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<フリーター出撃編> ~守護龍ヴァスケル 覚醒する~
第十六話:エルメンルート姫、無駄遣いする
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「……それでエリカったら。わたしに渡すつもりの手紙を、間違えてリューキさまに渡しちゃって」
「もう、ジーナ様ったら、その話はやめてください!」
俺の寝床、予備の領主用寝室で目を覚ます。
正確には、俺が意識を取り戻してから五分以上経っている。
その間、俺はジーナとエリカの会話をずっと聞いている。
寝たふりをして、ベットの上の女子トークを盗み聞きしているわけではない。
うつぶせの状態で動けないだけだ。
そうとも、断じて聞き耳を立てているわけではない!
「リューキさまもスイーツ好きかと思ったら、ぜんぶエリカへのお土産だったのよね。もう、優しすぎ!」
「ジーナ様。実は私……感激して泣いちゃいました」
なにっ!? エリカはそんなに喜んでくれていたのか!
クールな女騎士エリカに、そんな女子らしい一面もあったのか。
うむ、嬉しい発見だ。
「あれ? リューキさまが目を覚ましたみたい。リューキさま、おはようございまーす! 真夜中ですけど」
腹ばいのままの俺からは顔は見えないが、ジーナが機嫌良くあいさつをしてくる。
十日以上も口をきいてくれなかったのが嘘のようだ。
うん、女子って分からない。
「ヴァスケル、お前も近くにいるか? また俺の魂を縛りつけたのか? 身体が動かないぞ!」
「あん? ああ……悪い悪い。いつものクセでね」
なぜか、俺の上から声が聞こえる。
急に背中の重圧がなくなり、俺の身体は自由になった。
うおっ! なんてこった!
俺は姐さんヴァスケルの豊満な臀部の下敷きになっていた。
いわゆる「尻に敷かれた」状態だ。
比喩表現ではない。実際の話だ。
どうりで背中が熱かったわけだ。
「ヴァスケル。俺は敷物じゃないぞ! ……てか、いつものクセってなんだ?」
「狩りの習性さ。エモノを捕まえたら、逃げられないようにするだろ?」
なるほどなるほど。
いうなれば、ライオンが強力な前脚でシマウマを押さえつけるようなものか。
それからガブリと……いやいや、喰われてはかなわん。
俺を尻に敷くのはいいが、ご飯にするのはやめてくれ。
いや、できれば尻に敷くのも勘弁してほしい。
「ヴァスケルさま、すごーい! 『ドラゴン・ライダー』に乗ったから、『ドラゴン・ライダー・ライダー』ね? わたし、ますます尊敬しちゃいます!」
ジーナ・ワーグナーが意味不明な称賛をする。
褒められた姐さんヴァスケルは鼻高々。
なぜ?
女騎士エリカ・ヤンセンが温かい目で俺たちを見つめる。
いや、俺をこのふたりと一緒にしないでくれ。
女子トークが再開される。
話題の提供は、専らジーナ・ワーグナー。
話す内容があっちにいったりこっちにいったりと、相変わらずまとまりがない。
けれど、ヴァスケルは嬉しそうに聞いている。
妹のとりとめのない話に耳を傾けるお姉さんのよう。
いや、姐さんか。
ヴァスケルが擬人化する龍とは知らなかったが、中味はヒトに近いと思った。
「ふあっ……失礼」
女騎士エリカが小さくあくびをする。
堪えきれず漏れてしまった感じのあくび。
ちょっとかわいい。
俺がじっと見つめてしまったので、エリカはイヤイヤしながら俯いてしまう。
うん、すごくかわいい!
