【完結】イトコに恋して

桐生千種

文字の大きさ
上 下
19 / 32
第5章 サヨナラ、弟

第3話 従弟からの忠告 *加瀬拓哉*

しおりを挟む
 バタバタと、家の中へ走り去って行く彩梨ちゃん。

 そして、直樹君が言う。

「なんか、今生の別れみないなこと言われたんだけど」

 えーっと、状況を整理すると……。

 今日は、俺の歓迎会で、直樹君の壮行会で、入学祝いで、卒業祝いで、進級祝いだった。

 ご近所さんにお菓子を渡すことができた。

 桜ちゃんは、渡そうとしたけど泣かれて、雪乃君に怒られて、だから皐月君に託した。

 夕食中、帰宅された相沢さん家のパパさん――善文パパさんにもあいさつすることができた。

 あと片付けのとき、手伝いを申し出たけど断られた。

 食い下がってみたけど、章兄ちゃんに『妹を泣かせないで、って言ったよね?』なんて言われて血の気が引いた。

 だって、章兄ちゃんを敵に回した暁には、俺の彩梨ちゃんとのパッピーライフは絶対遠退く!!
 そんな気がする!!

 でも、どうして桜ちゃんに泣かれてしまうのか、未だにわからない……。
 途中からゲームに加わった桜ちゃんが、俺を見ても泣かずにいてはくれたけど、必死に涙を堪える目で見られて尋常じゃなく胸が痛んだ……。

 それから、彩梨ちゃんが俺の隣を選んで座ってくれて。
 ビックリして、嬉しくて、心臓がバクバクした。

 今日1日で、ご近所のチビッ子ちゃんとはそこそこ仲良くなれたと思う。
 桜ちゃんと雪乃君以外……。

 「たっくん」なんて呼んでくれるようになったし。
 桜ちゃんと雪乃君以外……。

 そこまで考えて、現在。

 俺はずっと彩梨ちゃんを見ていた。

 見ていたけど、特に変わった様子はなかったし、どうして突然『今生の別れ』なんて……。

 ――っ!?

 不吉な考えが頭をよぎる。

 まさか自殺!?
 いやでもなんで!?

 それよりも今は彩梨ちゃんを止めないとっ!!

「彩梨ちゃんっ!!」 

 自殺なんてダメだ!!
 早まっちゃダメだ!!

 悩みなら俺が聞くよ!!

 どうしようもできないことでも、俺がどうにかするから!!
 彩梨ちゃんのためなら、なんだってするから!!

 だからっ……!!

「待て待て待て待て」

 ガシッ! と俺の服を掴んで引っ張って、直樹君が俺を止めた。

 何で!? どうして!?

「彩梨ちゃんのピンチなのにっ!!」
「こんなんで死なれちゃ、俺どこにも行けねーよ。一生実家暮らし、もしくは姉ちゃんと同居だよ。ヤだよそんなの」

 ……思い直した。

「よくわかったね。俺が考えてること」
「たっくんわかりやすいから」

 俺、そんなにわかりやすいかな……。

「今はさ、そっとしといてやって。それより、話があるんだけど」
「話?」
「姉ちゃんのこと」
「聞こう」
「ここじゃ何だから、俺の部屋で」

 そして、来た。
 直樹君の部屋。
 そして、俺が借りてる部屋。
 明日からは、俺1人になる部屋。

「あ。あんまり大きい声出すと隣に筒抜けだから、気をつけて」
「う、うん」

 なんだろう。
 直樹君が、俺と2人きりで話したいことなんて。

 しかも、誰かに聞かれたらマズイっぽい話みたいだし。

 とりあえず、2人、座る。

 そして、直樹君が話し始める。

「姉ちゃんさ、寂しいんだよね。お父さん行っちゃったし、俺も明日行くからさ」

 俺は、黙って聞く。

「でも、姉ちゃんって強がりで意地っ張りで、まあ頑固だから、なかなか寂しいって言わないし、人前じゃ絶対泣かないし、何でも1人で溜め込んだりして、弟ながらちょっと心配なんだよね、フォローできるの清花しかいなくなるから」

 おお!?
 これはもしや、『姉ちゃんをよろしく』的な? そんなヤツ!?

