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第7章 イトコとの、距離
第4話 壁は、高い *加瀬拓哉*
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澪から連絡を受けてすぐ、俺は清花ちゃんに電話した。
「桜ちゃん、みつかったよ!」
[みつかった!?]
「澪のお兄さんがみつけたって、澪から連絡が来たんだ。桜ちゃん連れて、これから帰るって」
[よかったあ]
心底安堵したような清花ちゃんに、俺は澪から言われたことを伝える。
「それでさ、桜ちゃんのこと怒らないであげてほしいって」
[え?]
「桜ちゃん、お父さんのお墓の前にいたって。だから……」
[そっか。うん。わかった。たっくんも早く帰っておいでよ]
「あ、それがさ」
桜ちゃんがみつかって安心したのも束の間、俺はまさかの事態に陥っていた。
[ん?]
「俺、迷子になっちゃって……。帰るまでちょっと時間かかるかも?」
桜ちゃんを探すことに必死になっていた俺は、自分が今どこにいるのかわからない。
[……わかった、迎えに行ってあげる。お姉ちゃんに報告するから一旦切るよ。じゃね]
「あ、待って! 清花ちゃ……」
とめる俺に気づかずに、清花ちゃんは電話を切ってしたまった。
なにもわざわざ来てもらわなくても、大きい道路に出られればタクシーを捕まえて帰ることはできる。
もう1度、かけ直そう……、いや。
彩梨ちゃんに報告すると言っていた。
桜ちゃんの無事を知らせるのが最優先だ。
それに、清花ちゃんは「一旦切る」と言っていた。
少し待てば、連絡をくれるはずだ。
あ、メールをすればいいか。
大通りを目指して歩きながら、俺は清花ちゃんにメールを送る。
『タクシーでも捕まえて、1人で帰るから大丈夫だよ』
送って数分、電話がきた。
画面に表示される『清花ちゃん』の文字に俺は迷わず電話にでた。
「もしもし」
[……今、どこ]
「え……」
聞こえてきた声に、もう1度携帯画面を見る。
間違いなく、表示されているのは『清花ちゃん』で、清花ちゃんの携帯からの着信で間違いないはず、なのに。
[……もしもし?]
「あ、彩梨ちゃん!?」
[そうだよ]
「え、でもコレ清花ちゃんからの着信……」
え、待って、なに、どういうこと?
なんで彩梨ちゃんが清花ちゃんの携帯から電話かけてくるの?
[清花に借りたの。私、……拓哉、君の、番号……知らないから……]
心臓が跳ねる。
嘘。
彩梨ちゃんが、「拓哉君」って言った!?
今まで1度だって俺の名前呼んだことのなかった彩梨ちゃんが!?
[で、どこ? なにか目印あるでしょ?]
「え、いや、タクシー捕まえて帰るからいいよ!」
夜だし!
暗いし!
彩梨ちゃん女の子だし危ないし!
彩梨ちゃんを迎えに来させるなんてできないし!
[……ごめん]
「え?」
[私が行くんじゃイヤ、だよね……。ごめん。ごめん、なさい。私、今までひどかったし、キライだよね、私なんて……]
「そんなことない!」
電話口から聞こえてくる彩梨ちゃんの落ち込んだ声に、思わず叫んでいた。
「俺、彩梨ちゃんのこと好きだよ! 初めて会った日からずっと! 今までもこれからも、ずっと彩梨ちゃんが好き!」
[……]
言ってしまって、後悔した。
これじゃあ彩梨ちゃんに余計嫌われる。
沈黙が、つらい。
[……そういうのは]
ポツリと、彩梨ちゃんの声が届いた。
[ちょっと寒い]
寒い!?
恥ずかしいとか、気持ち悪いとかじゃなくて、寒い!?
寒いって、どういう意味で!?
「あ、うん、ごめん……」
聞きたいっ。
でも聞けないっ。
意気地なしっ!
「えっと……来てくれるなら、彩梨ちゃんに来てほしい、なんて言ったらまた寒いって思われちゃうかな……」
[……私でいいの?]
「彩梨ちゃんがいいっ! ……あ、ごめん」
距離感が、難しい。
不用意な発言をすると、もう2度とこうして彩梨ちゃんと言葉を交わすことができなくなってしまうんじゃないかって。
「えっと、公園の近くなんだけど」
さっき通り過ぎた公園を思い返す。
「噴水と、面白い滑り台がある公園。なんかグルグルしてるヤツ」
[うん。わかった。じゃあ、その公園で待ってて。30分くらいで行けるから]
「30分!? そん……っ」
「そんなに歩かせられない」と言いかけてやめた。
こういうのがよくないんだ。
30分歩いたって、彩梨ちゃんは倒れたりしない。
[何?]
