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第4章 みんなで、わいわい
第2話 男の正体 *加瀬拓哉*
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ああ、どうしよう。
わあ、どうしよう。
あああ、どうしよう。
萌葱町、加瀬家。
家の前で、俺は悩みに悩んでいる。
この目の前にあるドアを、開けるに開けられずにいる。
だって!
彩梨ちゃんが、彩梨ちゃんがっ!!
電車の中で手を繋いだ男と始終手を繋ぎっぱなして一緒に歩いていたんだ!
それだけなら、まだしも! イヤだけど!
この現状を見たあとなら、手を繋いで一緒に歩くくらい些細なことだよ!
だってその男、彩梨ちゃんの家に入って行ったんだ!!!
何、何、何、何、どういうこと!?
家族公認の仲ってこと!?
手を繋いで彼女の実家に入れちゃうような、そんな深い仲なの!?
ああ……。
家の前だけど、俺が住まわせてもらうことになった家の前だけど……。
開けられない……。
このドアを開けられない。
このドアを開けて、家の中で、彩梨ちゃんがさっきの男とイチャイチャしてたらヤだし。
っていうか、そんなの見たら俺……立ち直れない……。
ああ、でも……。
入らなきゃ、メールしたから直樹君なんかは不審に思うだろうし……。
でもでも、彩梨ちゃんが……。
だけど、でも……。
「……何してんの、たっくん」
その声に振り返ると、怪しいものを見るような目をして買い物袋をさげた直樹君が立っていた。
いつの間に……?
「メールにさ、姉ちゃんと同じ電車ってあったけど、姉ちゃんは? もう中? 入んないの? あ、もしかして、章兄ちゃんと一緒だったのにショック受けてる?」
「章兄ちゃん!? あれ章兄ちゃんなの!?」
「中に入ったんでしょ? 章兄ちゃんだよ」
「直樹君!!」
「な、なに」
思わず直樹君に掴みかかってしまったけど、ことは急を要する!!
「ダメだよ直樹君!! 章兄ちゃんは浮気男だよ!! 2股男!! 今すぐ彩梨ちゃんと引き離さなきゃ!!」
「どーどーどー」
胸倉を掴まれながら、直樹君が言う。
俺は馬じゃない。
「たっくんが勘違いしちゃう気持ちはわかるよ。よーくわかる。でもさ、たっくんが想像してるような仲じゃないから。ホントになんもないから」
なんて、直樹君は言うけど。
「なんもない年頃の男女が、仲良く手を繋いで歩く!? 歩かないよね、普通!?」
「わかるよ。言いたいことはよーくわかるよ。でも姉ちゃんだから。あの人はやるよ、そーゆーこと。俺にも抱きついてきたり、手だって繋ぎたがるし」
「それは弟だからでしょ!?」
「うん。だから、そーゆーこと」
「……どーゆーこと?」
なんとなく、察しはついたけど、はっきりとした決め手を言葉にして言い切ってほしい。
「つまりは『兄ちゃん』ってこと。兄として、家族みたいに慕ってるってだけ。恋心、とかないから。そもそもそういう概念すら持ってないんじゃね? ってくらい姉ちゃんのそういう話聞かないし。だいたい章兄ちゃんは雪姉ちゃんしか眼中にないって言ってんじゃん」
直樹君はいうけど、でも。
「彩梨ちゃんはそうかもしれないけど、向こうはどうかわかんないじゃん。彼女がいながら2股かけようとしてるかもしれないし。やっぱり、引き離すべきだよ!!」
「そんなに気になるなら、直接本人に聞けば? 章兄ちゃん帰ってるんでしょ? 雪姉ちゃんもいるし」
「えっ、ちょっ、待っ……」
「あ、入る前にその帽子とサングラス取ってよね。俺らはいいけど、チビが強盗と間違えたら笑えない」
待って! 心の準備がっ!
俺が止めるのも聞かずに、ぐいぐいと家の中に引っ張り込む直樹君。
帽子とサングラスは外したけどもっ!!
そして立たされたドアの前。
このドアを開けたら、リビング。
彩梨ちゃんがいる。
そして、あの男……章兄ちゃんも。
「さっさと開ける」
「え、待っ……」
直樹君の手で、開けられてしまったドア。
そこで目にしたのは……。
「あ、彩梨ちゃんっ!!」
なんてこと!!
なんてひどい光景!!
一緒にいるのが『章兄ちゃん』でなかったとはいえ、イチャイチャしてるじゃないか、男とっ!!
小学生くらいの男の子を膝に乗せて、しっかりと抱きしめてるっ!!
「あー! テレビで見た人ー!」
ビシッ! と彩梨ちゃんの膝の上の男の子が俺を指差した。
指を差すのは別にいい。
構わないけどもっ!!
彩梨ちゃんがその手を握るーっ!!