「我が領主、そんなに見ないでください……」
「すまん、つい……、ていうか、エリカは疲れてるよな。この数日間、俺につきあって領内を歩き回ったもんな。てことで、みんな、解散! 話の続きは明日にしてくれ。俺も休みたい」
「はーい、わっかりましたー。わたしも寝まーす」
「そうかい。あたいも金庫の寝床に帰るよ」
みんな素直に俺の指示に従う。
尻に敷かれても領主の言葉には一定の重みがあるようだ。
絶対的な重みではない。
一定の重みだ。
「ヴァスケル、ちょっと待ってくれ。お前に頼みがある」
「ダ、ダ、ダメだ! 早すぎる! あんたが一人前になるまで卵はお預けだよ!」
姐さんヴァスケルが慌てる。
なぜか赤くなっている。
なにを照れてるのか分からないが、カン違いをしているようだ。
「俺の頼みというのはお前の身なりのことだ。ちょっと露出が多すぎる。これから先、他領の要人たちと会う機会も増える。もう少し控えめな衣装はないのか?」
「この格好はダメか? 若い男の新領主なら喜ぶと思ったんだけどね……」
ヴァスケルがしょんぼりする。
「てめえ! ウチの姐さんになんてこと言いやがる」と、組の若い衆に怒鳴られそうなくらい落ち込む。
あんのじょう、妹分(?)のジーナ・ワーグナーが口を開きかけたので、俺は慌てて弁明する。
「……嬉しいに決まってるじゃないか! けどな、ヴァスケルの美しい肌を、ほかの男には見られたくないんだよ」
言ってる自分が驚く。
よくもまあ、こんなセリフが出てくるもんだ。
我ながらあきれるやら、感心するやら。
「な、な、なんだって!? ……わかった! 独占欲が強いのは嫌いじゃないぞ! これならどうだ!」
ヴァスケルの白いドレスが輝く。
布地がみるみる広がる。
露出していた胸の谷間、鎖骨、肩、二の腕ばかりか、手首、足首まで覆い隠す。
ピチピチだったドレスのサイズもゆったりとしたものに代わり、見事なプロポーションを分からなくする。
便利な技だ。
これなら俺に身の回りの世話をする従者に見えないこともない。
「これで満足かい?」
「申しぶんない。では、明日からはその格好で頼む」
◇◇◇
翌日。
城の大広間にLDKが集まる。
ようやくLDKが揃った。
もちろんオーク・キングのグスタフ隊長も同席している。
俺を含めて、この五名がワーグナー城の中核を担うメンバーだ。
「ヴァスケル様、お久しぶりです。オレのことを覚えてますか?」
「忘れるはずはない。グスタフもずいぶんと貫録がついてきたな。おっと、いまではグスタフ隊長か。時がたつのは早いものだ」
「……あれから百年過ぎました。ヴァスケル様にとっては一瞬かもしれませんが、オレはすっかり中年のオヤジになりました。結婚し、息子がひとりできました。オルフェスって言う名のヤンチャ坊主で、手を焼いてます」
「ほう、一度会わせろ。顔を見てやろう」
「はい! 是非とも!」
グスタフ隊長が直立不動の体勢で答える。
おいおい、俺相手のときと随分違うじゃないか?
まあ、仕方ないか。
ヴァスケルは艶っぽい姐さんに見えるけど、中味は龍でいらっしゃるからな。
それよりも驚いたのは、グスタフの年齢だ。
守護龍が長生きなのはなんとなく分かるが、グスタフも百歳を超えていた。
なのに、まだ中年だという。
オークの寿命はどれほど長いのやら。
「我が領主、そろそろ会議を始めましょう。私が担当する人質受け入れの件から報告させて頂きます。今朝、ダゴダネルの使者が参りました。出立の準備に手間取っており、当城に到着するまで二月はかかるとのことです」
「二月? まあこちらは構わないが」
「我が領主、構わないどころか大助かりです。人質は、異国人とはいえ皇位に近い身分の姫君。住まいの準備から身の周りの細々としたものを揃えるまで時間がかかります」
「ふーん、そんなもんか」
人質受け入れは意外と面倒臭そう。
でもまあ、異国のお姫様も好き好んで辺境の山城に来るわけじゃない。
あまり邪険にしてはかわいそうだ。
うん、今日の俺はとっても寛大だね。
広い心で姫君を迎え入れてやろうじゃないか。
「我が領主……、それで、誠に申し上げにくいのですが、ダゴダネルの使者に同行した商人から請求書を渡されまして」
「請求書? なにを買ったんだ?」
思わず俺は、ジーナ・ワーグナーの方に視線を向けた。
ジーナは「ほえっ?」と腑抜けた顔をする。
なにも知らない様子。
なんだ、ジーナが無駄遣いをしたんじゃないのか。
疑ってすまんかった。条件反射のようなものさ。
よく考えたら、ダゴダネルの使者に同行した商人だ。
ジーナは関係ないか。
「我が領主。ダゴダネルの使者の話では、人質の姫君が購入した品々の代金とのことです。姫君の身柄が我らに移った以上、支払いもこちらになるとの主張です」
「困った姫君だな。で、いくらだ」
「その……これが請求書です」
女騎士エリカ・ヤンセンが、おずおずと紙の束を差し出してくる。
一枚二枚どころではない、結構な枚数。
すべての請求書の署名欄は同じ名前。『エルメンルート・ホラント』とある。
異国のお姫様の名前だろう。
勢いのある筆跡に意志の強さを感じる。
字体はすべてそろっており、几帳面な性分でもあるようだ。
だが、いま俺が知りたいのは姫君の性格ではない。
買い物にいくらかかったかだ。
――総額:二万五千G――
「ふおおっ、キリがいい! エルちゃんやりますわね!!」
ジーナ・ワーグナーが感嘆の声を上げる。
俺も一瞬だけ感心した。
が、重要なのはそこじゃない!