「あ、いや……、俺、そんなところにまで来てたんだなって」
[大学生の足ならそれくらいすぐでしょ]
「そうだね……。なに言ってるんだろう、俺……」
[……]
会話が途切れた。
切るべきなんだろうけど、名残惜しくてこの電話を切りたくない。
声の聞こえない携帯電話を耳にあてながら、俺は来た道を引き返し、公園に向かう。
[……ありがとう]
不意に、彩梨ちゃんの声が聞こえた。
「え?」
[桜ちゃんを探してくれて]
「俺、なにもしてないよ。みつけたのは俺じゃないし、しかもこうして迷子になってるなんてカッコ悪いよね」
[そんなことない! 清花が教えてくれた。ずっと探し回ってくれてたんでしょ? 今日、なにか予定があったんじゃないの?]
「そんなの、桜ちゃんのことに比べたら大した用事じゃないよ。桜ちゃんにもしものことがあったら、俺の大切な女の子が悲しむと思ったから」
[大切な、女の子?]
「……」
言葉を選ぶ。
「……彩梨ちゃんは、俺の大切な従妹だから。俺の動機なんて所詮そんなものだよ。自分本位で……。だから、お礼なんて言う必要ないよ」
[でも、探してくれた。みつかったって連絡もくれた。だから、ありがとう]
「……うん。どういたしまして」
[それと、今までごめんなさい]
「え?」
[私、今までかなりひどいことしたなって、反省した。私が話しかけようって思ったとき、拓哉君、私のこと避けはじめて。私、今までずっと同じことしてたんだって気がついて。嫌われたんだって思ったら、すごく後悔した。許してもらえないと思うけど、本当にごめんなさい]
「……俺のほうこそ、彩梨ちゃんに嫌われてるんだって。自覚したから距離をおこうって」
[ごめんなさい!]
電話の向こうで謝る彩梨ちゃんに、ほんの少しだけワガママを言いたくなってしまった。
「じゃあ、さ」
彩梨ちゃんの罪悪感につけこみたい、なんて。
「今から、やり直そうよ。イトコとしての関係を」
「桜ちゃん、みつかったよ!」
[みつかった!?]
「澪のお兄さんがみつけたって、澪から連絡が来たんだ。桜ちゃん連れて、これから帰るって」
[よかったあ]
心底安堵したような清花ちゃんに、俺は澪から言われたことを伝える。
「それでさ、桜ちゃんのこと怒らないであげてほしいって」
[え?]
「桜ちゃん、お父さんのお墓の前にいたって。だから……」
[そっか。うん。わかった。たっくんも早く帰っておいでよ]
「あ、それがさ」
桜ちゃんがみつかって安心したのも束の間、俺はまさかの事態に陥っていた。
[ん?]
「俺、迷子になっちゃって……。帰るまでちょっと時間かかるかも?」
桜ちゃんを探すことに必死になっていた俺は、自分が今どこにいるのかわからない。
[……わかった、迎えに行ってあげる。お姉ちゃんに報告するから一旦切るよ。じゃね]
「あ、待って! 清花ちゃ……」
とめる俺に気づかずに、清花ちゃんは電話を切ってしたまった。
なにもわざわざ来てもらわなくても、大きい道路に出られればタクシーを捕まえて帰ることはできる。
もう1度、かけ直そう……、いや。
彩梨ちゃんに報告すると言っていた。
桜ちゃんの無事を知らせるのが最優先だ。
それに、清花ちゃんは「一旦切る」と言っていた。
少し待てば、連絡をくれるはずだ。
あ、メールをすればいいか。
大通りを目指して歩きながら、俺は清花ちゃんにメールを送る。
『タクシーでも捕まえて、1人で帰るから大丈夫だよ』
送って数分、電話がきた。
画面に表示される『清花ちゃん』の文字に俺は迷わず電話にでた。
「もしもし」
[……今、どこ]
「え……」
聞こえてきた声に、もう1度携帯画面を見る。
間違いなく、表示されているのは『清花ちゃん』で、清花ちゃんの携帯からの着信で間違いないはず、なのに。
[……もしもし?]
「あ、彩梨ちゃん!?」
[そうだよ]
「え、でもコレ清花ちゃんからの着信……」
え、待って、なに、どういうこと?
