僕の彼とその話

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プロローグ

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ベッドから重い体を剥がし、リビングへ向かう。

「おはよう、れー君。」
「ん、おはよう。」

れー君とは、幼馴染の田原玲於のことで、現在同居中の男性だ。
少し口は悪いが、とても家庭的で、作る料理は三つ星級。
出来すぎた幼馴染だ。

「わぁ!今日シチューだー!」
「いーから早く食え、冷めねーうちに。」

外の空気とは無縁の空間。
そういえば、れー君とシェアハウスする事になった日も、冬だったっけ。



都会だと、銀世界と呼ばれている景色を見る事は少ない。
まだ、空気を吸い込むだけで鼻の奥がつんとする様な寒い時期。
僕は仕事の休憩に携帯を見ていた。
そんな時、1本の電話が入った。

「もしもし、加藤です。」
「阿澄か?」

1年半ぶりのれー君からの電話だった。
れー君は、この2年前にアメリカに行っていた。
向こうに行ってからも、半年は連絡をとっていたけど、ある日、れー君からの連絡がと耐えてしまった。。
懐かしい声に、少し目が潤む。
嬉しくて、子供みたいに話した。

「どうしたの??」
「お前、仕事は?」
「今休憩だよー。それがどうかしたの?」
「今日、夜空いてるか?」
「うん、空いてるけど。」
(れー君、どうしたんだろう。)
「K空港まで迎え来てくんねぇか。待つから。」
「日本に帰ってきたの!?」
「あぁ、まぁな。迎え、頼むわ。」
「わかった。会社出たらまた連絡するね。」

………れー君が、帰ってきた。
嬉しかったが、少し心配になった。
声を聞く限り、多分相当弱っている。
れー君のあんな弱気な声、初めて聞いた。
その日の仕事はそう多くは無く、定時で帰れることになった。

(まっててね、れー君。)

……プルルルル……プルルッ
「もしもし?れー君?」
「仕事終わったのか?」
「うん、今から行くね。」
「ん。」

僕の会社からK空港まで、タクシーで約15分。
タクシーの中で、僕は悩んでいた。
いくら幼馴染でも、1年半の間があいている。
さっきの電話でさえ少し戸惑ったのに、直接話すとなると緊張が大き過ぎる。
K空港に着いた直後、れー君から電話が入った。

「もしもし?K空港着いたよ。れー君何処にいる?」
「そこに居ろ。俺が行く。」
「わかった。バスターミナルのとこで待ってるよ。」

しばらくすると、黒いスーツケースを引いている、スーツ姿のれー君がこちらへ来るのが見えた。
かっこいい…。
僕の視線に気付いたらしく、少しはにかみながら、僕の前に立った。

「あんままじまじ見んな。主人待ってる子犬か。」
「会って一言目がそれ?まぁいいけど。」
「………あと、ただいま。」
「……ふふ。おかえりなさい、れー君。」

れー君は、とても疲れていた。
そこで立ち話もなんなので、家に連れてきたんだけど。

「お前、この書類の山何だよ。」

まずいものを見つかった。
この時の僕、実はアパレルデザイナーとしては駆け出しの新人。
そのため、かつかつで暮らしていた。
家賃は無理言って遅らせてもらい、食事は1日2食でカップラーメン。
電気も付けず、風呂は友人に借りるというように、節約に励んだ。
それでもアパレル関係に使わなければならない費用は膨大で、八方塞がりの状態だった。

「そんな生活続けてたのか。」
「……………。」
「やってけるのか?」
「正直…僕にも分からないんだ。専門を出て、就職できた時は、なんでも出来そうな気がしてた。でも、入社出来ても、半分位は手に職的なところあるから。」
「……………。」
「そんな顔しないでよ。れー君は心配しないで大丈夫だよ?」

彼は少し考えてから、何か思いついた様な表情を見せた。

「……….阿澄。」
「ん?なーに?」
「俺の家来い。面倒見てやる。」
「………え!?」

こうして、僕達は3年前の冬、同居することになった。
今年の冬は、どうなるかな。
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