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<フリーター探索編> ~ジーナはどこへ消えた?~

第六十七話:フリーター、イタズラを考える

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 ワーグナー城の大広間。

 人間界から帰還した俺たちは、グスタフ隊長の出迎えを受けた。

「リューキ殿、ヴァスケル様。無事に帰還され安堵あんどしました。行方ゆくえ知れずの金貨は見つかりましたかな?」
「もちろんだ。グスタフ隊長も留守番ご苦労さま。ところでジーナとエルは?」

「おふたりは黒檀こくたんの塔にこもっておられます。まったく、エルメンルート・ホラント姫様だけならともかく、ジーナ様まで、なんであんな薄気味悪い場所にいて平気なのやら……」

 オーク・キングのグスタフ隊長の声がわずかに震える。

 ひげもじゃのいかつい顔は強張こわばったように見えた。
 
「はあ!? あんたは仮にもワーグナー城の守備隊長だろ? 情けない顔するんじゃないよ!!」
「ヴァ、ヴァスケル様! いえ、その、オレは小さい頃、黒檀こくたんの塔の周りで幽霊に追いかけられたことがあって……」

「またその話かい! ワーグナー城に幽霊なんかいないって何回言ったら分かるんだい! 隊長ともあろう男がそんなに気がっちゃくてどうすんのさ! リューキだってそう思うだろ?」

「うん、そうだね。けど、だれしもひとつやふたつは苦手なモノがあるよ。グスタフ隊長が勇敢なのはダゴダネルとのいくさ十分じゅうぶんわかってる。これからエル姫が黒檀こくたんの塔に住んで幽霊がいないのを証明してくれれば、グスタフ隊長だって怖がらなくなるさ」

「はあ……まったく、あんたは甘い男だねえ。グスタフ! リューキに免じて許してやるから、さっさとジーナと姫さんを呼んできな!!」
「はっ! ただちに!!」

 はじかれるようにグスタフ隊長が大広間から飛び出す。

 四百ものオーク兵を率いる守備隊長がパシリのように扱われるのを見て、少々気の毒な気がした。

 あねさんヴァスケルは、オーク・キングのあわてふためく姿に目を向けることなく、お土産を満載したリヤカーを俺の居室に運び込もうとする。
 
「ヴァスケル? ファッション誌や化粧品コスメは金庫室に置くんじゃないのか?」
「金庫室の扉は小さすぎて、リヤカーは通らないだろ? それに、あんたの部屋には大きな姿見(すがたみ)があるからイイんだよね! これから擬人ヒト化してるときはあんたの部屋に泊めてもらうよ!」

 当然とばかりにヴァスケルが言う。

 まあ、別にいいけどさ。

 てか、ナニがあっても知らないぞ!

 なーんてね。はは。

 俺の部屋は大広間に面した領主ロード用の予備の居室。
 本来は、会議などの合間に領主ロードが休憩するための部屋だ。

 メインの領主ロード用の居室は別フロアにあるが、今でもジーナ・ワーグナーに使ってもらっている。俺が領主ロードになったからといって、女の子の部屋を取っちゃうのは気が引けるからね。

 ちなみに予備の居室といっても、決して貧相ひんそうな造りではない。
 部屋の大きさは二十メートル四方あり、十畳じゅうじょうほどの大きさの天蓋(てんがい)付きベッドが鎮座ちんざしている。ふかふかのソファや執務用の重厚じゅうこうな机もある。三方の壁の扉はそれぞれが浴室、キッチン、ウォークインクローゼットに繋がっている。

 生活に支障がないどころか、俺の人生で一番贅沢ぜいたくな住まいだ。
 

 ヴァスケルは奥行き五メートルほどのウォークインクローゼットに荷物を運ぶ。

「なんだい! クローゼットの中は空っぽじゃないか! しょうがない領主ロード様だねえ、裁縫さいほうが得意なジーナにもっと衣装を作ってもらいな!」
「うん、そうしてもらうよ」

 姉さん女房と従順な夫のような会話が続く。

 てか、ポンポンと小気味良い言葉で世話を焼かれるのが快感になってきたな。
 
「リューキ! 無事に帰ってきたのじゃな!」
 
 エル姫ことエルメンルート・ホラント姫が姿を見せる。

 化粧メイクで素顔を隠した、のっぺりとした顔。
 「亡国ぼうこく微女びじょ」の異名は健在だな。

 なーんて感想はともかく、一緒にいるはずのジーナ・ワーグナーの姿がない。

「エル、ただいま。ジーナは一緒じゃないのか? いくらジーナでも住み慣れた城で迷子にはならないだろうに、どこほっつき歩いてんだろうな」
「ま、ま、迷子なわけなかろう!? 我が従妹いとこのジーナは黒檀こくたんの塔にいるのじゃ! わらわが持参した書物を読んでおるのじゃ!」 

「そうなんだ。ジーナならお土産のスイーツが欲しくて真っ先に飛んでくると思ったのにな。ところでエルの書物ってのは神器しんきの研究用の古文書や巻物のことか」
「そうじゃ! ジーナは神器しんきの勉強に目覚めたのじゃ! そんなことより客人が来ておるぞ。帝国財務局の役人じゃ。ネチネチとした話し方をする男でのう」

 エル姫が顔をしかめる。

 ブサイクではない、そこそこ美人が心底嫌そうな表情をする。

「役人はジーナが追い返したんじゃなかったのか?」
「また来たのじゃ。それどころか『領主ロードと話をするまで帰らぬ』と言っておる。うっとうしいのじゃ」

「分かった、財務局の役人と会おう。大広間に来るよう伝えてくれ。ヴァスケル! おまえに頼みがある……」

 俺はヴァスケルに耳打ちする。

 ちょっと大人気おとなげないイタズラの仕掛けを、彼女は嬉しそうに聞いてくれる。

 正直な話、ジーナの昔話を聞いてから、俺はプロイゼン帝国の皇帝ってやつが好きではないからね。

 
 さて、帝国財務局の役人ってのはどんな奴だろうな。

 なんだか会うのが楽しみになって来たよ。ははは。
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