もう一度言う。そこじゃないんだ!!
「我が領主、人質のエルメンルート姫が『亡国の微女』と呼ばれる所以は、もしかして浪費癖にあるのでは……」
女騎士エリカがつぶやく。
彼女の意見に俺も賛同する。
賛同するが、声は出ない。
そう。コイツはヤバい。
「美女」か「微女」かは問題じゃない。
コイツを放っておけば、金が消える。
ローンが払えなくなる。
俺の生命がなくなってしまう。
金庫の金は一年は保つとタカをくくってたが、いきなり足元をすくわれた。
畜生!
城に到着するまで二月も待てるか! 先に金が尽きる!
すぐに無駄使いを止めさせなきゃ、俺は死んでしまう!
くっ……、わかった。向こうが来られないなら、こっちから行ってやる!
『亡国の微女』とやらを俺が迎えに行ってやる!
「ヴァスケル! お前の出番だ! 俺を乗せてダゴダネルの城へ飛べ!」
「なんだい……急に勇ましくなったねえ。あたい、あんたのことをますます気に入ったよ」
ヴァスケルの姐さんが俺にしなだれかかってくる。
正直、そんなことされてもいまは喜ぶ気分にはなれない。
が、押し返そうとしてもびくともしない。
まあいい。
俺はヴァスケルを好きなようにさせた。
「もう、ジーナ様ったら、その話はやめてください!」
俺の寝床、予備の領主用寝室で目を覚ます。
正確には、俺が意識を取り戻してから五分以上経っている。
その間、俺はジーナとエリカの会話をずっと聞いている。
寝たふりをして、ベットの上の女子トークを盗み聞きしているわけではない。
うつぶせの状態で動けないだけだ。
そうとも、断じて聞き耳を立てているわけではない!
「リューキさまもスイーツ好きかと思ったら、ぜんぶエリカへのお土産だったのよね。もう、優しすぎ!」
「ジーナ様。実は私……感激して泣いちゃいました」
なにっ!? エリカはそんなに喜んでくれていたのか!
クールな女騎士エリカに、そんな女子らしい一面もあったのか。
うむ、嬉しい発見だ。
「あれ? リューキさまが目を覚ましたみたい。リューキさま、おはようございまーす! 真夜中ですけど」
腹ばいのままの俺からは顔は見えないが、ジーナが機嫌良くあいさつをしてくる。
十日以上も口をきいてくれなかったのが嘘のようだ。
うん、女子って分からない。
「ヴァスケル、お前も近くにいるか? また俺の魂を縛りつけたのか? 身体が動かないぞ!」
「あん? ああ……悪い悪い。いつものクセでね」
なぜか、俺の上から声が聞こえる。
急に背中の重圧がなくなり、俺の身体は自由になった。
うおっ! なんてこった!
俺は姐さんヴァスケルの豊満な臀部の下敷きになっていた。
いわゆる「尻に敷かれた」状態だ。
比喩表現ではない。実際の話だ。
どうりで背中が熱かったわけだ。
「ヴァスケル。俺は敷物じゃないぞ! ……てか、いつものクセってなんだ?」
「狩りの習性さ。エモノを捕まえたら、逃げられないようにするだろ?」
なるほどなるほど。
いうなれば、ライオンが強力な前脚でシマウマを押さえつけるようなものか。
それからガブリと……いやいや、喰われてはかなわん。
俺を尻に敷くのはいいが、ご飯にするのはやめてくれ。
いや、できれば尻に敷くのも勘弁してほしい。
「ヴァスケルさま、すごーい! 『ドラゴン・ライダー』に乗ったから、『ドラゴン・ライダー・ライダー』ね? わたし、ますます尊敬しちゃいます!」
ジーナ・ワーグナーが意味不明な称賛をする。
褒められた姐さんヴァスケルは鼻高々。
なぜ?
