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<フリーター帰省編②> ~消えた金貨を探せ~
第五十九話:フリーター、姐さんヴァスケルと語り合う
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南国の空。
眼下には大小様々な島が見える。
日本を離れて四時間あまり、俺たちは遂にフィリピン上空に到達した。
目的地のプエルト・ガレラに近づき、姐さんヴァスケルは高度を下げはじめる。
俺は相変わらず、お姫様抱っこされている。
いろいろあったが、概ね快適な空の旅だったと思う。
そんな状況下で、俺はヴァスケルに質問しまくっている。
尋ねるのは、俺が知らない魔界の「常識」だ。
「……ドラゴン・ブレスの連発は身体への負担が大きいのか。先に聞いておいて良かったよ。ヴァスケルに無茶なお願いをするところだった」
「勘弁しておくれよー! でも、リューキがどうしてもって言うんなら、あたい頑張るけどさ。そんなことより、干し肉お代わり!」
収納袋から「干し肉」こと「ビーフジャーキー」の袋を取り出す。
タナカ商会で貰ってきた特売品だ。
袋の口を開け、短冊状で厚みのある肉片をつかむ。
あーん、とばかりに開いたヴァスケルの口に、ひと切れをそっと入れてやる。
姐さんヴァスケルは嬉しそうにもぐもぐと食べる。
むにゅむにゅと動く真っ赤な唇は、肉感的で色っぽい。
ん? なんで俺がメシを食べさせているかって?
そりゃあ、ヴァスケルの両手が俺でふさがっているからさ。
ていうか、粋な姐さんに「お代わり!」なんてお願いされると、妙にくすぐったい感じがするな。
これってもしかして新境地開拓か?
うむ、魔界ってスバラしい。
いや、魔界は別に関係ないか。はは。
「この干し肉は、ホント美味いねえ。いくらでも食べられるよ」
「気に入ったんなら、お土産に持って帰るか。ついでに、タナカさんに頼んで違うメーカーのビーフジャーキーも揃えてもらおう。いつかみんなで食べ比べするのも面白いかもな」
「食べ比べだって!? 楽しそうじゃないか! 絶対にあたいを仲間外れにするんじゃないよ!!」
「もちろん分かってるさ!」
ヴァスケルは乙女の心を宿しているが、そのまんまの意味での肉食系女子。
ビーフジャーキーにいろんな種類があると聞き、大きな瞳をキラキラ輝かせる。
この感じならA5ランクの肉なんかを用意した日には、涙を流して喜んでくれるんじゃなかろうか? 俺も食べたことないけどさ。ははは。
よし、いつか美味い肉を喰って、一緒に泣いてやろうじゃないか!
喉の渇きを覚えたヴァスケルに、ペットボトルのミネラルウォーターを与える。
ビーフジャーキーを食べさせるより、水を飲ませる方が難易度は高い。
あんのじょう、ヴァスケルの口元から水がひと筋流れてしまう。
俺は、両手がふさがっているヴァスケルの代わりに、濡れた頬や顎をハンカチで拭いてやる。
肉感的な唇に触れた指先が、ぷりん!と弾き返される。
あまりにも心地良い感触に、俺は悪戯心が芽生えてしまう。
「リューキ、ありがとよ!」
「水、もっと飲みなよ」
「え? あたい別に……ぐぶぉっ! ちょっ、待ってぇ!」
ヴァスケルの返答を待たずに、俺は水を飲ませようとする。
おおっと! 手が滑って水をこぼしちまったぜ!
てへへ、仕方ないな。
俺は、水に濡れたヴァスケルの顔を拭いてやる。
ぷりんぷりんな唇は念入りにぬぐう。
「リュ、リューキ! やめておくれよ! あたいの顔で遊ぶんじゃないよ!」
「遊びじゃない! 俺はいつだって本気だ!」
まるで、不倫相手を口先で諭すような言い方をしてしまう。
でも、さすがにヤリすぎですかね。
えろうすんません。
「リューキ。もう、いいかい?」
「ああ、たっぷり堪能し……いや、顔にかかった水はキレイにふき取ったよ」
「ま、なんでもいいけどね。で、他に知りたいことはあるかい?」
俺の悪戯に怒ることもなく、ヴァスケルが話を元に戻そうとする。
おお、なんという懐の広い姐さんだ!
