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第7章 イトコとの、距離
第2話 従妹のためにも *加瀬拓哉*
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彩梨ちゃんが学校に向かうために家を出た。
ちょうどそのタイミングで、清花ちゃんに告げられる。
「ねえ、たっくん。最近、お姉ちゃんのこと避けてる?」
「え……」
避けている、と言われると少し、いやかなり聞こえが悪い。
「押してダメなら引いてみろ作戦? やめた方がいいよ。たっくんには向いてない」
「そう、かもしれない……」
実際、俺は彩梨ちゃんを避けるような行動ばかりをとっている。
「俺、彩梨ちゃんに嫌われてるから、キライな人と一緒になんていたくないでしょ? 彩梨ちゃんの負担になりたくないから」
「そんなの今さらじゃん?」
グサリと刺さる清花ちゃんの言葉が、今まで以上に営利なものに感じる。
「それでも好きなんじゃなかったの? どんなに冷たくされても盲目的に好き好き言ってたくせに。急に態度翻されてお姉ちゃん、超カワイソー。せっかくたっくんのこと見直して、1歩前進ってところだったのに」
「え、なにそれ」
「たっくんに嫌われたって思って落ち込んでるお姉ちゃん、超可哀想」
「落ち込んでる!? 彩梨ちゃんが!?」
嘘、嘘、嘘、嘘。
いや、でも。
待て待て待て。
嘘。
落ち着きのなくなる思考回路を無理矢理落ち着かせて、清花ちゃんに確認する。
「彩梨ちゃん、落ち込んでる、の……?」
「見ててわかんない? 割とあからさまだけど」
「……彩梨ちゃんのこと、あんまり見ないようにしてたから……」
彩梨ちゃんを直視したら、「かわいいなあ」って思っちゃうし、「近づきたい」って思っちゃうし、「話しかけたい」って思っちゃうし。
でも、それじゃあ彩梨ちゃんの負担になるから直視しないようにしていた。
「じゃあ、お姉ちゃんがたっくんとなにか話したそうにしてたのも気づいてないんだ?」
「彩梨ちゃんが!? 俺に!?」
「そんなに驚くこと?」
「だって今まで俺から話しかけることはあっても、彩梨ちゃんから話しかけてくれることなんて……。いったい、なんの話だろう」
やばい。
舞い上がってしまう。
ダメだって、思うのに。
もしかして、って期待してしまう。
「本人に聞けばいいじゃん。話したいのはお姉ちゃんだし。きっかけさえあれば話してくれるよ、たぶん」
い、いいのかな……。
話しかけても。
でも、彩梨ちゃんがなにか話があって、俺がそれを阻んでいるのだとしたら……。
き、緊張する……っ!!
*****
「たっくん、出かけるんでしょ! 今そわそわしててもお姉ちゃん帰って来るのお昼過ぎだよ!」
「あ、うん、そうだね」
彩梨ちゃんに話しかけようと決めてから、俺の頭の中はなんて話しかけようか、セリフがぐるぐるしている。
『彩梨ちゃん、話ってなにかな?』
違う。
彩梨ちゃんに話があると言われたわけじゃないのに、このセリフはおかしい。
『彩梨ちゃん、俺に話したいことない?』
……いや、変だろ。
『彩梨ちゃん、好きです』
バカ!!
好きだけど!!
