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存在X
修羅場2
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人生の修羅場がこんなにも早く訪れるとは思わなかった。
できればラノベのような、僕をめぐって女の子が奪い合うラブコメ展開を望んでいたのに。
こんな修羅場なて望んではいない。
一層のこと無責任にこの部室から逃げ出してやろうかと思った。
けれど問題の先送りにしからないし、皆とのしこりを残したくない。
自力でこの修羅場を収めたいが、僕にはそんな処世術を持ち合わせていない。
僕はきつく目を閉じて俯いた。
瞼が遮断した光のない世界。
このまま闇に呑み込まれて僕という存在が消え去ってしまうような感覚に襲われた。
孤独を感じたその時に。
誰かに右手首は掴まれて少しバランスを崩す。
驚いて瞼を開けると、まだ新しさが残る上履きと黒いソックスが見えた。
顔を上げると、頼り甲斐のある強気な笑顔で、麗さんが目の前に立っていた。
「ここに居たら駄目だ至恩、場所を変えて話そう。白井先生、私たち午後からの授業をサボりますんでよろしく」
「はあ?」
裏返った声を出しながら振り向いた白井先生は間抜け面をしていた。
「待て月島、町田、理由は?」
「傷ついた友達を慰めるのに理由なんていらんだろ。至恩の心のケアは私に任せてくれ」
「好きにしろ。授業を担当する先生には俺がもっともらしい理由をつけて休むと伝えておく。さっさと行け不良ども」
「よし、行くぞ」
麗さんに強引に引っ張られて行く。
しかし麗さんは部室の出入口で一旦立ち止まった。
そして振り向き様に言った。
「恵、亜希、少し至恩を借りるぞ。多分この中でフォロー出来そうなのは私くらいだろうからな」
麗さんは恵と亜希の返事を待たず、僕の腕を引っ張って部室を出た。
* *
五限目のチャイムが鳴った。
僕と麗さんのいる場所は屋上へ出る扉の前の踊り場。
麗さんは扉の反対側に座って手摺壁に凭れた。
「座れ至恩」
麗さんは左手で床を叩いてここに座れと指示した。
僕は麗さんの左隣りに座った。
遠慮して少しだけ距離を開けて座ったけど、麗さんは僕の右肩に触れそうな距離までスッと体を寄せてきた。
ほのかに香る制汗スプレーの匂い。
陸上部の麗さんも汗とか匂いを気にするようだ。
案外と普通の女の子っぽいなあと思った。
誰も来ない階段でこうして二人きりでいると妙に意識してしまう。
肩の触れるか触れないかの距離感が妙な緊張感を生んだ。
「話の内容は全部聴いていたんだよな?」
「うん」
「除け者のように扱って悪かった」
「いいや、あの話の内容なら仕方がない。逆の立場なら僕もそうしていただろうし」
「事実を知って傷ついたか?」
「傷ついてないと言えば嘘になるし、平気と言えば強がりかもしれない。でも俯瞰的な立場から見ているバッタもんは傷ついているかもしれない」
麗さんは左手で僕の肩を抱きよせた。
まるで男子が女子にやるような所作で。
立場があべこべだなあとは思いつつも、さっきまでの緊張感は安心感へ変わった。
少しだけ甘えさせて貰おうと身を委ねた。
「全く素直じゃねえな至恩はよ。私の前では強がらなくてもいいぞ。泣きたかったら遠慮はするな。皆には黙っておいてやる」
「ならお言葉に甘えてみようか。麗さんの胸の中に顔を埋めて胸の柔らかさを感じながら咽び泣こうかな」
精一杯の強がりだった。
麗さんは一瞬キョトンとしたけど、すぐにクスクスと笑って「仕方ねーな」と言ってから僕の頭をぬいぐるみを抱くように、ギュッと胸の中で抱き締めてくれた。
「少し落ち着いたか? それで話 は変わるがさっき言ってた『バッタもん』とはなんだ?」
「僕のオリジナルの人格のあだ名。亜希の言うお兄さん。そのお兄さんはコピーである僕をパチもんと呼んでいる。本当に意味で僕はパチもんになったけどね、へへへ」
自虐的に答えると麗さんは優しく頭を撫でた。
まるで母親が幼い子供をあやすように。
「いつでも泣いていいから」
いつも乱暴な口調の麗さんから、不意に優しい言葉をかけられた。
僕の心はコロッと、目からホロッと来てしまう。
