出そうとする。

 いや、記憶をたぐり寄せるもなにもない。
 俺にファンタジックな物語を話すヒトは、ひとりしかいない。
 
 死んだ親父だ。

 まったく、なんで親父は地竜の弱点を知っていたのやら……

「グギャオォォオオオーーーッ!!!」

 地竜が吠える声が響く。
 明らかに怒っている声だ。
 
 ドスドスと足音を鳴らしながら、ケダモノが迫ってくる。

「むおっ! 拙者が地竜を足止め致すゆえ、領主ロードリューキ殿とプリンセス・エルメンルート様は、一旦、ワーグナー城までお逃げ下され!」
「しゃーない。うちもドムドムに付き合うたろやないかー」

 ドムドムとデボネアが宣言する。
 ただしそれは、地竜に敗れることを前提とした言葉だ。

 ふたりは召喚精霊ーー不死の存在。
 それでも、自己犠牲を覚悟した申し出には涙が出てきそうだ。

 けど、ここで逃げるってことは、ジーナを洞窟に放置するってことだ。
 そんなこと、とてもできない。
 かといって、このままでは、俺ばかりかエル姫も危険に巻き込んでしまう。

 なにか、なにか手立てはないだろうか……


……龍殺しドラゴンスレイヤー列伝:勇者ハンベエが遭遇した地竜デュカキスは、古龍エイシェントドラゴンに匹敵する力を有していた。魔素中毒のみならず、同族食いカニバリズムを繰り返したデュカキスの肉体はいびつに変化し、物理的攻撃を受けつけない強度となった。勇者ハンベエは、三日三晩死闘を繰り広げ、九百九十九本の剣を折った末にデュカキスを討ち倒した。変異龍イレギュラーデュカキスの身体からだで攻撃が通用したのは、頭から背中、尻尾まで並んだ突起の狭い隙間のみ。特に首の後ろ、第三頸椎けいついと第四脛骨けいついの間に相当する箇所は最大の弱点と言えよう……


「ドムドム! 首の後ろだ! 突起の隙間を狙うんだ!」
「むおっ! わかったでござる! 地竜よ! 尋常に勝負するでござるっ!!」

 ドムドムが叫ぶ。

 土の精霊グノームの戦士の気合いに背中を押されたのか、エル姫が無限ランプを掲げて、一歩、二歩と前に進む。
 
 無限ランプの強烈な灯りを受け、地竜が洞窟の枝道から数歩後じさりする。

「プリンセス・デボネア様! 地竜めを転倒させてくだされ!!」
「うちに任せやー!」

 デボネアは威勢良く返事をする。

 風の精霊シルフ姫君プリンセスは地竜の周りを超高速で飛びまわる。
 
 地竜がデボネアを叩き落そうとして、ゴツゴツとした腕をぶんぶんと振り回す。

 デボネアはすべての攻撃を間一髪かわし続ける。
 
「やあああーーーーっ!!」

 デボネアが風を巻き起こして、体勢を崩した地竜を転倒させる。

 ドムドムが地竜の背後にまわりこみ、必殺のハンマーを万振まんぶりする。

「チェストぉおおおーーーーッ!!」

 バァギィイイイィイーーンッ!!!
 
 硬質な破砕音が洞窟内にこだまする。

 すぐさま静寂が訪れる。

 無限ランプの灯りのもと。
 最初に立ち上がったのは、ドムドムではなく、地竜だった。

 俺が見る限り、地竜にはほとんどダメージがなさそうに思えた。

「む、無念でござる……」

 地竜を打ち倒すどころか、逆に右腕のハンマーが粉々になり、片腕となってしまったドムドムがよろよろと立ち上がる。

 ドムドムの渾身の攻撃は、またしても地竜に通用しなかったようだ。

「ギャォオオオオオオーーーッ!」

 地竜が咆哮し、ドムドムを踏みつけようとする。
 
「ドムドムーーーっ!」

 宙を舞う風の精霊シルフデボネアが急降下し、ギリギリのタイミングで手負いの戦士を救出する。

「むおっ、面目ござらぬ……」

 デボネアに吊り下げられたドムドムが、悔しそうにこぼす。

 その痛々しいさまに、俺は言葉が出ない。

「なに情けないこと言うてんねん! そんなんじゃあ、土の精霊グノームイチの戦士の名が泣くでぇ!」
「むおっ……」

「それに、あんさんが情けないこと言いよると、エフィニア殿下はんがどう思うやろな? 水の精霊ウンディーネ女王様クイーンの説教はしつこくて面倒くさいでー!」
「むおおっ! それだけは勘弁してくだされ!!」

