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<フリーター籠城編> ~神紙の使い手 エル姫登場~
第四十三話:フリーター、婿になる
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白磁の塔の一階。
俺は、女騎士エリカ・ヤンセンに思わぬ話を打ちあけられてしまう。
「俺が払う代償とはなんだ?」
「私と同じだそうです」
「エリカと同じ? どういう意味だ?」
「私と同じく、ジーナ様の生命を護るため、一生を捧げなければならないのです」
はい?
えと、その、言葉の意味がよく理解できないんだが……
「なぜそうなる?」
「『鉄の処女』はジーナ様の生命を護るために存在しています。契約の代償に、ジーナ様の保護を求めてくるのは不思議ではありません」
「ホントに、俺は生涯かけてジーナを護り続けなきゃいけないのか?」
「はい。申し訳ございません。私を助けたばかりに、このようなことに……」
俺はこの世界で生涯を終えてもいいと思いはじめていた。
城のローンを払い終えたあとも、元の世界に戻らなくて良いと考えはじめていた。
けど、それはエリカが俺の傍にいてくれて、領主の立場もあるからであって……
決して、ジーナのお守りをするためではない。
「畜生!」
俺は自分のおかしな運命を呪った。
「ちと、聞いてよいかのう? いや、話を盗み聞きしたわけではないのじゃが」
計ったようなタイミングで、エル姫が螺旋階段を降りてくる。
きまりが悪そうな顔をしつつも、躊躇なく近寄ってきた。
「姫様。これは私たちの問題、口出しは無用に願います」
「女騎士エリカよ、そう邪険にするな。わらわは神器の専門家じゃ。遅かれ早かれ疑問を感じて、おぬしに問い質していたであろうぞ」
「エル。何を言いたいんだ?」
「女騎士エリカは、すべてを説明しておらぬということじゃ」
エル姫に指摘され、女騎士エリカ・ヤンセンは俯く。
彼女の口から言葉は出てこない。
どうやらエリカは隠し事をしていたようだ。
騙されたとは思わないが、俺は少なからずショックを受けた。
「エリカ。領主としてお前に問う。俺に話していないことがあるか?」
「我が領主……あります」
「今度は領主ではなく、ただのリューキとして頼む。正直に話してくれないか」
「……わかりました。私が黙っていたのは、『神器との契約解除』の方法です」
女騎士エリカが白状する。
ただ、正直言って、わざわざ隠すような内容とは思えなかった。
「呪器の束縛から解放される方法か! 教えてくれ、何をすればいいんだ?」
「契約を仲介した者が、契約解除を宣言すれば良いのです」
「それだけ? で、契約を仲介した者って誰だ?」
「ジーナ様のお父上、ギルガルド・ワーグナー卿です」
「ジーナの親父さんか。てか、もう亡くなっているじゃないか」
「我が領主、その通りです」
エリカの話を聞き、俺は落胆する。
この世にいない者に頼み事をするのは不可能だ。
「じゃが、『仲介者』の役割は後継者に引き継がれるはずであろう?」
「姫様の仰る通りです。ただし、神器が後継者と認める者がいればですが……」
「ワーグナー家の後継ぎはジーナであろう? 従妹のジーナではダメなのか?」
「『鉄の処女』は後継者の資格として、ギルガルド・ワーグナー卿と同等の力量を要求しています。ワーグナー家当主の立場と公爵の権威に相応しい領土です。対して、ジーナ様はお優しい性格ゆえ、戦に向いておりません。領土を奪還するどころか維持もできず、ついには無領地貴族となってしまわれたくらいです」
「これ以上、ジーナを戦場に立たせるのはかわいそうだと言いたいのじゃな? であれば、ジーナが婿を取るのはどうじゃ? 落魄したとはいえ、公爵家ならば縁談の話もあるじゃろう」
「大貴族との縁組の話はいくつかありましたが、いずれの殿方も私を神器の呪縛から解放するつもりのない方でした。なにしろ私は神器を纏った戦闘兵器。手放すのが惜しかったようです……結局、ジーナ様はすべての話をお断りされました」
「従妹殿はエリカを大事にしておるのじゃな。優しすぎて貴族らしからぬ性格じゃが、わらわはジーナを心底好きになったぞよ。早よう|会うてみたいものじゃ」
大きなメガネの小さな微女が、うんうんと頷く。
ちらりと俺に目を向け、思い出したかのようにニヤリと笑う。
「女騎士エリカよ。ここにおるではないか」
「姫様? 誰がですか?」
「かつての領土を奪還できる力を持つ上に、おぬしを神器の束縛から解放してくれる男じゃ。思うに、ジーナはリューキを婿に迎えるのを拒絶しないであろう」
「エル! ちょっと待て! 俺に、ワーグナー家に婿入りしろというのか?」
「そうじゃ。安心するがよい。公爵家の当主ともなれば、第二夫人どころか、妾や愛人が何人いてもおかしくない。まあ、婿に入るのだから、第一夫人はジーナで決定じゃな。女騎士エリカは第二夫人で異存は無かろう?」
「わ、わ、わ、私は、その、あの!」
「なんじゃ? 第一夫人でないと不満か? それともリューキが嫌いか?」
「不満はありませんし、リューキ殿のことはお慕い申しております! ふえっ! 姫様、なんてこと言わせるのですか!?」
「では、決まりじゃな。リューキよ、頑張って領土を取り返すのじゃぞ!」
なんだろう……俺は三文芝居でも見ているのだろうか?