『彩梨ちゃん、彩梨ちゃん、彩梨ちゃん……』
彩梨ちゃんのことが、頭の中でぐるぐると巡る。
「ほら、行くよ」
清花ちゃんに急かされるように家を出ても、俺の頭の中は彩梨ちゃんのことでいっぱいだ。
「来ないでって言ってるのっ!!」
「あぁ!? 俺だって好きで来たわけじゃねーよ!!」
ふいに聞こえた聞き覚えのある声に、いやでも思考が途絶えた。
1つは女の子の声。
向かいに住む、小野桜ちゃん。
なにがあったかわからないけど、「来ないで」と叫ぶその姿は今まで見てきた桜ちゃんの様子とはかなりかけ離れていた。
そしてもう1つ。
男の子の姿を見て、俺はいろんな意味で思考が停止。
「……澪?」
間違っていなければ、いや、間違っているはずがない。
『スカイアクア』として、今までずっと一緒にやってきたメンバーの、顔と声とその姿を間違えるはずがない。
澪も、俺を見て固まる。
「……か、せ?」
真新しい制服を着る澪は、今日は入学式だと言っていた。
それが、なぜ。
「なにしてるの」
そうもらせば、澪は顔をしかめた。
ほんの少しの沈黙を置いて、澪が告げる。
「……父親の再婚相手の家」
そう言って、指をさすのは間違いなく小野さんの家。
「……そっちこそ、こんなところでなにしてんだよ」
「向かいが俺のイトコの家、居候先」
「……は?」
「俺の従妹」
「どーもー」
世間って、意外と狭い。
それを実感した瞬間だった。
「で、なにを揉めてたわけ?」
清花ちゃんが尋ねるも。
「……」
澪はだんまりを決め込むし。
「……」
桜ちゃんは、目に涙をためて俺、なにもできない。
「桜ちゃん、今日入学式じゃん。行かないの?」
清花ちゃんが聞くと、桜ちゃんは今にも涙をこぼしそうになりながら、言う。
「入学式、澪君が来るなら、行かない」
「あぁ!?」
ビクリと震える桜ちゃんに、中学生相手になにをやっているのかと思うけど、澪もついこの間まで中学生だった。
「わざわざ来てやってんだぞ、こっちは!!」
「こらこら少年、怒鳴るんじゃないよ」
清花ちゃん、中学生だと言うのに、高校生相手に……とは言っても1つしか違わないのか……。
「じゃあ、この清花様がこの人を足止めしておいてあげるよ。入学式には行かせない」
「は?」
「え? 清花ちゃん?」
なにを言って……。
「本当?」
「ホント、ホント。だから早く行きなよ。入学式早々、遅刻しちゃうよ?」
「うん! 絶対! 約束だからね! 絶対、来ちゃダメだから!」
最後、澪にしっかり言い放って、桜ちゃんは中学校へと向かって行った。
「……どういうつもりだよ」
「別に? 一緒に行く必要はないじゃん? キミはひっそりこっそり、桜ちゃんにバレないように入学式に向かいたまえよ。そしてひっそりこっそり初々しい桜ちゃんの姿をカメラに収めてくるがいい」
「……俺に盗撮まがいのことをしろってのか?」
澪の眼差しが不機嫌に鋭くなる。
けど、清花ちゃんは動じない。
「嫌がる女の子に無理矢理ついて行こうっての?」
「……」
不機嫌をあらわにしながらも、澪は渋々了承したようで、桜ちゃんに見つからないように中学校へ向かって行った。
*****
「しくった!」
澪からそんな連絡が入ったのは、それから1時間もしない頃。
中学校へ向かう途中だった桜ちゃんに澪の存在がバレて、桜ちゃんが姿を消した……。
ちょうどそのタイミングで、清花ちゃんに告げられる。
「ねえ、たっくん。最近、お姉ちゃんのこと避けてる?」
「え……」
避けている、と言われると少し、いやかなり聞こえが悪い。
「押してダメなら引いてみろ作戦? やめた方がいいよ。たっくんには向いてない」
「そう、かもしれない……」
実際、俺は彩梨ちゃんを避けるような行動ばかりをとっている。
「俺、彩梨ちゃんに嫌われてるから、キライな人と一緒になんていたくないでしょ? 彩梨ちゃんの負担になりたくないから」
「そんなの今さらじゃん?」
グサリと刺さる清花ちゃんの言葉が、今まで以上に営利なものに感じる。
「それでも好きなんじゃなかったの? どんなに冷たくされても盲目的に好き好き言ってたくせに。急に態度翻されてお姉ちゃん、超カワイソー。せっかくたっくんのこと見直して、1歩前進ってところだったのに」
「え、なにそれ」
「たっくんに嫌われたって思って落ち込んでるお姉ちゃん、超可哀想」
「落ち込んでる!? 彩梨ちゃんが!?」
嘘、嘘、嘘、嘘。
いや、でも。
待て待て待て。
嘘。
落ち着きのなくなる思考回路を無理矢理落ち着かせて、清花ちゃんに確認する。
「彩梨ちゃん、落ち込んでる、の……?」
「見ててわかんない? 割とあからさまだけど」
「……彩梨ちゃんのこと、あんまり見ないようにしてたから……」
彩梨ちゃんを直視したら、「かわいいなあ」って思っちゃうし、「近づきたい」って思っちゃうし、「話しかけたい」って思っちゃうし。
でも、それじゃあ彩梨ちゃんの負担になるから直視しないようにしていた。
「じゃあ、お姉ちゃんがたっくんとなにか話したそうにしてたのも気づいてないんだ?」
「彩梨ちゃんが!? 俺に!?」
「そんなに驚くこと?」
「だって今まで俺から話しかけることはあっても、彩梨ちゃんから話しかけてくれることなんて……。いったい、なんの話だろう」
やばい。
舞い上がってしまう。
ダメだって、思うのに。
もしかして、って期待してしまう。
「本人に聞けばいいじゃん。話したいのはお姉ちゃんだし。きっかけさえあれば話してくれるよ、たぶん」
い、いいのかな……。
話しかけても。
でも、彩梨ちゃんがなにか話があって、俺がそれを阻んでいるのだとしたら……。
き、緊張する……っ!!