僕は麗さんの胸の中で泣いた。
どれくらい泣いただろう。
泣き疲れて強烈な睡魔に襲われた。
できればラノベのような、僕をめぐって女の子が奪い合うラブコメ展開を望んでいたのに。
こんな修羅場なて望んではいない。
一層のこと無責任にこの部室から逃げ出してやろうかと思った。
けれど問題の先送りにしからないし、皆とのしこりを残したくない。
自力でこの修羅場を収めたいが、僕にはそんな処世術を持ち合わせていない。
僕はきつく目を閉じて俯いた。
瞼が遮断した光のない世界。
このまま闇に呑み込まれて僕という存在が消え去ってしまうような感覚に襲われた。
孤独を感じたその時に。
誰かに右手首は掴まれて少しバランスを崩す。
驚いて瞼を開けると、まだ新しさが残る上履きと黒いソックスが見えた。
顔を上げると、頼り甲斐のある強気な笑顔で、麗さんが目の前に立っていた。
「ここに居たら駄目だ至恩、場所を変えて話そう。白井先生、私たち午後からの授業をサボりますんでよろしく」
「はあ?」
裏返った声を出しながら振り向いた白井先生は間抜け面をしていた。
「待て月島、町田、理由は?」
「傷ついた友達を慰めるのに理由なんていらんだろ。至恩の心のケアは私に任せてくれ」
「好きにしろ。授業を担当する先生には俺がもっともらしい理由をつけて休むと伝えておく。さっさと行け不良ども」
「よし、行くぞ」
麗さんに強引に引っ張られて行く。
しかし麗さんは部室の出入口で一旦立ち止まった。
そして振り向き様に言った。
「恵、亜希、少し至恩を借りるぞ。多分この中でフォロー出来そうなのは私くらいだろうからな」
麗さんは恵と亜希の返事を待たず、僕の腕を引っ張って部室を出た。
* *
五限目のチャイムが鳴った。
僕と麗さんのいる場所は屋上へ出る扉の前の踊り場。
麗さんは扉の反対側に座って手摺壁に凭れた。
「座れ至恩」
麗さんは左手で床を叩いてここに座れと指示した。
僕は麗さんの左隣りに座った。
遠慮して少しだけ距離を開けて座ったけど、麗さんは僕の右肩に触れそうな距離までスッと体を寄せてきた。
ほのかに香る制汗スプレーの匂い。
陸上部の麗さんも汗とか匂いを気にするようだ。
案外と普通の女の子っぽいなあと思った。
誰も来ない階段でこうして二人きりでいると妙に意識してしまう。
肩の触れるか触れないかの距離感が妙な緊張感を生んだ。
「話の内容は全部聴いていたんだよな?」
「うん」
「除け者のように扱って悪かった」
「いいや、あの話の内容なら仕方がない。逆の立場なら僕もそうしていただろうし」
「事実を知って傷ついたか?」
「傷ついてないと言えば嘘になるし、平気と言えば強がりかもしれない。でも俯瞰的な立場から見ているバッタもんは傷ついているかもしれない」
麗さんは左手で僕の肩を抱きよせた。
まるで男子が女子にやるような所作で。
立場があべこべだなあとは思いつつも、さっきまでの緊張感は安心感へ変わった。
少しだけ甘えさせて貰おうと身を委ねた。
「全く素直じゃねえな至恩はよ。私の前では強がらなくてもいいぞ。泣きたかったら遠慮はするな。皆には黙っておいてやる」
「ならお言葉に甘えてみようか。麗さんの胸の中に顔を埋めて胸の柔らかさを感じながら咽び泣こうかな」
精一杯の強がりだった。
麗さんは一瞬キョトンとしたけど、すぐにクスクスと笑って「仕方ねーな」と言ってから僕の頭をぬいぐるみを抱くように、ギュッと胸の中で抱き締めてくれた。
「少し落ち着いたか? それで話 は変わるがさっき言ってた『バッタもん』とはなんだ?」
「僕のオリジナルの人格のあだ名。亜希の言うお兄さん。そのお兄さんはコピーである僕をパチもんと呼んでいる。本当に意味で僕はパチもんになったけどね、へへへ」
自虐的に答えると麗さんは優しく頭を撫でた。
まるで母親が幼い子供をあやすように。
「いつでも泣いていいから」
いつも乱暴な口調の麗さんから、不意に優しい言葉をかけられた。
僕の心はコロッと、目からホロッと来てしまう。
僕は麗さんの胸の中で泣いた。
どれくらい泣いただろう。
泣き疲れて強烈な睡魔に襲われた。
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