主演:俺、ヒロイン:エリカとジーナ、脚本:エル姫ってとこか。
俺の人生設計が定まりつつある気がする。
うん、あとは実践あるのみだね!
いやいや、違うだろう?
俺にも意見を言わせてくれよ!!
「女騎士エリカ・ヤンセン。エル姫は、あんなこと言っているが……」
「我が領主。実は我がヤンセン家には、ワーグナーの血が僅かに流れております」
「え? そうなの?」
「ヤンセン家の始祖は、初代ワーグナー卿の第三夫人でもある女騎士です。願わくば、私たちの間に生まれてくる子どもをヤンセン家の騎士として育てることをお許し下さい!」
「女騎士エリカよ。まだ神器の束縛が解かれてもおらぬのに、いささか気が早くないかのう?」
「あああ! いやー、私ったら!!!」
エル姫に冷静な指摘を受けた女騎士エリカ・ヤンセンは、イヤイヤを始める。
今日はいつもより激しい動き。
下手に止めようとすれば、弾き飛ばされそう。
うむ……一度回り始めた運命の歯車は止められないようだね。
それにしても、なんという前向きな発言だ。
俺とエリカの子どもって……
「わらわは第三夫人かのう」とつぶやく声がする。
誰が言ったかなんて説明は不要だな。
どさくさに紛れてなんてこと言うんだ。
いいさ、この際まとめて面倒を見てやるさ。
ははは……
俺は自分のおかしな運命を笑った。
俺は、女騎士エリカ・ヤンセンに思わぬ話を打ちあけられてしまう。
「俺が払う代償とはなんだ?」
「私と同じだそうです」
「エリカと同じ? どういう意味だ?」
「私と同じく、ジーナ様の生命を護るため、一生を捧げなければならないのです」
はい?
えと、その、言葉の意味がよく理解できないんだが……
「なぜそうなる?」
「『鉄の処女』はジーナ様の生命を護るために存在しています。契約の代償に、ジーナ様の保護を求めてくるのは不思議ではありません」
「ホントに、俺は生涯かけてジーナを護り続けなきゃいけないのか?」
「はい。申し訳ございません。私を助けたばかりに、このようなことに……」
俺はこの世界で生涯を終えてもいいと思いはじめていた。
城のローンを払い終えたあとも、元の世界に戻らなくて良いと考えはじめていた。
けど、それはエリカが俺の傍にいてくれて、領主の立場もあるからであって……
決して、ジーナのお守りをするためではない。
「畜生!」
俺は自分のおかしな運命を呪った。
「ちと、聞いてよいかのう? いや、話を盗み聞きしたわけではないのじゃが」
計ったようなタイミングで、エル姫が螺旋階段を降りてくる。
きまりが悪そうな顔をしつつも、躊躇なく近寄ってきた。
「姫様。これは私たちの問題、口出しは無用に願います」
「女騎士エリカよ、そう邪険にするな。わらわは神器の専門家じゃ。遅かれ早かれ疑問を感じて、おぬしに問い質していたであろうぞ」
「エル。何を言いたいんだ?」
「女騎士エリカは、すべてを説明しておらぬということじゃ」
エル姫に指摘され、女騎士エリカ・ヤンセンは俯く。
彼女の口から言葉は出てこない。
どうやらエリカは隠し事をしていたようだ。
騙されたとは思わないが、俺は少なからずショックを受けた。
「エリカ。領主としてお前に問う。俺に話していないことがあるか?」
「我が領主……あります」
「今度は領主ではなく、ただのリューキとして頼む。正直に話してくれないか」
「……わかりました。私が黙っていたのは、『神器との契約解除』の方法です」
女騎士エリカが白状する。
ただ、正直言って、わざわざ隠すような内容とは思えなかった。
「呪器の束縛から解放される方法か! 教えてくれ、何をすればいいんだ?」
「契約を仲介した者が、契約解除を宣言すれば良いのです」
「それだけ? で、契約を仲介した者って誰だ?」
「ジーナ様のお父上、ギルガルド・ワーグナー卿です」
「ジーナの親父さんか。てか、もう亡くなっているじゃないか」
「我が領主、その通りです」