俺は自分のおかしな振る舞いをチョットだけ恥じながら、ナニ事もなかったかのように質問を再開する。
「ヴァスケルは風の結界を張ってるけど、他にも魔法を使えるのか?」
「魔法だって? リューキはまたまたおかしなことを言うねえ。あたい、魔法なんて使えないよ」
「魔法じゃない? じゃあ、風の結界ってのはなんだ?」
「精霊の加護さ。古龍のあたいは、生まれたときから炎の精霊、風の精霊、土の精霊から加護を受けてるのさ」
「すると、風の結界は風の精霊のおかげか。風の精霊といえば、白磁の塔の防衛戦で世話になったミネアやデボネアがいたけど、あんな感じのかわいらしい小妖精たちが手助けしてくれてるのか?」
おっとりした感じのミネアと活発でイタズラ好きなデボネアの名前を出した途端、俺たちの周りを包む空気がほのかに温かくなる。
「おや、風の精霊たちが喜んでるね」
「そうなのか? ミネアやデボネアの知り合いでもいるのかな?」
ヴァスケルは俺の問いに答える代わりに、俺の真横、何もない宙に顔を向ける。
「……なるほど、分かったよ。リューキには内緒にしといてやるよ」
「ヴァスケル、風の精霊と何か話したのか? てか、何で俺に内緒なんだ?」
ヴァスケルは俺に向き直る。
笑いを堪えるような顔で、俺の問いに答える。
「理由を言えないから内緒なんだよ! それくらい分かっておくれよ!」
ヴァスケルが当たり前のように言う。
どうにも風の精霊との会話の内容は教えてくれないらしい。
くっ、意地悪さんだ。
さっき悪戯した仕返しか?
じゃあ仕方ないね。
はい、何も言い返せません。
「リューキも精霊の祝福を受ければ精霊たちの姿が見えるようになるし、話も聞き取れるようになる。精々頑張んな!」
ヴァスケルが風の精霊と対面する方向に視線を向けるが、何も見えない。
そこに精霊がいるはずだが、存在を認識できない。
なんか悔しいので、さも彼らが見えるかのようなフリをして、にこやかに手を振ってみる。
「あはは! リューキは面白いねえ! 風の精霊たちが驚いてるよ!」
「そうか。よろしく伝えておいてくれ」
なにがどうよろしくかはさておき、俺はテキトーに答えておく。
直後、俺たちの周りの空気が、再び温かくなる。
たぶん風の精霊たちも笑ったんだろう。
「そういえば、ヴァスケルは水の精霊の加護は受けていないんだ」
「あたいは火龍だからね。水の精霊がそばにいると、逆に体力を消耗しちまうのさ。だから、どうしても水の精霊に頼みがあるときは、ほかの精霊たちに呼んできて貰うのさ」
ヴァスケルがオーデル村の火災を鎮火させたのを思い出す。
あのとき、ヴァスケルは雨を降らせるのに時間がかかった上に、ヘトヘトに疲れ果てた。
いまの説明を聞いて、ようやく何が起きていたのか理解できた。
「精霊は『炎』、『風』、『土』、『水』の四属性だけなのか?」
「四大精霊のほかにもいるよ。『光』や『闇』なんてのもね。メジャーな四大精霊以外は社交的でないから、あたいも詳しくは知らないけどさ」
「祝福を受けると、俺もヴァスケルの『風の結界』みたいなことができるようになるのか?」
「もちろんさ! ただ、精霊によってできることは違うけどね」
これは良い話を聞いた!