なんで彩梨ちゃんが清花ちゃんの携帯から電話かけてくるの?
[清花に借りたの。私、……拓哉、君の、番号……知らないから……]
心臓が跳ねる。
嘘。
彩梨ちゃんが、「拓哉君」って言った!?
今まで1度だって俺の名前呼んだことのなかった彩梨ちゃんが!?
[で、どこ? なにか目印あるでしょ?]
「え、いや、タクシー捕まえて帰るからいいよ!」
夜だし!
暗いし!
彩梨ちゃん女の子だし危ないし!
彩梨ちゃんを迎えに来させるなんてできないし!
[……ごめん]
「え?」
[私が行くんじゃイヤ、だよね……。ごめん。ごめん、なさい。私、今までひどかったし、キライだよね、私なんて……]
「そんなことない!」
電話口から聞こえてくる彩梨ちゃんの落ち込んだ声に、思わず叫んでいた。
「俺、彩梨ちゃんのこと好きだよ! 初めて会った日からずっと! 今までもこれからも、ずっと彩梨ちゃんが好き!」
[……]
言ってしまって、後悔した。
これじゃあ彩梨ちゃんに余計嫌われる。
沈黙が、つらい。
[……そういうのは]
ポツリと、彩梨ちゃんの声が届いた。
[ちょっと寒い]
寒い!?
恥ずかしいとか、気持ち悪いとかじゃなくて、寒い!?
寒いって、どういう意味で!?
「あ、うん、ごめん……」
聞きたいっ。
でも聞けないっ。
意気地なしっ!
「えっと……来てくれるなら、彩梨ちゃんに来てほしい、なんて言ったらまた寒いって思われちゃうかな……」
[……私でいいの?]
「彩梨ちゃんがいいっ! ……あ、ごめん」
距離感が、難しい。
不用意な発言をすると、もう2度とこうして彩梨ちゃんと言葉を交わすことができなくなってしまうんじゃないかって。
「えっと、公園の近くなんだけど」
さっき通り過ぎた公園を思い返す。
「噴水と、面白い滑り台がある公園。なんかグルグルしてるヤツ」
[うん。わかった。じゃあ、その公園で待ってて。30分くらいで行けるから]
「30分!? そん……っ」
「そんなに歩かせられない」と言いかけてやめた。
こういうのがよくないんだ。
30分歩いたって、彩梨ちゃんは倒れたりしない。
[何?]
「あ、いや……、俺、そんなところにまで来てたんだなって」
[大学生の足ならそれくらいすぐでしょ]
「そうだね……。なに言ってるんだろう、俺……」
[……]
会話が途切れた。
切るべきなんだろうけど、名残惜しくてこの電話を切りたくない。
声の聞こえない携帯電話を耳にあてながら、俺は来た道を引き返し、公園に向かう。
[……ありがとう]
不意に、彩梨ちゃんの声が聞こえた。
「え?」
[桜ちゃんを探してくれて]
「俺、なにもしてないよ。みつけたのは俺じゃないし、しかもこうして迷子になってるなんてカッコ悪いよね」
[そんなことない! 清花が教えてくれた。ずっと探し回ってくれてたんでしょ? 今日、なにか予定があったんじゃないの?]
「そんなの、桜ちゃんのことに比べたら大した用事じゃないよ。桜ちゃんにもしものことがあったら、俺の大切な女の子が悲しむと思ったから」
[大切な、女の子?]
「……」
言葉を選ぶ。
「……彩梨ちゃんは、俺の大切な従妹だから。俺の動機なんて所詮そんなものだよ。自分本位で……。だから、お礼なんて言う必要ないよ」
[でも、探してくれた。みつかったって連絡もくれた。だから、ありがとう]
「……うん。どういたしまして」
[それと、今までごめんなさい]
「え?」
[私、今までかなりひどいことしたなって、反省した。私が話しかけようって思ったとき、拓哉君、私のこと避けはじめて。私、今までずっと同じことしてたんだって気がついて。嫌われたんだって思ったら、すごく後悔した。許してもらえないと思うけど、本当にごめんなさい]
「……俺のほうこそ、彩梨ちゃんに嫌われてるんだって。自覚したから距離をおこうって」
[ごめんなさい!]
電話の向こうで謝る彩梨ちゃんに、ほんの少しだけワガママを言いたくなってしまった。
「じゃあ、さ」
彩梨ちゃんの罪悪感につけこみたい、なんて。
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