上 下
45 / 90
<フリーター籠城編> ~神紙の使い手 エル姫登場~

第四十三話:フリーター、婿になる

しおりを挟む
 白磁はくじの塔の一階。
 俺は、女騎士ナイトエリカ・ヤンセンに思わぬ話を打ちあけられてしまう。

「俺が払う代償とはなんだ?」
「私と同じだそうです」
「エリカと同じ? どういう意味だ?」
「私と同じく、ジーナ様の生命いのちまもるため、一生を捧げなければならないのです」

 はい? 
 えと、その、言葉の意味がよく理解できないんだが……

「なぜそうなる?」
「『鉄の処女イゼルネ・ユンフラウ』はジーナ様の生命いのちまもるために存在しています。契約の代償に、ジーナ様の保護を求めてくるのは不思議ではありません」
「ホントに、俺は生涯かけてジーナをまもり続けなきゃいけないのか?」
「はい。申し訳ございません。私を助けたばかりに、このようなことに……」

 俺はこの世界で生涯を終えてもいいと思いはじめていた。
 城のローンを払い終えたあとも、元の世界に戻らなくて良いと考えはじめていた。

 けど、それはエリカが俺のそばにいてくれて、領主ロードの立場もあるからであって……

 決して、ジーナのおりをするためではない。

畜生ガッディイーーム!」
 
 俺は自分のおかしな運命を呪った。

「ちと、聞いてよいかのう? いや、話を盗み聞きしたわけではないのじゃが」

 計ったようなタイミングで、エル姫が螺旋らせん階段を降りてくる。
 きまりが悪そうな顔をしつつも、躊躇ちゅうちょなく近寄ってきた。

「姫様。これは私たちの問題、口出しは無用に願います」
女騎士ナイトエリカよ、そう邪険にするな。わらわは神器しんきの専門家じゃ。遅かれ早かれ疑問を感じて、おぬしにただしていたであろうぞ」
「エル。何を言いたいんだ?」
女騎士ナイトエリカは、すべてを説明しておらぬということじゃ」

 エル姫に指摘され、女騎士ナイトエリカ・ヤンセンはうつむく。
 彼女の口から言葉は出てこない。
 
 どうやらエリカはかくごとをしていたようだ。
 だまされたとは思わないが、俺は少なからずショックを受けた。

「エリカ。領主ロードとしてお前に問う。俺に話していないことがあるか?」
我が領主マイ・ロード……あります」
「今度は領主ロードではなく、ただのリューキとして頼む。正直に話してくれないか」
「……わかりました。私が黙っていたのは、『神器しんきとの契約解除』の方法です」

 女騎士ナイトエリカが白状する。
 ただ、正直言って、わざわざ隠すような内容とは思えなかった。

呪器じゅきの束縛から解放される方法か! 教えてくれ、何をすればいいんだ?」
「契約を仲介した者が、契約解除を宣言すれば良いのです」
「それだけ? で、契約を仲介した者って誰だ?」
「ジーナ様のお父上、ギルガルド・ワーグナー卿です」
「ジーナの親父さんか。てか、もう亡くなっているじゃないか」
我が領主マイ・ロード、その通りです」

 エリカの話を聞き、俺は落胆する。
 この世にいない者に頼み事をするのは不可能だ。

「じゃが、『仲介者』の役割は後継者に引き継がれるはずであろう?」
「姫様のおっしゃる通りです。ただし、神器しんきが後継者と認める者がいればですが……」
「ワーグナー家の後継ぎはジーナであろう? 従妹いとこのジーナではダメなのか?」
「『鉄の処女イゼルネ・ユンフラウ』は後継者の資格として、ギルガルド・ワーグナー卿と同等の力量を要求しています。ワーグナー家当主の立場と公爵の権威に相応しい領土です。対して、ジーナ様はお優しい性格ゆえ、いくさに向いておりません。領土を奪還するどころか維持もできず、ついには無領地貴族ランドレス・フルストとなってしまわれたくらいです」
「これ以上、ジーナを戦場に立たせるのはかわいそうだと言いたいのじゃな? であれば、ジーナが婿むこを取るのはどうじゃ? 落魄らくはくしたとはいえ、公爵家ならば縁談の話もあるじゃろう」
「大貴族との縁組の話はいくつかありましたが、いずれの殿方も私を神器しんきの呪縛から解放するつもりのない方でした。なにしろ私は神器しんきまとった戦闘兵器。手放すのが惜しかったようです……結局、ジーナ様はすべての話をお断りされました」
従妹いとこ殿はエリカを大事にしておるのじゃな。優しすぎて貴族らしからぬ性格じゃが、わらわはジーナを心底好きになったぞよ。よう|うてみたいものじゃ」