*****
「たっくん、出かけるんでしょ! 今そわそわしててもお姉ちゃん帰って来るのお昼過ぎだよ!」
「あ、うん、そうだね」
彩梨ちゃんに話しかけようと決めてから、俺の頭の中はなんて話しかけようか、セリフがぐるぐるしている。
『彩梨ちゃん、話ってなにかな?』
違う。
彩梨ちゃんに話があると言われたわけじゃないのに、このセリフはおかしい。
『彩梨ちゃん、俺に話したいことない?』
……いや、変だろ。
『彩梨ちゃん、好きです』
バカ!!
好きだけど!!
『彩梨ちゃん、彩梨ちゃん、彩梨ちゃん……』
彩梨ちゃんのことが、頭の中でぐるぐると巡る。
「ほら、行くよ」
清花ちゃんに急かされるように家を出ても、俺の頭の中は彩梨ちゃんのことでいっぱいだ。
「来ないでって言ってるのっ!!」
「あぁ!? 俺だって好きで来たわけじゃねーよ!!」
ふいに聞こえた聞き覚えのある声に、いやでも思考が途絶えた。
1つは女の子の声。
向かいに住む、小野桜ちゃん。
なにがあったかわからないけど、「来ないで」と叫ぶその姿は今まで見てきた桜ちゃんの様子とはかなりかけ離れていた。
そしてもう1つ。
男の子の姿を見て、俺はいろんな意味で思考が停止。
「……澪?」
間違っていなければ、いや、間違っているはずがない。
『スカイアクア』として、今までずっと一緒にやってきたメンバーの、顔と声とその姿を間違えるはずがない。
澪も、俺を見て固まる。
「……か、せ?」
真新しい制服を着る澪は、今日は入学式だと言っていた。
それが、なぜ。
「なにしてるの」
そうもらせば、澪は顔をしかめた。
ほんの少しの沈黙を置いて、澪が告げる。
「……父親の再婚相手の家」
そう言って、指をさすのは間違いなく小野さんの家。
「……そっちこそ、こんなところでなにしてんだよ」
「向かいが俺のイトコの家、居候先」
「……は?」
「俺の従妹」
「どーもー」
世間って、意外と狭い。
それを実感した瞬間だった。
「で、なにを揉めてたわけ?」
清花ちゃんが尋ねるも。
「……」
澪はだんまりを決め込むし。
「……」
桜ちゃんは、目に涙をためて俺、なにもできない。
「桜ちゃん、今日入学式じゃん。行かないの?」
清花ちゃんが聞くと、桜ちゃんは今にも涙をこぼしそうになりながら、言う。
「入学式、澪君が来るなら、行かない」
「あぁ!?」
ビクリと震える桜ちゃんに、中学生相手になにをやっているのかと思うけど、澪もついこの間まで中学生だった。
「わざわざ来てやってんだぞ、こっちは!!」
「こらこら少年、怒鳴るんじゃないよ」
清花ちゃん、中学生だと言うのに、高校生相手に……とは言っても1つしか違わないのか……。
「じゃあ、この清花様がこの人を足止めしておいてあげるよ。入学式には行かせない」
「は?」
「え? 清花ちゃん?」
なにを言って……。
「本当?」
「ホント、ホント。だから早く行きなよ。入学式早々、遅刻しちゃうよ?」
「うん! 絶対! 約束だからね! 絶対、来ちゃダメだから!」
最後、澪にしっかり言い放って、桜ちゃんは中学校へと向かって行った。
「……どういうつもりだよ」
「別に? 一緒に行く必要はないじゃん? キミはひっそりこっそり、桜ちゃんにバレないように入学式に向かいたまえよ。そしてひっそりこっそり初々しい桜ちゃんの姿をカメラに収めてくるがいい」
「……俺に盗撮まがいのことをしろってのか?」
澪の眼差しが不機嫌に鋭くなる。
けど、清花ちゃんは動じない。
「嫌がる女の子に無理矢理ついて行こうっての?」
「……」
不機嫌をあらわにしながらも、澪は渋々了承したようで、桜ちゃんに見つからないように中学校へ向かって行った。
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