【完結】イトコに恋して

桐生千種

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第7章 イトコとの、距離

第3話 従兄、感謝 *加瀬彩梨*

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 ――桜ちゃんが消えた。

 その連絡が入ったのは、12時過ぎ。

 だけど、私がそのメールに気が付いたのはもっとあと。

 部活が終わった15時過ぎ。

 学校への持ち込みが可能な携帯電話だけど、敷地内では電源を切ることが校則で決められている。

 実はこっそり、地下の部室とかだけと先生の目も届かないから使っている人がいたりして。

 私は余程のことがない限り、学校では電源を入れないんだけど……、そのおかげで連絡に気づくのが遅くなった。

 『桜ちゃんが消えた。入学式にも出てないし帰って来ない。心当たりがあったら連絡して』

 清花からのメールに、そのあとの進展があったというメールは続かない。

 『みつかった』とも、『みつからない』とも、清花からのメールは届いていない。

「ちょっとごめん。電話する」

 隣を歩く葉音に断って、清花へと電話をかける。

 数コールして、清花が出た。

[お姉ちゃん? どうしよう、割とマジでヤバイかも]

 珍しく、清花がうろたえている。

「まだみつかってないの? 雪乃君のところは確認したんだよね?」

[したよ。っていうか雪乃君も一緒に探してる状況。公園も行ったし、中学校も隅々まで練り歩いたし、校内放送もした。小学校にも行った。どこにもいなくて、今みんなで手分けして探してるんだけど、お姉ちゃん他に心当たりない?]

 事態はかなり深刻みたいだ。

 「ごめん」と葉音に謝って、先に帰ってもらう。

 これは、長くなりそうだ。

「あとは、花咲ママの病院くらいしか思いつかないけど、ちょうどいいから私、病院寄って帰るよ」

 とは言ったものの、ついこの間まで小学生だった桜ちゃんが電車に乗ってここまで来るとは思えないけど、花咲ママなら他に心当たりがあるかもしれない。

「で? どうして桜ちゃんがいなくなったか原因は?」

[それが……]

 話を聞くと、今朝家を出ようとしたところ、桜ちゃんと花咲ママの再婚相手の子――桜ちゃんにとっては義理のお兄さんになる少年が言い争っている現場に遭遇したと。

 珍しく桜ちゃんが声を荒げ、「入学式に来ないで」と少年に向かっているところを清花が仲裁に入り、少年に「こっそり行けばいい」と言ってしまったと。

 そしてその「こっそり」がバレて、もっと言うとあとをつけていたのがバレて、桜ちゃんは逃走し、入学式にも行かず、中学校を初日から無断欠席。

 未だに桜ちゃんは姿を現さず、みつからず、現在に至る、と。

「ごめん、清花。自覚はあると思うけど言わせて」

[やだ]

「バカ」

[やだって言ったじゃん!]

「ホントもうなにやってんの? 暦パパ亡くなったの、桜ちゃんの小学校の入学式のときだよ? トラウマ抱えてもおかしくないんだよ? なんでこっそりあとをつけさせるとか」

[わかってるってばー! ごめんって!]

「私に謝っても仕方ないじゃん」

 6年前の桜ちゃんの小学校の入学式。

 あの日、お仕事で夜勤明けの暦パパ――桜ちゃんのお父さんは、小学校に向かう途中で事故に遭い亡くなった。

 当時の桜ちゃんは、「入学式に来てなんて言ったからだ」と相当ショックを受けていたのを今でも鮮明に思い出す。

 桜ちゃんのせいではもちろんないんだけど、やっぱり今でも引きずっているんだと、配慮が足りなかったと後悔する。

 6年も前のことで、皐月君、竜胆ちゃん、桔梗君、椿ちゃんの入学式ではなんともなかったから、すっかり忘れていた。

 まさか、こんな事態になるなんて、清花も思っていなかったと思う。

 ただ、再婚相手の子が受け入れられないんじゃない。

 裏を返せば桜ちゃんにとって、その子は失いたくない存在になってるってことだ。

 きっとうまくいく。

 新しい家族と、新しい生活は、きっと大丈夫だと思うから。

 だから早く、みつけてあげたい。
 このまま、一生会えなくなるなんて嫌だからね……。

*****

 あんまり期待はしていなかったけど、花咲ママのところにも桜ちゃんはいなかった。

 花咲ママにも状況を説明して、心当たりがないか聞いてみたけど、新しい情報はなかった。

 家に帰って、残された皐月君や竜胆ちゃんや桔梗君や椿ちゃんが気になって清花と一緒についていることにした。

 桜ちゃん探しは、加瀬拓哉と章先輩、そして花咲ママと、花咲ママの再婚相手の人と、そのお子さんたちがしている。

 本当に、どこに行ってしまったんだろう……。

 中学生になりたての女の子が1人で、朝からご飯も食べずに……。

 誘拐とか、されてたらどうしよう。
 事故とか。

 暦パパが亡くなったのが入学式の日だったからって、まさかあとなんて追ってないよね!?

 考えるだけで気持ちが焦る。

 時刻はもう、18時になろうとしている。

「あ、たっくん?」
「っ!?」

 電話が鳴るたび、誰かが電話に出るたび、心臓が跳ねる。

 「みつかった」という報告を期待して、「誘拐」や「事故」なんて最悪な事態を想像して、耳をそばだてる。

「みつかった!?」

 その言葉に、清花を凝視する。

「よかったあ」

 「みつかった」と、思ってもいい?

「え?」

 え?

「そっか。うん。わかった。たっくんも早く帰っておいでよ」

 なに?
 なにかあったの?

 清花のひと言ひと言に、心が揺さぶられる。

「ん?」

 今度はなに?
 早く、話が聞きたい。

 桜ちゃんは無事?

「……わかった、迎えに行ってあげる。お姉ちゃんに報告するから一旦切るよ。じゃね」

 電話を切った清花が告げた。

「桜ちゃん、みつかったって」

 はっきりと告げられた、清花のその言葉でようやく安堵する。

 よかった。
 本当に、よかった。

「桜ちゃん、お父さんのお墓の前にいたんだってさ。だから、怒らないでって。今、花咲ママの再婚相手の子供? が連れて来るって。その人がみつけたらしいよ」

 なんだっていい。
 桜ちゃんがみつかったんだから。

 それだけで、充分だ。

「それで、たっくんが迷子真っ最中らしいから、回収しに行ってくるね」
「ちょ、ちょっと待って清花!」

 出て行こうとする清花を、思わず止めた。

「私が行くよ!」

 『桜ちゃんがいなくなった』と連絡を受けたそのときから、ずっと探し続けてくれていたらしい加瀬拓哉。

 「ありがとう」と伝えたくて、これまでのことも含めて「ごめんなさい」と伝えたくて。

 今日のできごとを利用するみたいだけど、こうでもしないと、今しかないと思った。

 加瀬拓哉の連絡先を知らない私に、清花が携帯を貸してくれた。

 家を出て、私は通話ボタンを押した。
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