 大きなメガネの小さな微女びじょが、うんうんとうなずく。
 ちらりと俺に目を向け、思い出したかのようにニヤリと笑う。

女騎士ナイトエリカよ。ここにおるではないか」
「姫様? 誰がですか?」
「かつての領土を奪還できる力を持つ上に、おぬしを神器しんきの束縛から解放してくれる男じゃ。思うに、ジーナはリューキを婿むこに迎えるのを拒絶しないであろう」
「エル! ちょっと待て! 俺に、ワーグナー家に婿むこ入りしろというのか?」
「そうじゃ。安心するがよい。公爵家の当主ともなれば、第二夫人どころか、めかけや愛人が何人いてもおかしくない。まあ、婿むこに入るのだから、第一夫人はジーナで決定じゃな。女騎士ナイトエリカは第二夫人で異存は無かろう?」
「わ、わ、わ、私は、その、あの!」
「なんじゃ? 第一夫人でないと不満か? それともリューキが嫌いか?」
「不満はありませんし、リューキ殿のことはお慕い申しております! ふえっ! 姫様、なんてこと言わせるのですか!?」
「では、決まりじゃな。リューキよ、頑張って領土を取り返すのじゃぞ!」

 なんだろう……俺は三文芝居でも見ているのだろうか?
 主演:俺、ヒロイン:エリカとジーナ、脚本:エル姫ってとこか。
 俺の人生設計が定まりつつある気がする。
 うん、あとは実践じっせんあるのみだね! 
 いやいや、違うだろう?
 俺にも意見を言わせてくれよ!!

女騎士ナイトエリカ・ヤンセン。エル姫は、あんなこと言っているが……」
我が領主マイ・ロード。実は我がヤンセン家には、ワーグナーの血がわずかに流れております」
「え? そうなの?」
「ヤンセン家の始祖は、初代ワーグナー卿の第三夫人でもある女騎士ナイトです。願わくば、私たちの間に生まれてくる子どもをヤンセン家の騎士ナイトとして育てることをお許し下さい!」
女騎士ナイトエリカよ。まだ神器しんきの束縛が解かれてもおらぬのに、いささか気が早くないかのう?」
「あああ! いやー、私ったら!!!」

 エル姫に冷静な指摘を受けた女騎士ナイトエリカ・ヤンセンは、イヤイヤを始める。
 今日はいつもより激しい動き。
 下手に止めようとすれば、弾き飛ばされそう。
 うむ……一度回り始めた運命の歯車は止められないようだね。

 それにしても、なんという前向きな発言だ。
 俺とエリカの子どもって……
 
「わらわは第三夫人かのう」とつぶやく声がする。
 誰が言ったかなんて説明は不要だな。
 どさくさに紛れてなんてこと言うんだ。
 いいさ、この際まとめて面倒を見てやるさ。

 ははは……

 俺は自分のおかしな運命を笑った。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

ローゼンクランツ王国再興記 〜前王朝の最高傑作が僕の内に宿る事を知る者は誰もいない〜

神崎水花
ファンタジー
暗澹たる世に一筋の光明たるが如く現れた1人の青年。 ローゼリア伯フランツの嫡子アレクス。 本を読むのが大好きな優しい男の子でした。 ある不幸な出来事で悲しい結末を迎えますが、女神シュマリナ様の奇跡により彼の中に眠るもう1人のアレク『シア』が目覚めます。 前世も今世も裏切りにより両親を討たれ、自身の命も含め全てを失ってしまう彼達ですが、その辛く悲しい生い立ちが人が生きる世の惨たらしさを、救いの無い世を変えてやるんだと決意し、起たせることに繋がります。   暗澹たる世を打ち払い暗黒の中世に終止符を打ち、人の有り様に変革を遂げさせる『小さくも大きな一歩』を成し遂げた偉大なる王への道を、真っすぐに駆け上る青年と、彼に付き従い時代を綺羅星の如く駆け抜けた英雄達の生き様をご覧ください。 神崎水花です。 デビュー作を手に取って下さりありがとうございます。 ほんの少しでも面白い、続きが読みたい、または挿絵頑張ってるねと思って頂けましたら 作品のお気に入り登録や♥のご評価頂けますと嬉しいです。 皆様が思うよりも大きな『励み』になっています。どうか応援よろしくお願いいたします。 *本作品に使用されるテキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。 *本作品に使用される挿絵ですが、作者が1枚1枚AIを用い生成と繰り返し調整しています。  ただ服装や装備品の再現性が難しく統一できていません。  服装、装備品に関しては参考程度に見てください。よろしくお願いします。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

処理中です...