エリカの話を聞き、俺は落胆する。
この世にいない者に頼み事をするのは不可能だ。
「じゃが、『仲介者』の役割は後継者に引き継がれるはずであろう?」
「姫様の仰る通りです。ただし、神器が後継者と認める者がいればですが……」
「ワーグナー家の後継ぎはジーナであろう? 従妹のジーナではダメなのか?」
「『鉄の処女』は後継者の資格として、ギルガルド・ワーグナー卿と同等の力量を要求しています。ワーグナー家当主の立場と公爵の権威に相応しい領土です。対して、ジーナ様はお優しい性格ゆえ、戦に向いておりません。領土を奪還するどころか維持もできず、ついには無領地貴族となってしまわれたくらいです」
「これ以上、ジーナを戦場に立たせるのはかわいそうだと言いたいのじゃな? であれば、ジーナが婿を取るのはどうじゃ? 落魄したとはいえ、公爵家ならば縁談の話もあるじゃろう」
「大貴族との縁組の話はいくつかありましたが、いずれの殿方も私を神器の呪縛から解放するつもりのない方でした。なにしろ私は神器を纏った戦闘兵器。手放すのが惜しかったようです……結局、ジーナ様はすべての話をお断りされました」
「従妹殿はエリカを大事にしておるのじゃな。優しすぎて貴族らしからぬ性格じゃが、わらわはジーナを心底好きになったぞよ。早よう|会うてみたいものじゃ」
大きなメガネの小さな微女が、うんうんと頷く。
ちらりと俺に目を向け、思い出したかのようにニヤリと笑う。
「女騎士エリカよ。ここにおるではないか」
「姫様? 誰がですか?」
「かつての領土を奪還できる力を持つ上に、おぬしを神器の束縛から解放してくれる男じゃ。思うに、ジーナはリューキを婿に迎えるのを拒絶しないであろう」
「エル! ちょっと待て! 俺に、ワーグナー家に婿入りしろというのか?」
「そうじゃ。安心するがよい。公爵家の当主ともなれば、第二夫人どころか、妾や愛人が何人いてもおかしくない。まあ、婿に入るのだから、第一夫人はジーナで決定じゃな。女騎士エリカは第二夫人で異存は無かろう?」
「わ、わ、わ、私は、その、あの!」
「なんじゃ? 第一夫人でないと不満か? それともリューキが嫌いか?」
「不満はありませんし、リューキ殿のことはお慕い申しております! ふえっ! 姫様、なんてこと言わせるのですか!?」
「では、決まりじゃな。リューキよ、頑張って領土を取り返すのじゃぞ!」
なんだろう……俺は三文芝居でも見ているのだろうか?
主演:俺、ヒロイン:エリカとジーナ、脚本:エル姫ってとこか。
俺の人生設計が定まりつつある気がする。
うん、あとは実践あるのみだね!
いやいや、違うだろう?
俺にも意見を言わせてくれよ!!
「女騎士エリカ・ヤンセン。エル姫は、あんなこと言っているが……」
「我が領主。実は我がヤンセン家には、ワーグナーの血が僅かに流れております」
「え? そうなの?」
「ヤンセン家の始祖は、初代ワーグナー卿の第三夫人でもある女騎士です。願わくば、私たちの間に生まれてくる子どもをヤンセン家の騎士として育てることをお許し下さい!」
「女騎士エリカよ。まだ神器の束縛が解かれてもおらぬのに、いささか気が早くないかのう?」
「あああ! いやー、私ったら!!!」
エル姫に冷静な指摘を受けた女騎士エリカ・ヤンセンは、イヤイヤを始める。
今日はいつもより激しい動き。
下手に止めようとすれば、弾き飛ばされそう。
うむ……一度回り始めた運命の歯車は止められないようだね。
それにしても、なんという前向きな発言だ。
俺とエリカの子どもって……
「わらわは第三夫人かのう」とつぶやく声がする。
誰が言ったかなんて説明は不要だな。
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ははは……
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