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記憶のない少年
教室の支配者2
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背後から「追って、逃がさないで」という浜口の怒号が聞こえた。
僕は振り向かずにベランダに出て加速しようとしたが、足を滑らしてバランスを崩す。
何とか転ばずに堪えたけれど、窓から飛び出して前を塞ぐ竹田と、ベランダの出入口から追って来た木下に前後を挟まれた。
強硬突破が難しいと判断した僕は鞄をベランダから投げ捨てた。
「手間をかけさせんなよロダン。逃げださないように少し痛め付ける必要があるな。どう思う木下?」
「やっちゃおうぜ竹田」
竹田に投げ飛ばされベランダの床に仰向けになった。
息が出来なくて苦しんでいる所へ、竹田と木下から激しい暴行を受けた。
僕はうつ伏せになり亀のようにうずくまり身を守る。
竹田と木下の暴力は容赦なく続いた。
体を蹴られて痛い。
口の中は錆びた味がしてきた。
コンクリートに小さな血溜まりがいくつかできていた。
「もうこの辺で止めておくか木下」
「ああそうだな。オラ、立てよロダン」
竹田と木下に両脇を固められたまま引きずられ、自分の席に座らされた。
僕の逃亡を警戒してか、竹田と木下は席の左右を固めていた。
浜口は教壇からニヤニヤと僕を見下ろしていた。
「ロダンくんは三階から飛び降りて本当の幽霊になりたかったのかしら?」
「死ぬつもりはないけど。仮に死んだとしても幽霊になってアンタらを全員を呪い殺してやるけどね」
「あら幽霊の分際で生意気ね」
浜口はニコニコしているが目は笑ってはいない。
目は三日月のような細目で、唇は両端を糸で吊り上げたような極端な弧を描き、薄気味の悪いせせら笑いをしていた。
「うっかりミスをしていたのは僕の方でしたよ浜口。アンタは故意に僕の情報を漏洩した。違うか?」
「鋭いわね。教師ってのは結構ストレスが溜まる職業なのよね。前の高校でもストレス解消法として気弱な生徒を見付けていじめを楽しんでいたの。今年からこの学校へ赴任してきていきなり担任に任せられた。そして幸先良く獲物を見つけたのよ」
「それが僕か?」
「ええ君はオモチャよ。私が担任をしている間はストレス解消役としてこれから毎日いじめられるのよ」
「毎日いじめられたくないので、この事実を他の先生に伝える。浜口には教師を辞めてもらう」
「記憶喪失の君の意見を学校側が信じるとでも?」
「いるさ。仮に僕の証言に信用がなくても、この教室に居る同級生の皆が証人です」
「私がばれるようなミスをすると思う? 私のいじめは計画的だから完全犯罪。そうだ町田さん、私からクラスの女子全員へ送ったあの画像を見せてあげて」
浜口は顎で合図する。
ギャル三人組のリーダー格の町田は「ちっ」と舌打ちして気怠そうに歩いて近づいてくる。
ポケットからスマホを取り出し、竹田と木下には見えないように、僕へスマホを見せてきた。
画面に映っていたのは女子更衣室の盗撮画像だった。
画像には下着姿の町田が映っていた。
浜口は勝ち誇って言う。
「私はこのクラスの女子全員の弱みを握っているの。だからみんな私の言いなりなの。分かってもらえたかしら?」
周りを見るとクラスの女子は黙って俯いていた。
中にはすすり泣く子もいる。
町田は悔しそうに唇を噛んで僕の席の横を立っていた。
浜口は虫を払うような仕草で、町田に席へ戻るように指示した。
町田は小声で「ふざけんなよ」と吐き捨て席に戻った。
僕は浜口の汚いやり方が許せなかった。
立ち上がって男子に呼び掛ける。
「こんな勝手を許してはいけない。僕と一緒に戦ってくれる男子はいないか?」
立ち上がった僕を竹田と木下が肩をぐっと押さえ付ける。
強制的に座らされた。
「木下くん、適切に処理してくれるよね?」
竹田は僕の見張りとして残り、木下は身近にいた男子たちの顔面を殴って回った。
抵抗する男子は誰もいない。
皆、竹田と木下に怯えているのだと思う。
「男子生徒を従わせるのはもっと簡単よ。竹田くんと木下くんがしっかり管理してくれるから」
僕以外で戦える者はいない。
孤独な戦いである。
僕は竹田と木下に訊ねた。
「お前たちはこんな女にコキ使われて悔しくないのか?」
二人は何も答えずニタニタしていた。
浜口は不敵に笑う。
「ロダンくんには分からないと思うけど、人を従わせる方法は暴力や弱みを握るだけじゃないのよ」
浜口は両手で自分の胸を鷲掴みにして言った。
「竹田くんと木下くんは私のオッパイが好きなのよ」
「え、まさか……」
「そうよ、そのまさかよ。若い子は荒々しくて激しくて気持ちがいいの。ストレス解消はロダンくんをいじめることで、欲求不満は竹田くんと木下くんで解消してもらってるの。ああ学校はなんて素晴らしい所なのかしら」
浜口は狂っていた。
人としても、教師としても一線を越えてしまっている。