女騎士エリカ・ヤンセンが温かい目で俺たちを見つめる。
いや、俺をこのふたりと一緒にしないでくれ。
女子トークが再開される。
話題の提供は、専らジーナ・ワーグナー。
話す内容があっちにいったりこっちにいったりと、相変わらずまとまりがない。
けれど、ヴァスケルは嬉しそうに聞いている。
妹のとりとめのない話に耳を傾けるお姉さんのよう。
いや、姐さんか。
ヴァスケルが擬人化する龍とは知らなかったが、中味はヒトに近いと思った。
「ふあっ……失礼」
女騎士エリカが小さくあくびをする。
堪えきれず漏れてしまった感じのあくび。
ちょっとかわいい。
俺がじっと見つめてしまったので、エリカはイヤイヤしながら俯いてしまう。
うん、すごくかわいい!
「我が領主、そんなに見ないでください……」
「すまん、つい……、ていうか、エリカは疲れてるよな。この数日間、俺につきあって領内を歩き回ったもんな。てことで、みんな、解散! 話の続きは明日にしてくれ。俺も休みたい」
「はーい、わっかりましたー。わたしも寝まーす」
「そうかい。あたいも金庫の寝床に帰るよ」
みんな素直に俺の指示に従う。
尻に敷かれても領主の言葉には一定の重みがあるようだ。
絶対的な重みではない。
一定の重みだ。
「ヴァスケル、ちょっと待ってくれ。お前に頼みがある」
「ダ、ダ、ダメだ! 早すぎる! あんたが一人前になるまで卵はお預けだよ!」
姐さんヴァスケルが慌てる。
なぜか赤くなっている。
なにを照れてるのか分からないが、カン違いをしているようだ。
「俺の頼みというのはお前の身なりのことだ。ちょっと露出が多すぎる。これから先、他領の要人たちと会う機会も増える。もう少し控えめな衣装はないのか?」
「この格好はダメか? 若い男の新領主なら喜ぶと思ったんだけどね……」
ヴァスケルがしょんぼりする。
「てめえ! ウチの姐さんになんてこと言いやがる」と、組の若い衆に怒鳴られそうなくらい落ち込む。
あんのじょう、妹分(?)のジーナ・ワーグナーが口を開きかけたので、俺は慌てて弁明する。
「……嬉しいに決まってるじゃないか! けどな、ヴァスケルの美しい肌を、ほかの男には見られたくないんだよ」
言ってる自分が驚く。
よくもまあ、こんなセリフが出てくるもんだ。
我ながらあきれるやら、感心するやら。
「な、な、なんだって!? ……わかった! 独占欲が強いのは嫌いじゃないぞ! これならどうだ!」
ヴァスケルの白いドレスが輝く。
布地がみるみる広がる。
露出していた胸の谷間、鎖骨、肩、二の腕ばかりか、手首、足首まで覆い隠す。
ピチピチだったドレスのサイズもゆったりとしたものに代わり、見事なプロポーションを分からなくする。
便利な技だ。
これなら俺に身の回りの世話をする従者に見えないこともない。
「これで満足かい?」
「申しぶんない。では、明日からはその格好で頼む」
◇◇◇
翌日。
城の大広間にLDKが集まる。
ようやくLDKが揃った。
もちろんオーク・キングのグスタフ隊長も同席している。
俺を含めて、この五名がワーグナー城の中核を担うメンバーだ。
「ヴァスケル様、お久しぶりです。オレのことを覚えてますか?」
「忘れるはずはない。グスタフもずいぶんと貫録がついてきたな。おっと、いまではグスタフ隊長か。時がたつのは早いものだ」
「……あれから百年過ぎました。ヴァスケル様にとっては一瞬かもしれませんが、オレはすっかり中年のオヤジになりました。結婚し、息子がひとりできました。オルフェスって言う名のヤンチャ坊主で、手を焼いてます」
「ほう、一度会わせろ。顔を見てやろう」
「はい! 是非とも!」
グスタフ隊長が直立不動の体勢で答える。
おいおい、俺相手のときと随分違うじゃないか?