「ほら、たっくん。入った入った」
うしろから直樹君に背中を押され、中に1歩踏み出す。
直樹君はそのまま俺の横を通り過ぎてキッチンに向かい、戻って来ると彩梨ちゃんのところに向かう。
買い物袋を置いて来たようだ。
俺は……、どうすればいいんだ?
「あ、たっくんおかえりー」
清花ちゃんがキッチンから顔を出し、続いてあの章兄ちゃんも現れる。
「お前……」
俺の顔を見て、驚いた様子を見せる章兄ちゃん。
それは、どういう意味の驚きだ?
「この家に入れるってことはストーカーじゃないんだ。警戒して損した」
は?
なにを言っているんだ、章兄ちゃん。
「なにそれー?」
食いついた清花ちゃん。
うん、俺も詳しく聞きたい。
「いやね。電車の中でずーっと彩梨ちゃんのことを見てる帽子にサングラスの男がいてさ、怪しいなーって思って彩梨ちゃんと手、繋いで帰って来たんだけどさ、ずーっとうしろついて来るからストーカーなのかと思った」
俺、そんなふうに見られてたの!?
「それ、彩梨ちゃんに……」
彩梨ちゃんにストーカーなんて思われてたら、俺……、俺……。
「ふーん、そういうこと」
ニヤリと笑う、章兄ちゃん。
「安心しなよ、彩梨ちゃんは気づいてないから」
ほーっ。
良かった、安心した。
「彩梨ちゃんに熱あげるのはいいけどさ」
な、なんだ。
「泣かせないでよ? 俺の大事ないもーと。彩梨ちゃんだけじゃなくて、清花ちゃんとか桜ちゃん、竜胆ちゃん、栞もね。それが守れるなら、応援してやってもいーよ?」
章兄ちゃん、超いいヤツ!!
「約束するよ! 絶対、幸せにして見せるから!!」
「その言い方だと語弊があるけど、ま、いいか。あ、弟たちもね」
「もちろん!」
「それから、雪音は俺の女だから、変な気起こさないでね」
「それは心配ないよ、たっくんお姉ちゃんに片想い歴16年未だ記録更新中だから」
清花ちゃん……、そんなイイ笑顔で言わないで……。
「ふーん、別にいいけど。あんまりしつこいと嫌われない?」
ぐさりとなにかが心に突き刺さった。
「章お兄ちゃん、そこは突っ込まないでいてあげて」
「あー、自覚はあるんだ。行き過ぎてホントのストーカーにならないでよ? ってわけで、はい」
はい?
わあ、どうしよう。
あああ、どうしよう。
萌葱町、加瀬家。
家の前で、俺は悩みに悩んでいる。
この目の前にあるドアを、開けるに開けられずにいる。
だって!
彩梨ちゃんが、彩梨ちゃんがっ!!
電車の中で手を繋いだ男と始終手を繋ぎっぱなして一緒に歩いていたんだ!
それだけなら、まだしも! イヤだけど!
この現状を見たあとなら、手を繋いで一緒に歩くくらい些細なことだよ!
だってその男、彩梨ちゃんの家に入って行ったんだ!!!
何、何、何、何、どういうこと!?
家族公認の仲ってこと!?
手を繋いで彼女の実家に入れちゃうような、そんな深い仲なの!?
ああ……。
家の前だけど、俺が住まわせてもらうことになった家の前だけど……。
開けられない……。
このドアを開けられない。
このドアを開けて、家の中で、彩梨ちゃんがさっきの男とイチャイチャしてたらヤだし。
っていうか、そんなの見たら俺……立ち直れない……。
ああ、でも……。
入らなきゃ、メールしたから直樹君なんかは不審に思うだろうし……。
でもでも、彩梨ちゃんが……。
だけど、でも……。
「……何してんの、たっくん」
その声に振り返ると、怪しいものを見るような目をして買い物袋をさげた直樹君が立っていた。
いつの間に……?
「メールにさ、姉ちゃんと同じ電車ってあったけど、姉ちゃんは? もう中? 入んないの? あ、もしかして、章兄ちゃんと一緒だったのにショック受けてる?」
「章兄ちゃん!? あれ章兄ちゃんなの!?」
「中に入ったんでしょ? 章兄ちゃんだよ」
「直樹君!!」
「な、なに」
思わず直樹君に掴みかかってしまったけど、ことは急を要する!!
