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第5章 サヨナラ、弟
第3話 従弟からの忠告 *加瀬拓哉*
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バタバタと、家の中へ走り去って行く彩梨ちゃん。
そして、直樹君が言う。
「なんか、今生の別れみないなこと言われたんだけど」
えーっと、状況を整理すると……。
今日は、俺の歓迎会で、直樹君の壮行会で、入学祝いで、卒業祝いで、進級祝いだった。
ご近所さんにお菓子を渡すことができた。
桜ちゃんは、渡そうとしたけど泣かれて、雪乃君に怒られて、だから皐月君に託した。
夕食中、帰宅された相沢さん家のパパさん――善文パパさんにもあいさつすることができた。
あと片付けのとき、手伝いを申し出たけど断られた。
食い下がってみたけど、章兄ちゃんに『妹を泣かせないで、って言ったよね?』なんて言われて血の気が引いた。
だって、章兄ちゃんを敵に回した暁には、俺の彩梨ちゃんとのパッピーライフは絶対遠退く!!
そんな気がする!!
でも、どうして桜ちゃんに泣かれてしまうのか、未だにわからない……。
途中からゲームに加わった桜ちゃんが、俺を見ても泣かずにいてはくれたけど、必死に涙を堪える目で見られて尋常じゃなく胸が痛んだ……。
それから、彩梨ちゃんが俺の隣を選んで座ってくれて。
ビックリして、嬉しくて、心臓がバクバクした。
今日1日で、ご近所のチビッ子ちゃんとはそこそこ仲良くなれたと思う。
桜ちゃんと雪乃君以外……。
「たっくん」なんて呼んでくれるようになったし。
桜ちゃんと雪乃君以外……。
そこまで考えて、現在。
俺はずっと彩梨ちゃんを見ていた。
見ていたけど、特に変わった様子はなかったし、どうして突然『今生の別れ』なんて……。
――っ!?
不吉な考えが頭をよぎる。
まさか自殺!?
いやでもなんで!?
それよりも今は彩梨ちゃんを止めないとっ!!
「彩梨ちゃんっ!!」
自殺なんてダメだ!!
早まっちゃダメだ!!
悩みなら俺が聞くよ!!
どうしようもできないことでも、俺がどうにかするから!!
彩梨ちゃんのためなら、なんだってするから!!
だからっ……!!
「待て待て待て待て」
ガシッ! と俺の服を掴んで引っ張って、直樹君が俺を止めた。
何で!? どうして!?
「彩梨ちゃんのピンチなのにっ!!」
「こんなんで死なれちゃ、俺どこにも行けねーよ。一生実家暮らし、もしくは姉ちゃんと同居だよ。ヤだよそんなの」
……思い直した。
「よくわかったね。俺が考えてること」
「たっくんわかりやすいから」
俺、そんなにわかりやすいかな……。
「今はさ、そっとしといてやって。それより、話があるんだけど」
「話?」
「姉ちゃんのこと」
「聞こう」
「ここじゃ何だから、俺の部屋で」
そして、来た。
直樹君の部屋。
そして、俺が借りてる部屋。
明日からは、俺1人になる部屋。
「あ。あんまり大きい声出すと隣に筒抜けだから、気をつけて」
「う、うん」
なんだろう。
直樹君が、俺と2人きりで話したいことなんて。
しかも、誰かに聞かれたらマズイっぽい話みたいだし。
とりあえず、2人、座る。
そして、直樹君が話し始める。
「姉ちゃんさ、寂しいんだよね。お父さん行っちゃったし、俺も明日行くからさ」
俺は、黙って聞く。
「でも、姉ちゃんって強がりで意地っ張りで、まあ頑固だから、なかなか寂しいって言わないし、人前じゃ絶対泣かないし、何でも1人で溜め込んだりして、弟ながらちょっと心配なんだよね、フォローできるの清花しかいなくなるから」
おお!?
これはもしや、『姉ちゃんをよろしく』的な? そんなヤツ!?
頼まれなくたって、彩梨ちゃんのことなら……!
「本当なら、たっくんに姉ちゃんのことよろしくって言えたらよかったんだけど」
……あれ?
「そういうわけにもいかないんだよね」
……あれあれ?
なんか、雲行きがあやしい……?
「たっくんさ、姉ちゃんに嫌われてるって自覚ある?」
「え……、いや……、避けられて、……好かれるまではいかなくても……、あ、ほら! 今日は隣に座ってくれたし! そんなに悪くもないんじゃないかな」
「それ、本気で言ってるんだったら、今すぐこの家出てってほしい」
「え……?」
直樹、君?
急に、どうしたの……?