精霊さんと仲良くなれば、色々と助かりそうだ。
是非とも、たくさんの精霊さんたちとお近づきになりたいものだ。
「なんだか楽しみになって来たよ。祝福してくれた精霊は、呼べばすぐに来てくれるのか?」
「来てくれるどころじゃないさ。あんたの守護精霊になるんだよ。リューキの身体を憑代にして、あんたが生きてる限り護ってくれるのさ」
不死の精霊に生涯護られるのか。
なんだか話が大きくなってきた。
「精霊はトイレにもついてくるのか?」と、おかしな心配した俺とは、スケールの大きさが段違いだな。
「リューキ、見えて来たよ。プエルト・ガレラの街だ」
ヴァスケルに促されて眼下の街を見る。
エメラルドブルーの海に面した、こじんまりとした街がある。
海上にはプレジャーボートから、いかにもな感じの豪華ヨットやクルーザーが浮かんでいる。
タナカ商会から貰ってきた腕時計を見る。
時刻は午後四時少し前。
日本とフィリピンの時差は一時間だから、現地時間は午後三時くらい。
まだ陽が落ちるまでは十分時間がある。
権藤剛蔵の強奪したクルーザーを探す時間はたっぷりある。
人目を避け、俺たちはプエルト・ガレラ郊外の山の中にそっと着地した。
さて、金貨を取り戻しに行こうか。
眼下には大小様々な島が見える。
日本を離れて四時間あまり、俺たちは遂にフィリピン上空に到達した。
目的地のプエルト・ガレラに近づき、姐さんヴァスケルは高度を下げはじめる。
俺は相変わらず、お姫様抱っこされている。
いろいろあったが、概ね快適な空の旅だったと思う。
そんな状況下で、俺はヴァスケルに質問しまくっている。
尋ねるのは、俺が知らない魔界の「常識」だ。
「……ドラゴン・ブレスの連発は身体への負担が大きいのか。先に聞いておいて良かったよ。ヴァスケルに無茶なお願いをするところだった」
「勘弁しておくれよー! でも、リューキがどうしてもって言うんなら、あたい頑張るけどさ。そんなことより、干し肉お代わり!」
収納袋から「干し肉」こと「ビーフジャーキー」の袋を取り出す。
タナカ商会で貰ってきた特売品だ。
袋の口を開け、短冊状で厚みのある肉片をつかむ。
あーん、とばかりに開いたヴァスケルの口に、ひと切れをそっと入れてやる。
姐さんヴァスケルは嬉しそうにもぐもぐと食べる。
むにゅむにゅと動く真っ赤な唇は、肉感的で色っぽい。
ん? なんで俺がメシを食べさせているかって?
そりゃあ、ヴァスケルの両手が俺でふさがっているからさ。
ていうか、粋な姐さんに「お代わり!」なんてお願いされると、妙にくすぐったい感じがするな。
これってもしかして新境地開拓か?
うむ、魔界ってスバラしい。
いや、魔界は別に関係ないか。はは。
「この干し肉は、ホント美味いねえ。いくらでも食べられるよ」
「気に入ったんなら、お土産に持って帰るか。ついでに、タナカさんに頼んで違うメーカーのビーフジャーキーも揃えてもらおう。いつかみんなで食べ比べするのも面白いかもな」
「食べ比べだって!? 楽しそうじゃないか! 絶対にあたいを仲間外れにするんじゃないよ!!」
「もちろん分かってるさ!」
ヴァスケルは乙女の心を宿しているが、そのまんまの意味での肉食系女子。
ビーフジャーキーにいろんな種類があると聞き、大きな瞳をキラキラ輝かせる。
この感じならA5ランクの肉なんかを用意した日には、涙を流して喜んでくれるんじゃなかろうか? 俺も食べたことないけどさ。ははは。
よし、いつか美味い肉を喰って、一緒に泣いてやろうじゃないか!
喉の渇きを覚えたヴァスケルに、ペットボトルのミネラルウォーターを与える。
ビーフジャーキーを食べさせるより、水を飲ませる方が難易度は高い。
あんのじょう、ヴァスケルの口元から水がひと筋流れてしまう。
俺は、両手がふさがっているヴァスケルの代わりに、濡れた頬や顎をハンカチで拭いてやる。
肉感的な唇に触れた指先が、ぷりん!と弾き返される。
あまりにも心地良い感触に、俺は悪戯心が芽生えてしまう。
「リューキ、ありがとよ!」
「水、もっと飲みなよ」
「え? あたい別に……ぐぶぉっ! ちょっ、待ってぇ!」
ヴァスケルの返答を待たずに、俺は水を飲ませようとする。
おおっと! 手が滑って水をこぼしちまったぜ!
てへへ、仕方ないな。
俺は、水に濡れたヴァスケルの顔を拭いてやる。
ぷりんぷりんな唇は念入りにぬぐう。
「リュ、リューキ! やめておくれよ! あたいの顔で遊ぶんじゃないよ!」
「遊びじゃない! 俺はいつだって本気だ!」
まるで、不倫相手を口先で諭すような言い方をしてしまう。
でも、さすがにヤリすぎですかね。
えろうすんません。
「リューキ。もう、いいかい?」
「ああ、たっぷり堪能し……いや、顔にかかった水はキレイにふき取ったよ」
「ま、なんでもいいけどね。で、他に知りたいことはあるかい?」
俺の悪戯に怒ることもなく、ヴァスケルが話を元に戻そうとする。
おお、なんという懐の広い姐さんだ!