「ダメだよ直樹君!! 章兄ちゃんは浮気男だよ!! 2股男!! 今すぐ彩梨ちゃんと引き離さなきゃ!!」
「どーどーどー」
胸倉を掴まれながら、直樹君が言う。
俺は馬じゃない。
「たっくんが勘違いしちゃう気持ちはわかるよ。よーくわかる。でもさ、たっくんが想像してるような仲じゃないから。ホントになんもないから」
なんて、直樹君は言うけど。
「なんもない年頃の男女が、仲良く手を繋いで歩く!? 歩かないよね、普通!?」
「わかるよ。言いたいことはよーくわかるよ。でも姉ちゃんだから。あの人はやるよ、そーゆーこと。俺にも抱きついてきたり、手だって繋ぎたがるし」
「それは弟だからでしょ!?」
「うん。だから、そーゆーこと」
「……どーゆーこと?」
なんとなく、察しはついたけど、はっきりとした決め手を言葉にして言い切ってほしい。
「つまりは『兄ちゃん』ってこと。兄として、家族みたいに慕ってるってだけ。恋心、とかないから。そもそもそういう概念すら持ってないんじゃね? ってくらい姉ちゃんのそういう話聞かないし。だいたい章兄ちゃんは雪姉ちゃんしか眼中にないって言ってんじゃん」
直樹君はいうけど、でも。
「彩梨ちゃんはそうかもしれないけど、向こうはどうかわかんないじゃん。彼女がいながら2股かけようとしてるかもしれないし。やっぱり、引き離すべきだよ!!」
「そんなに気になるなら、直接本人に聞けば? 章兄ちゃん帰ってるんでしょ? 雪姉ちゃんもいるし」
「えっ、ちょっ、待っ……」
「あ、入る前にその帽子とサングラス取ってよね。俺らはいいけど、チビが強盗と間違えたら笑えない」
待って! 心の準備がっ!
俺が止めるのも聞かずに、ぐいぐいと家の中に引っ張り込む直樹君。
帽子とサングラスは外したけどもっ!!
そして立たされたドアの前。
このドアを開けたら、リビング。
彩梨ちゃんがいる。
そして、あの男……章兄ちゃんも。
「さっさと開ける」
「え、待っ……」
直樹君の手で、開けられてしまったドア。
そこで目にしたのは……。
「あ、彩梨ちゃんっ!!」
なんてこと!!
なんてひどい光景!!
一緒にいるのが『章兄ちゃん』でなかったとはいえ、イチャイチャしてるじゃないか、男とっ!!
小学生くらいの男の子を膝に乗せて、しっかりと抱きしめてるっ!!
「あー! テレビで見た人ー!」
ビシッ! と彩梨ちゃんの膝の上の男の子が俺を指差した。
指を差すのは別にいい。
構わないけどもっ!!
彩梨ちゃんがその手を握るーっ!!
「ほら、たっくん。入った入った」
うしろから直樹君に背中を押され、中に1歩踏み出す。
直樹君はそのまま俺の横を通り過ぎてキッチンに向かい、戻って来ると彩梨ちゃんのところに向かう。
買い物袋を置いて来たようだ。
俺は……、どうすればいいんだ?
「あ、たっくんおかえりー」
清花ちゃんがキッチンから顔を出し、続いてあの章兄ちゃんも現れる。
「お前……」
俺の顔を見て、驚いた様子を見せる章兄ちゃん。
それは、どういう意味の驚きだ?
「この家に入れるってことはストーカーじゃないんだ。警戒して損した」
は?
なにを言っているんだ、章兄ちゃん。
「なにそれー?」
食いついた清花ちゃん。
うん、俺も詳しく聞きたい。
「いやね。電車の中でずーっと彩梨ちゃんのことを見てる帽子にサングラスの男がいてさ、怪しいなーって思って彩梨ちゃんと手、繋いで帰って来たんだけどさ、ずーっとうしろついて来るからストーカーなのかと思った」
俺、そんなふうに見られてたの!?
「それ、彩梨ちゃんに……」
彩梨ちゃんにストーカーなんて思われてたら、俺……、俺……。
「ふーん、そういうこと」
ニヤリと笑う、章兄ちゃん。
「安心しなよ、彩梨ちゃんは気づいてないから」
ほーっ。
良かった、安心した。
「彩梨ちゃんに熱あげるのはいいけどさ」
な、なんだ。
「泣かせないでよ? 俺の大事ないもーと。彩梨ちゃんだけじゃなくて、清花ちゃんとか桜ちゃん、竜胆ちゃん、栞もね。それが守れるなら、応援してやってもいーよ?」
章兄ちゃん、超いいヤツ!!
「約束するよ! 絶対、幸せにして見せるから!!」
「その言い方だと語弊があるけど、ま、いいか。あ、弟たちもね」
「もちろん!」
「それから、雪音は俺の女だから、変な気起こさないでね」
「それは心配ないよ、たっくんお姉ちゃんに片想い歴16年未だ記録更新中だから」
清花ちゃん……、そんなイイ笑顔で言わないで……。
「ふーん、別にいいけど。あんまりしつこいと嫌われない?」
ぐさりとなにかが心に突き刺さった。
「章お兄ちゃん、そこは突っ込まないでいてあげて」
「あー、自覚はあるんだ。行き過ぎてホントのストーカーにならないでよ? ってわけで、はい」
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