この女は恐ろしい人外だ。
このクラスは浜口によって完全掌握されている。
浜口は教室の支配者だった。
僕は振り向かずにベランダに出て加速しようとしたが、足を滑らしてバランスを崩す。
何とか転ばずに堪えたけれど、窓から飛び出して前を塞ぐ竹田と、ベランダの出入口から追って来た木下に前後を挟まれた。
強硬突破が難しいと判断した僕は鞄をベランダから投げ捨てた。
「手間をかけさせんなよロダン。逃げださないように少し痛め付ける必要があるな。どう思う木下?」
「やっちゃおうぜ竹田」
竹田に投げ飛ばされベランダの床に仰向けになった。
息が出来なくて苦しんでいる所へ、竹田と木下から激しい暴行を受けた。
僕はうつ伏せになり亀のようにうずくまり身を守る。
竹田と木下の暴力は容赦なく続いた。
体を蹴られて痛い。
口の中は錆びた味がしてきた。
コンクリートに小さな血溜まりがいくつかできていた。
「もうこの辺で止めておくか木下」
「ああそうだな。オラ、立てよロダン」
竹田と木下に両脇を固められたまま引きずられ、自分の席に座らされた。
僕の逃亡を警戒してか、竹田と木下は席の左右を固めていた。
浜口は教壇からニヤニヤと僕を見下ろしていた。
「ロダンくんは三階から飛び降りて本当の幽霊になりたかったのかしら?」
「死ぬつもりはないけど。仮に死んだとしても幽霊になってアンタらを全員を呪い殺してやるけどね」
「あら幽霊の分際で生意気ね」
浜口はニコニコしているが目は笑ってはいない。
目は三日月のような細目で、唇は両端を糸で吊り上げたような極端な弧を描き、薄気味の悪いせせら笑いをしていた。
「うっかりミスをしていたのは僕の方でしたよ浜口。アンタは故意に僕の情報を漏洩した。違うか?」
「鋭いわね。教師ってのは結構ストレスが溜まる職業なのよね。前の高校でもストレス解消法として気弱な生徒を見付けていじめを楽しんでいたの。今年からこの学校へ赴任してきていきなり担任に任せられた。そして幸先良く獲物を見つけたのよ」
「それが僕か?」
「ええ君はオモチャよ。私が担任をしている間はストレス解消役としてこれから毎日いじめられるのよ」
「毎日いじめられたくないので、この事実を他の先生に伝える。浜口には教師を辞めてもらう」
「記憶喪失の君の意見を学校側が信じるとでも?」
「いるさ。仮に僕の証言に信用がなくても、この教室に居る同級生の皆が証人です」
「私がばれるようなミスをすると思う? 私のいじめは計画的だから完全犯罪。そうだ町田さん、私からクラスの女子全員へ送ったあの画像を見せてあげて」
浜口は顎で合図する。
ギャル三人組のリーダー格の町田は「ちっ」と舌打ちして気怠そうに歩いて近づいてくる。
ポケットからスマホを取り出し、竹田と木下には見えないように、僕へスマホを見せてきた。
画面に映っていたのは女子更衣室の盗撮画像だった。
画像には下着姿の町田が映っていた。
浜口は勝ち誇って言う。
「私はこのクラスの女子全員の弱みを握っているの。だからみんな私の言いなりなの。分かってもらえたかしら?」
周りを見るとクラスの女子は黙って俯いていた。
中にはすすり泣く子もいる。
町田は悔しそうに唇を噛んで僕の席の横を立っていた。
浜口は虫を払うような仕草で、町田に席へ戻るように指示した。
町田は小声で「ふざけんなよ」と吐き捨て席に戻った。
僕は浜口の汚いやり方が許せなかった。
立ち上がって男子に呼び掛ける。
「こんな勝手を許してはいけない。僕と一緒に戦ってくれる男子はいないか?」
立ち上がった僕を竹田と木下が肩をぐっと押さえ付ける。
強制的に座らされた。
「木下くん、適切に処理してくれるよね?」
竹田は僕の見張りとして残り、木下は身近にいた男子たちの顔面を殴って回った。
抵抗する男子は誰もいない。
皆、竹田と木下に怯えているのだと思う。
「男子生徒を従わせるのはもっと簡単よ。竹田くんと木下くんがしっかり管理してくれるから」
僕以外で戦える者はいない。
孤独な戦いである。
僕は竹田と木下に訊ねた。
「お前たちはこんな女にコキ使われて悔しくないのか?」
二人は何も答えずニタニタしていた。
浜口は不敵に笑う。
「ロダンくんには分からないと思うけど、人を従わせる方法は暴力や弱みを握るだけじゃないのよ」
浜口は両手で自分の胸を鷲掴みにして言った。
「竹田くんと木下くんは私のオッパイが好きなのよ」
「え、まさか……」
「そうよ、そのまさかよ。若い子は荒々しくて激しくて気持ちがいいの。ストレス解消はロダンくんをいじめることで、欲求不満は竹田くんと木下くんで解消してもらってるの。ああ学校はなんて素晴らしい所なのかしら」
浜口は狂っていた。
人としても、教師としても一線を越えてしまっている。
この女は恐ろしい人外だ。
このクラスは浜口によって完全掌握されている。
浜口は教室の支配者だった。
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