 ドムドムを抱えたデボネアが、俺の目の前に着地する。
 
 俺は早速ドムドムを回復させようとして……めた。

「むっ? 領主ロードリューキ殿? どうされた? 力のパワー注入チャージをお願いするでござる!」
「……ドムドム、いまのままでは地竜に勝てないよな?」

「むおっ! それは、そうかもしれませぬ……」

 ドムドムはうつむき、沈黙してしまう。

 まあ、当たり前の反応か。

 俺だってわざわざ耳に痛いことを言いたいわけじゃない。
 けれど、このままではジリ貧になるだけだ。

「ハンマーの代わりに剣で戦えないか? 硬くて厚い皮を持った地竜が相手だ。打撃より斬撃の方が有効だと思う。龍殺しドラゴンスレイヤーの勇者ハンベエのようにね」

「むっ、勇者ハンベエとな? 聞いたことござらぬ。それはともかく、この仮初かりそめめの身体からだは単なる泥人形。領主ロードリューキ殿のおかげで硬化したとはいえ、はがね程度の硬度が限界。あの地竜相手では、剣はハンマー以上にもろい武器にすぎないですぞ」

 ドムドムが冷静に反論する。

 理屈は分かるが、いまのままでは地竜に勝てる見込みはない。
 不利な状況でも敵に挑むのは勇気ある行動だが、ハッキリ言って蛮勇だ。
 同じ無茶をするなら、少しでも上手くいく方法を選びたい。
 
「さっき拾ったドワーフの剣の欠片かけら。あれなら地竜を傷つけられるか?」
「む……、おそらくできるでしょうな。拙者が見たところ、ドワーフの剣の素材はアダマンティン。ジーナ様が探しておられるオリカルクムほどではありませんが、「不懐」との呼び声も高い希少な金属ですからな。ですが、この欠片かけらは武器として振るうにはあまりにも小さすぎますぞ」

「武器が小さければ、大きくすればいい。ドムドム、お前もドワーフの剣の欠片かけらと一緒に剣になってくれないか?」
「むっ? どういう意味でござるか?」

「リューキよ。土の精霊グノームのドムドムを一時的に神器扱いするつもりか?」
「さすがエル! よくわかったな! といっても、俺は剣の扱い方は分からない。ドムドム、俺に戦い方を教えてくれ!」

「むおおお! 拙者にまかせるのですぞ! リューキ殿を立派な戦士にしてみせますぞぉー!!」

 意気消沈していたドムドムが歓声を上げる。

 てか、やる気が上がりすぎてる気もするが……ま、いいか。

「リューキはん! うちにもなにかやらせてーな!」
「当然デボネアにも手伝いを頼むよ! さっきドムドムを抱えて飛んだように俺の翼になってくれ!」

「うちに任せとき!!」

 デボネアも喜びの声をあげる。

 ドムドムと違ってデボネアの方は、やることが明白だから説明は不要だろう。 

 俺はドムドムの頭をなでながら念を込める。


……ドムドム、俺の剣となれ! アダマンティンの剣先を持つ剣となれ! 変異龍イレギュラーを打ち倒す剣となれ!……


 一瞬ボンヤリした意識が明瞭になる。

 俺の右手には重量感のある両刃の片手剣。
 握り、つばから剣身のほとんどは黒光りする鋼でできている。
 ただ、剣の先端のみが鈍い光を放つ、くすんだ灰色をしている。

<むおっ! リューキ殿! なんとも不思議な感覚ですぞ!>
<ドムドム。窮屈きゅうくつな思いをさせてすまない。だが、今度こそ力を合わせて地竜を倒そう!>

 頭のなかでドムドムと会話する。

 女騎士ナイトエリカ・ヤンセンがまとう神器の鎧『鉄の処女イゼルネ・ユンフラウ』と話しあったのと同じ感覚だ。

 風の精霊シルフデボネアが俺の背後に回り込む。

 俺の背中にしがみつき「ほな、行くで」と声をかけてくる。

 俺が返事を返すまでもなく、俺の身体は宙に浮いた。

 さあ、反撃開始だ。
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