 頼まれなくたって、彩梨ちゃんのことなら……!

「本当なら、たっくんに姉ちゃんのことよろしくって言えたらよかったんだけど」

 ……あれ?

「そういうわけにもいかないんだよね」

 ……あれあれ?
 なんか、雲行きがあやしい……?

「たっくんさ、姉ちゃんに嫌われてるって自覚ある?」
「え……、いや……、避けられて、……好かれるまではいかなくても……、あ、ほら! 今日は隣に座ってくれたし! そんなに悪くもないんじゃないかな」

「それ、本気で言ってるんだったら、今すぐこの家出てってほしい」

「え……?」

 直樹、君?
 急に、どうしたの……?

「たっくんってさ、姉ちゃんのなにが好きなの? どこにホレたの?」

「それは初日に言った通り」
「見た目も中身も全部好き?」
「そうそう」
「具体的には?」
「前にも言ったじゃん。強がりで、泣き虫で、臆病で、全部好き」

「それってさ、全部俺たちがたっくんに教えた情報じゃん。たっくんの前で、強がりを発揮したことも、泣き虫発揮したことも、臆病な面を見せたことないよね? だって姉ちゃん、たっくんのこと避けてすぐどっか逃げちゃうから。まともに話したことだってほとんどないのに、なんで見てもいない姉ちゃんのいち面を好きなんて言えるの? たっくん、ちゃんと姉ちゃんのこと見てる?」

 ……。

「たっくん、小さいときに見た赤ちゃんがただ物珍しかっただけなんじゃない? それがたまたま姉ちゃんだっただけで。それを恋と勘違いしたんじゃない? 今までずっと、好きだ好きだって言ってきて、今さら引っ込みがつかなくなってるだけなんじゃない? 自分に振り向いてくれないから、意固地になってさ」

「そんなこと……!」

「『ない』って言えるの? 本当に、心の底から。姉ちゃん自身を見て、姉ちゃんを好きだって言ってるの? たっくんの勝手な妄想で、自分の理想を押し付けて、姉ちゃんの気持ちも行動も、全部自分の都合のいいように解釈して、それで好きだの愛だの言うなら、これ以上姉ちゃんに固執するのやめてほしい」

 ……。

「姉ちゃんはさ、なんでも溜め込んじゃうタイプだから。……夜、寝れなくなっても何も言わずに普通の生活を送るし、トイレで隠れて吐いててもなにも言わないんだ。たっくんがこの家にいることで、姉ちゃんに固執し続けることで、それがストレスになるんじゃないかって。それが心配。俺は、従兄の兄ちゃんより実の姉ちゃんのほうが大事だから。今の状態が続くなら、たっくんのこと、応援できない」

 ……。

 そ、っか……。

 そっか……。

「そっか……、俺、そんなに嫌われてたんだ……」

 痛い……。

 でも……。

「ホントは、さ。俺、気づいてたんだ。嫌われてるな、って。でも、いつかはって。今はダメでも、いつか振り向いてくれる日がくるんじゃないかって、好きになってくれるって……。でも、そっか……。ストレスか……」

「ごめん、なんか」

「なんで直樹君が謝るの? 俺は感謝するよ。なにも言われずにいたら、俺、この先ずっと、一生、彩梨ちゃんを苦しめることになってた。だから、ありがとう」

 少し。距離をおこう。

 彩梨ちゃんとはできるだけ離れて、あんまり近づかないようにして、この家を出られるようにアパートも探そう。

 それがいい。

 俺がいると、彩梨ちゃんに苦しい思いをさせることになるから……。

 でもね、彩梨ちゃん。
 俺、本当に彩梨ちゃんのこと好きなんだよ?

 勘違いなんかじゃない、これは本当の、俺の気持ち、だよ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

処理中です...