まあ、仕方ないか。
ヴァスケルは艶っぽい姐さんに見えるけど、中味は龍でいらっしゃるからな。
それよりも驚いたのは、グスタフの年齢だ。
守護龍が長生きなのはなんとなく分かるが、グスタフも百歳を超えていた。
なのに、まだ中年だという。
オークの寿命はどれほど長いのやら。
「我が領主、そろそろ会議を始めましょう。私が担当する人質受け入れの件から報告させて頂きます。今朝、ダゴダネルの使者が参りました。出立の準備に手間取っており、当城に到着するまで二月はかかるとのことです」
「二月? まあこちらは構わないが」
「我が領主、構わないどころか大助かりです。人質は、異国人とはいえ皇位に近い身分の姫君。住まいの準備から身の周りの細々としたものを揃えるまで時間がかかります」
「ふーん、そんなもんか」
人質受け入れは意外と面倒臭そう。
でもまあ、異国のお姫様も好き好んで辺境の山城に来るわけじゃない。
あまり邪険にしてはかわいそうだ。
うん、今日の俺はとっても寛大だね。
広い心で姫君を迎え入れてやろうじゃないか。
「我が領主……、それで、誠に申し上げにくいのですが、ダゴダネルの使者に同行した商人から請求書を渡されまして」
「請求書? なにを買ったんだ?」
思わず俺は、ジーナ・ワーグナーの方に視線を向けた。
ジーナは「ほえっ?」と腑抜けた顔をする。
なにも知らない様子。
なんだ、ジーナが無駄遣いをしたんじゃないのか。
疑ってすまんかった。条件反射のようなものさ。
よく考えたら、ダゴダネルの使者に同行した商人だ。
ジーナは関係ないか。
「我が領主。ダゴダネルの使者の話では、人質の姫君が購入した品々の代金とのことです。姫君の身柄が我らに移った以上、支払いもこちらになるとの主張です」
「困った姫君だな。で、いくらだ」
「その……これが請求書です」
女騎士エリカ・ヤンセンが、おずおずと紙の束を差し出してくる。
一枚二枚どころではない、結構な枚数。
すべての請求書の署名欄は同じ名前。『エルメンルート・ホラント』とある。
異国のお姫様の名前だろう。
勢いのある筆跡に意志の強さを感じる。
字体はすべてそろっており、几帳面な性分でもあるようだ。
だが、いま俺が知りたいのは姫君の性格ではない。
買い物にいくらかかったかだ。
――総額:二万五千G――
「ふおおっ、キリがいい! エルちゃんやりますわね!!」
ジーナ・ワーグナーが感嘆の声を上げる。
俺も一瞬だけ感心した。
が、重要なのはそこじゃない!
もう一度言う。そこじゃないんだ!!
「我が領主、人質のエルメンルート姫が『亡国の微女』と呼ばれる所以は、もしかして浪費癖にあるのでは……」
女騎士エリカがつぶやく。
彼女の意見に俺も賛同する。
賛同するが、声は出ない。
そう。コイツはヤバい。
「美女」か「微女」かは問題じゃない。
コイツを放っておけば、金が消える。
ローンが払えなくなる。
俺の生命がなくなってしまう。
金庫の金は一年は保つとタカをくくってたが、いきなり足元をすくわれた。
畜生!
城に到着するまで二月も待てるか! 先に金が尽きる!
すぐに無駄使いを止めさせなきゃ、俺は死んでしまう!
くっ……、わかった。向こうが来られないなら、こっちから行ってやる!
『亡国の微女』とやらを俺が迎えに行ってやる!
「ヴァスケル! お前の出番だ! 俺を乗せてダゴダネルの城へ飛べ!」
「なんだい……急に勇ましくなったねえ。あたい、あんたのことをますます気に入ったよ」
ヴァスケルの姐さんが俺にしなだれかかってくる。
正直、そんなことされてもいまは喜ぶ気分にはなれない。
が、押し返そうとしてもびくともしない。
まあいい。
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