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1話

死んだら地獄だった

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# 極悪非道前科7犯が異世界で死亡フラグ乱立

## 第1章 死んだら地獄だった

「くそっ……」

龍二は息を切らしながら走った。彼は今日もまた犯罪を犯してしまった。今回は強盗だった。彼は酒に酔っている女性を見つけて、金を奪おうとした。しかし、女性は抵抗して叫んだ。近くにいた警察官が駆けつけてきた。龍二は慌てて逃げ出した。

龍二は前科7犯のクズ人間だった。殺人以外のしょうもない犯罪を繰り返してきた。彼は夢も希望もない自堕落な人生に嫌気がさしていた。彼は異世界転生を望んでいた。真逆の人生を歩みたかった。

「異世界転生……」

龍二は呟いた。彼はネットでよく見かける異世界転生の小説に憧れていた。主人公が強くなったり、ハーレムを築いたり、平和を守ったりする物語だった。彼はそんな物語に自分を重ねていた。

「俺も異世界に行きてえ……」

龍二は願った。彼は異世界に行けば、自分も強くなれると思っていた。自分もハーレムを作れると思っていた。自分も平和を守れると思っていた。

「俺も異世界に行きてえ……」

龍二は再び願った。彼は異世界に行けば、自分も幸せになれると思っていた。自分も愛されると思っていた。自分も生きがいを見つけると思っていた。

「俺も異世界に行きてえ……」

龍二は最後に願った。彼は異世界に行けば、自分も人間になれると思っていた。自分も誇りを持てると思っていた。自分も死ぬことができると思っていた。

その時、龍二の前にトラックが現れた。龍二は気づかなかった。彼は異世界転生のことばかり考えていた。トラックはブレーキをかけたが、間に合わなかった。龍二はトラックに轢かれてしまった。

「あ……」

龍二は声も出せなかった。彼は死んでしまった。

「死んだ……」

龍二は思った。彼は死んでしまったことに気づいた。彼は悲しくもなく、怒りもなく、後悔もなく、安堵した。

「やっと終わった……」

龍二は安心した。彼はこれで苦しみから解放されると思った。彼はこれで地獄に落ちると思った。

しかし、彼は間違っていた。

彼は地獄に落ちなかった。

彼は地獄に転生したのだ。


龍二は目を覚ました。彼はトラックに轢かれて死んだはずだった。しかし、彼はまだ生きていた。彼は自分がどこにいるのか分からなかった。彼は周りを見回した。
彼は見たこともない景色に驚いた。彼は荒野の中にいた。空は赤く、太陽は二つあった。地面は乾燥しており、岩や砂が散らばっていた。遠くには高い山や巨大な建造物が見えた。
「ここは……どこだ?」
龍二は呟いた。彼は自分が異世界に転生したことに気づいていなかった。彼は自分が地獄に落ちたと思っていた。
「おや、おや、ようこそ、地獄へ」
龍二の後ろから声がした。龍二は振り返った。そこには人間ではないものが立っていた。
それは骸骨のような姿をしていた。頭に角があり、目は赤く光っていた。背中には黒い羽が生えており、手には鎌を持っていた。
「お前……誰だ?」
龍二は怯えて尋ねた。
「私は死神だよ。君の魂を連れてきたんだ」
死神は笑った。
「魂?」
龍二は首を傾げた。
「そうだよ。君は死んだんだから、魂しか残ってないんだよ」
死神は言った。
「死んだ……」
龍二は思い出した。彼はトラックに轢かれて死んだことを覚えていた。
「じゃあ、これが地獄なのか?」
龍二は尋ねた。
「まあ、そう言ってもいいかもしれないね」
死神は言った。
「この惑星は人類が滅亡した後の未来だよ。1500年後の未来だ」
「人類が滅亡した?」
龍二は驚いた。
「そうだよ。科学が発達しすぎて、人類が自らを滅ぼしてしまったんだよ。核戦争やバイオテロやナノマシンやAIやらでね」
死神は説明した。
「それで、この惑星に残ったのは、人類以外の生き物や機械や魔物やらだよ。君もその一つだ」
「俺も?」
龍二は自分の体を見た。彼は自分が人間ではなくなっていることに気づいた。
彼の体は鱗で覆われており、爪や牙が鋭く伸びていた。尾や翼も生えており、目も赤く光っていた。
「俺……何だ?」
龍二は恐怖した。
「君はドラゴンだよ」
死神は言った。
「ドラゴン?」
龍二は信じられなかった。
「そうだよ。君の魂にドラゴンの因子があったからね。君の望みを叶えてあげたんだよ」
死神は言った。
「望み?」
龍二は思い出した。彼は異世界転生を望んでいたことを覚えていた。
「俺が望んだのは、これじゃない……」
龍二は泣きそうになった。
「残念だったね。君の望みは、歪んでしまったんだよ」
死神は言った。
「歪んだ?」
龍二は尋ねた。
「そうだよ。君は異世界に行きたかったけど、本当は自分を変えたかったんだよ。自分を強くしたかったんだよ。自分を愛されたかったんだよ。自分を生きがいを見つけたかったんだよ。自分を人間にしたかったんだよ」
死神は言った。
「でも、君はそれを達成する努力をしなかったんだよ。君は現実から逃げて、空想に浸って、犯罪に走って、人間としての資格を失ってしまったんだよ」
死神は言った。
「だから、君の魂は汚れてしまったんだよ。君の魂は極悪非道なものになってしまったんだよ。君の魂はドラゴンにふさわしいものになってしまったんだよ」
死神は言った。
「ドラゴンにふさわしい?」
龍二は疑問に思った。
「そうだよ。ドラゴンはこの惑星で最強の存在だよ。ドラゴンは他の生き物や機械や魔物を食らって、力を増していくんだよ。ドラゴンは自分の欲望のままに暴れ回って、平和を破壊していくんだよ。ドラゴンは誰からも愛されず、誰も愛さず、孤独に生きて、孤独に死ぬんだよ」
死神は言った。
「それが……俺の運命なのか?」
龍二は絶望した。
「そうだよ。君はこれからこの惑星で生きていくことになるよ。君はこの惑星で死亡フラグを乱立することになるよ。君はこの惑星で地獄を味わうことになるよ」
死神は言った。
「それが……俺の罰なのか?」
龍二は悔やんだ。
「そうだよ。君が人間として生きられなかったからね。君が人間として死ねなかったからね。君が人間として輝けなかったからね」
死神は言った。
「さあ、行こうか。君の新しい人生が始まるよ」
死神は鎌を振り上げた。
「待て……」
龍二は叫んだ。
「助けて……」
龍二は泣いた。
しかし、誰も彼を助けてくれなかった。
彼の魂は切り裂かれてしまった。
彼の物語は終わらなかった。
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