俺は自分のおかしな振る舞いをチョットだけ恥じながら、ナニ事もなかったかのように質問を再開する。
「ヴァスケルは風の結界を張ってるけど、他にも魔法を使えるのか?」
「魔法だって? リューキはまたまたおかしなことを言うねえ。あたい、魔法なんて使えないよ」
「魔法じゃない? じゃあ、風の結界ってのはなんだ?」
「精霊の加護さ。古龍のあたいは、生まれたときから炎の精霊、風の精霊、土の精霊から加護を受けてるのさ」
「すると、風の結界は風の精霊のおかげか。風の精霊といえば、白磁の塔の防衛戦で世話になったミネアやデボネアがいたけど、あんな感じのかわいらしい小妖精たちが手助けしてくれてるのか?」
おっとりした感じのミネアと活発でイタズラ好きなデボネアの名前を出した途端、俺たちの周りを包む空気がほのかに温かくなる。
「おや、風の精霊たちが喜んでるね」
「そうなのか? ミネアやデボネアの知り合いでもいるのかな?」
ヴァスケルは俺の問いに答える代わりに、俺の真横、何もない宙に顔を向ける。
「……なるほど、分かったよ。リューキには内緒にしといてやるよ」
「ヴァスケル、風の精霊と何か話したのか? てか、何で俺に内緒なんだ?」
ヴァスケルは俺に向き直る。
笑いを堪えるような顔で、俺の問いに答える。
「理由を言えないから内緒なんだよ! それくらい分かっておくれよ!」
ヴァスケルが当たり前のように言う。
どうにも風の精霊との会話の内容は教えてくれないらしい。
くっ、意地悪さんだ。
さっき悪戯した仕返しか?
じゃあ仕方ないね。
はい、何も言い返せません。
「リューキも精霊の祝福を受ければ精霊たちの姿が見えるようになるし、話も聞き取れるようになる。精々頑張んな!」
ヴァスケルが風の精霊と対面する方向に視線を向けるが、何も見えない。
そこに精霊がいるはずだが、存在を認識できない。
なんか悔しいので、さも彼らが見えるかのようなフリをして、にこやかに手を振ってみる。
「あはは! リューキは面白いねえ! 風の精霊たちが驚いてるよ!」
「そうか。よろしく伝えておいてくれ」
なにがどうよろしくかはさておき、俺はテキトーに答えておく。
直後、俺たちの周りの空気が、再び温かくなる。
たぶん風の精霊たちも笑ったんだろう。
「そういえば、ヴァスケルは水の精霊の加護は受けていないんだ」
「あたいは火龍だからね。水の精霊がそばにいると、逆に体力を消耗しちまうのさ。だから、どうしても水の精霊に頼みがあるときは、ほかの精霊たちに呼んできて貰うのさ」
ヴァスケルがオーデル村の火災を鎮火させたのを思い出す。
あのとき、ヴァスケルは雨を降らせるのに時間がかかった上に、ヘトヘトに疲れ果てた。
いまの説明を聞いて、ようやく何が起きていたのか理解できた。
「精霊は『炎』、『風』、『土』、『水』の四属性だけなのか?」
「四大精霊のほかにもいるよ。『光』や『闇』なんてのもね。メジャーな四大精霊以外は社交的でないから、あたいも詳しくは知らないけどさ」
「祝福を受けると、俺もヴァスケルの『風の結界』みたいなことができるようになるのか?」
「もちろんさ! ただ、精霊によってできることは違うけどね」
これは良い話を聞いた!
精霊さんと仲良くなれば、色々と助かりそうだ。
是非とも、たくさんの精霊さんたちとお近づきになりたいものだ。
「なんだか楽しみになって来たよ。祝福してくれた精霊は、呼べばすぐに来てくれるのか?」
「来てくれるどころじゃないさ。あんたの守護精霊になるんだよ。リューキの身体を憑代にして、あんたが生きてる限り護ってくれるのさ」
不死の精霊に生涯護られるのか。
なんだか話が大きくなってきた。
「精霊はトイレにもついてくるのか?」と、おかしな心配した俺とは、スケールの大きさが段違いだな。
「リューキ、見えて来たよ。プエルト・ガレラの街だ」
ヴァスケルに促されて眼下の街を見る。
エメラルドブルーの海に面した、こじんまりとした街がある。
海上にはプレジャーボートから、いかにもな感じの豪華ヨットやクルーザーが浮かんでいる。
タナカ商会から貰ってきた腕時計を見る。
時刻は午後四時少し前。
日本とフィリピンの時差は一時間だから、現地時間は午後三時くらい。
まだ陽が落ちるまでは十分時間がある。
権藤剛蔵の強奪したクルーザーを探す時間はたっぷりある。
人目を避け、俺たちはプエルト・ガレラ郊外の山の中にそっと着地した。
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