「たっくんってさ、姉ちゃんのなにが好きなの? どこにホレたの?」
「それは初日に言った通り」
「見た目も中身も全部好き?」
「そうそう」
「具体的には?」
「前にも言ったじゃん。強がりで、泣き虫で、臆病で、全部好き」
「それってさ、全部俺たちがたっくんに教えた情報じゃん。たっくんの前で、強がりを発揮したことも、泣き虫発揮したことも、臆病な面を見せたことないよね? だって姉ちゃん、たっくんのこと避けてすぐどっか逃げちゃうから。まともに話したことだってほとんどないのに、なんで見てもいない姉ちゃんのいち面を好きなんて言えるの? たっくん、ちゃんと姉ちゃんのこと見てる?」
……。
「たっくん、小さいときに見た赤ちゃんがただ物珍しかっただけなんじゃない? それがたまたま姉ちゃんだっただけで。それを恋と勘違いしたんじゃない? 今までずっと、好きだ好きだって言ってきて、今さら引っ込みがつかなくなってるだけなんじゃない? 自分に振り向いてくれないから、意固地になってさ」
「そんなこと……!」
「『ない』って言えるの? 本当に、心の底から。姉ちゃん自身を見て、姉ちゃんを好きだって言ってるの? たっくんの勝手な妄想で、自分の理想を押し付けて、姉ちゃんの気持ちも行動も、全部自分の都合のいいように解釈して、それで好きだの愛だの言うなら、これ以上姉ちゃんに固執するのやめてほしい」
……。
「姉ちゃんはさ、なんでも溜め込んじゃうタイプだから。……夜、寝れなくなっても何も言わずに普通の生活を送るし、トイレで隠れて吐いててもなにも言わないんだ。たっくんがこの家にいることで、姉ちゃんに固執し続けることで、それがストレスになるんじゃないかって。それが心配。俺は、従兄の兄ちゃんより実の姉ちゃんのほうが大事だから。今の状態が続くなら、たっくんのこと、応援できない」
……。
そ、っか……。
そっか……。
「そっか……、俺、そんなに嫌われてたんだ……」
痛い……。
でも……。
「ホントは、さ。俺、気づいてたんだ。嫌われてるな、って。でも、いつかはって。今はダメでも、いつか振り向いてくれる日がくるんじゃないかって、好きになってくれるって……。でも、そっか……。ストレスか……」
「ごめん、なんか」
「なんで直樹君が謝るの? 俺は感謝するよ。なにも言われずにいたら、俺、この先ずっと、一生、彩梨ちゃんを苦しめることになってた。だから、ありがとう」
少し。距離をおこう。
彩梨ちゃんとはできるだけ離れて、あんまり近づかないようにして、この家を出られるようにアパートも探そう。
それがいい。
俺がいると、彩梨ちゃんに苦しい思いをさせることになるから……。
でもね、彩梨ちゃん。
俺、本当に彩梨ちゃんのこと好きなんだよ?
勘違いなんかじゃない、これは本当の、俺の気持ち、だよ……。
そして、直樹君が言う。
「なんか、今生の別れみないなこと言われたんだけど」
えーっと、状況を整理すると……。
今日は、俺の歓迎会で、直樹君の壮行会で、入学祝いで、卒業祝いで、進級祝いだった。
ご近所さんにお菓子を渡すことができた。
桜ちゃんは、渡そうとしたけど泣かれて、雪乃君に怒られて、だから皐月君に託した。
夕食中、帰宅された相沢さん家のパパさん――善文パパさんにもあいさつすることができた。
あと片付けのとき、手伝いを申し出たけど断られた。
食い下がってみたけど、章兄ちゃんに『妹を泣かせないで、って言ったよね?』なんて言われて血の気が引いた。
だって、章兄ちゃんを敵に回した暁には、俺の彩梨ちゃんとのパッピーライフは絶対遠退く!!
そんな気がする!!
でも、どうして桜ちゃんに泣かれてしまうのか、未だにわからない……。
途中からゲームに加わった桜ちゃんが、俺を見ても泣かずにいてはくれたけど、必死に涙を堪える目で見られて尋常じゃなく胸が痛んだ……。
それから、彩梨ちゃんが俺の隣を選んで座ってくれて。
ビックリして、嬉しくて、心臓がバクバクした。
今日1日で、ご近所のチビッ子ちゃんとはそこそこ仲良くなれたと思う。
桜ちゃんと雪乃君以外……。
「たっくん」なんて呼んでくれるようになったし。
桜ちゃんと雪乃君以外……。
そこまで考えて、現在。
俺はずっと彩梨ちゃんを見ていた。
見ていたけど、特に変わった様子はなかったし、どうして突然『今生の別れ』なんて……。
――っ!?
不吉な考えが頭をよぎる。
まさか自殺!?
いやでもなんで!?
それよりも今は彩梨ちゃんを止めないとっ!!
「彩梨ちゃんっ!!」
自殺なんてダメだ!!
早まっちゃダメだ!!
悩みなら俺が聞くよ!!
どうしようもできないことでも、俺がどうにかするから!!
彩梨ちゃんのためなら、なんだってするから!!
だからっ……!!
「待て待て待て待て」
ガシッ! と俺の服を掴んで引っ張って、直樹君が俺を止めた。
何で!? どうして!?
「彩梨ちゃんのピンチなのにっ!!」
「こんなんで死なれちゃ、俺どこにも行けねーよ。一生実家暮らし、もしくは姉ちゃんと同居だよ。ヤだよそんなの」
……思い直した。
「よくわかったね。俺が考えてること」
「たっくんわかりやすいから」
俺、そんなにわかりやすいかな……。
「今はさ、そっとしといてやって。それより、話があるんだけど」
「話?」
「姉ちゃんのこと」
「聞こう」
「ここじゃ何だから、俺の部屋で」
そして、来た。
直樹君の部屋。
そして、俺が借りてる部屋。
明日からは、俺1人になる部屋。
「あ。あんまり大きい声出すと隣に筒抜けだから、気をつけて」
「う、うん」
なんだろう。
直樹君が、俺と2人きりで話したいことなんて。
しかも、誰かに聞かれたらマズイっぽい話みたいだし。
とりあえず、2人、座る。
そして、直樹君が話し始める。
「姉ちゃんさ、寂しいんだよね。お父さん行っちゃったし、俺も明日行くからさ」
俺は、黙って聞く。
「でも、姉ちゃんって強がりで意地っ張りで、まあ頑固だから、なかなか寂しいって言わないし、人前じゃ絶対泣かないし、何でも1人で溜め込んだりして、弟ながらちょっと心配なんだよね、フォローできるの清花しかいなくなるから」
おお!?
これはもしや、『姉ちゃんをよろしく』的な? そんなヤツ!?
頼まれなくたって、彩梨ちゃんのことなら……!
「本当なら、たっくんに姉ちゃんのことよろしくって言えたらよかったんだけど」
……あれ?
「そういうわけにもいかないんだよね」
……あれあれ?
なんか、雲行きがあやしい……?
「たっくんさ、姉ちゃんに嫌われてるって自覚ある?」
「え……、いや……、避けられて、……好かれるまではいかなくても……、あ、ほら! 今日は隣に座ってくれたし! そんなに悪くもないんじゃないかな」
「それ、本気で言ってるんだったら、今すぐこの家出てってほしい」
「え……?」
直樹、君?
急に、どうしたの……?
「たっくんってさ、姉ちゃんのなにが好きなの? どこにホレたの?」
「それは初日に言った通り」
「見た目も中身も全部好き?」
「そうそう」
「具体的には?」
「前にも言ったじゃん。強がりで、泣き虫で、臆病で、全部好き」
「それってさ、全部俺たちがたっくんに教えた情報じゃん。たっくんの前で、強がりを発揮したことも、泣き虫発揮したことも、臆病な面を見せたことないよね? だって姉ちゃん、たっくんのこと避けてすぐどっか逃げちゃうから。まともに話したことだってほとんどないのに、なんで見てもいない姉ちゃんのいち面を好きなんて言えるの? たっくん、ちゃんと姉ちゃんのこと見てる?」
……。
「たっくん、小さいときに見た赤ちゃんがただ物珍しかっただけなんじゃない? それがたまたま姉ちゃんだっただけで。それを恋と勘違いしたんじゃない? 今までずっと、好きだ好きだって言ってきて、今さら引っ込みがつかなくなってるだけなんじゃない? 自分に振り向いてくれないから、意固地になってさ」
「そんなこと……!」
「『ない』って言えるの? 本当に、心の底から。姉ちゃん自身を見て、姉ちゃんを好きだって言ってるの? たっくんの勝手な妄想で、自分の理想を押し付けて、姉ちゃんの気持ちも行動も、全部自分の都合のいいように解釈して、それで好きだの愛だの言うなら、これ以上姉ちゃんに固執するのやめてほしい」
……。
「姉ちゃんはさ、なんでも溜め込んじゃうタイプだから。……夜、寝れなくなっても何も言わずに普通の生活を送るし、トイレで隠れて吐いててもなにも言わないんだ。たっくんがこの家にいることで、姉ちゃんに固執し続けることで、それがストレスになるんじゃないかって。それが心配。俺は、従兄の兄ちゃんより実の姉ちゃんのほうが大事だから。今の状態が続くなら、たっくんのこと、応援できない」
……。
そ、っか……。
そっか……。
「そっか……、俺、そんなに嫌われてたんだ……」
痛い……。
でも……。
「ホントは、さ。俺、気づいてたんだ。嫌われてるな、って。でも、いつかはって。今はダメでも、いつか振り向いてくれる日がくるんじゃないかって、好きになってくれるって……。でも、そっか……。ストレスか……」
「ごめん、なんか」
「なんで直樹君が謝るの? 俺は感謝するよ。なにも言われずにいたら、俺、この先ずっと、一生、彩梨ちゃんを苦しめることになってた。だから、ありがとう」
少し。距離をおこう。
彩梨ちゃんとはできるだけ離れて、あんまり近づかないようにして、この家を出られるようにアパートも探そう。
それがいい。
俺がいると、彩梨ちゃんに苦しい思いをさせることになるから……。
でもね、彩梨ちゃん。
俺、本当に彩梨ちゃんのこと好きなんだよ?
勘違いなんかじゃない、これは本当の、俺の気持ち、だよ……。
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