【完結】イトコに恋して

桐生千種

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第4章 みんなで、わいわい

第4話 仲良くなるぞ *加瀬拓哉*

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 「はい」と渡された物体に思わず変な声を出す。

「ぬおっ!?」

 章兄ちゃんに押し付けられた、2Lのペットボトル。
 しかも5本!!

「これ、チビたちのいるテーブルによろしく」
「じゃ、これもー」

 と、清花ちゃんには紙コップを持たされる。
 しかも袋ごと。

 腕と指が限界なんだけどっ!!

「仲良くなれるといいね」

 なんていいヤツ、章兄ちゃん!!
 もう、なんだって運ぶよっ!

 気分はるんるん。

 よし!
 チビッ子ちゃんとも仲良くなるぞ!
 彩梨ちゃんとの距離を縮めるためにっ!

 彩梨ちゃんの方を見ると、彩梨ちゃんの膝の上にいた男の子は直樹君のところにいた。

 よしっ!

 ……でも、彩梨ちゃんの隣にはまた別の男の子が陣取っている。

 その場所を俺に譲ってくれっ!!

 思いはするものの、口に出すわけにはいかない。

 大人になれ、俺っ!!

 彩梨ちゃんの隣には行けないけど、正面ならばっ!

「はーい! ジュースだよー!」

 なるべく明るく、できるだけ元気に!

 テーブルの上にペットボトルを置いて、紙コップを並べる。

 ――マジで腕もげるかと思った……。

「みんな、なに飲むー?」

 「俺が」注ぐ体制を整える。
 このジュースから、話のキッカケを……。

「コーラ5、カルピス6、お茶1」

 後方右斜め上部から聞こえてきたのは、清花ちゃんの声。

「みんなだいたい飲むもの決まってるから」

 そう言って、お皿をテーブルに置く清花ちゃん。
 それは正真正銘の焼きそばの山。

「あとは、たっくんの飲みたいやつ注げばいいよ」

 言い残して去って行く清花ちゃん。

 ちょっと!!
 清花ちゃん!?

 せっかくの会話のチャンスを!!
 交流の機会を!!

「どいたどいたー」

 清花ちゃんと入れ替わりに現れた女の子。
 その声を合図に、俺が置いたペットボトルが次々と床におろされる。
 そして紙コップも端の方に……。

 もしかして俺、しなくてもいいことしちゃったのか!?

 テーブルの隅で、女の子がジュース注ぎ始めてるし、回してるしっ!!

「彩梨お姉ちゃんのお茶ー」
「ありがとー」

 彩梨ちゃんが隣に座る男の子から紙コップを受け取る。

 羨ましい!!
 その渡す役、俺に代わって!!

 いや、今は、なにか他にっ!!
 俺も役立つことをっ!!

 と、周りを見ると女の子が1人、危なっかしい足取りで、これまた危なっかしく手にお皿を持って、こっちに向かって来ていた。

 隣には男の子がいるけど……。

 どうして代わってあげないんだっ!
 ここはひとつ、俺が代わりに運んでいいところを見せなきゃっ!

 そう思って近づいて。

「大変そうだね。俺が代わりに持って行くよ」

 女の子の手にあったお皿を持ってあげた、ら……。

 なにが起きたのか、その子の目からボロボロ涙が出て来た。

 それはもう、ボロボロ、ボロボロ、ボロボロ……、と。

「てめー! 桜を泣かせたなっ!!」

 傍にいた男の子に怒鳴られた。

 なぜっ!?

「桜に近づくなっ!!」
「こら、雪乃!!」

 お叱りの声が飛んできたけど。

「だってコイツが!!」
「コイツじゃないでしょう!!」

 男の子は俺を睨んでるし、女の子はボロボロ泣いてるし。

 何で!?
 何で、俺のどこのなにが悪かったの!?

 頭の中でグルグル考えているとキッチンから清花ちゃんの声が聞こえてきた。

「だーれかー。早く来てー」

 助けを呼ぶ清花ちゃんの声!

 その声に、男の子はサッ! 女の子の方を向いた。

「運ぶものはまだまだたくさんあるからさ」

 そうか、そんなにたくさんあるのなら。

「手が足りないなら俺も手伝うよ」

 俺もいいとこ見せないと。

 そう思って手伝いを申し出たけど。

「てめーは来んなっ!!」

 男の子に、まるで番犬が威嚇するように全力で拒否されてしまった……。

 なにが地雷だったのか、まったくわからない……。

「たっくん、大人しくそこに座っておきなさい」

 直樹君に言われて、とぼとぼとさっきジュース配りに失敗した場所へと戻る。

 俺、全然役に立ててない……むしろ邪魔……ぐすん……。

「まあ、飲みたまえよ」

 ジュースを注いでいた女の子が、コーラの入った紙コップを渡してくれた。

「……ありがとう」

 ゴクリとひと口。
 炭酸が沁みる。

「おじさん、乾杯してないのに飲んじゃダメだよ」

 女の子に言われた。

 おじさん!?
 ちょっと待ってっ!!
 俺、まだ18歳の未成年っ!!

「ついであげるからコップを出しなさいよ」
「あ、うん、ごめんなさい……」

 とくとくと注がれるコーラ。
 炭酸は泡がでて注ぐのが難しいと思うのに、この子は慣れているようでうまい。

「今度は乾杯まで我慢するんだぞ」
「はい……」

 なんて言うか……個性的な子だ。

 って言うかそうだ!!

「ねえ、ひとつ聞いてもいい?」
「なんぞ?」
「俺、何歳に見える?」

 どきどき、どきどき。

「……56?」

 ……。

 俺って……俺って……。

「リンちゃん、それじゃあ善文パパよりも年上になっちゃうよ?」

 彩梨ちゃんが言った。

 善文パパ誰!?
 彩梨ちゃんのパパさんは、充叔父さんでしょ!?

 それとも、この「リンちゃん」のパパさん?

「たっくんも、リンちゃんに年齢聞くなんて勇者だね」

 直樹君が言った。

「かっこくない! 39!」

 リンちゃんに訂正されたけど、それでも実年齢よりかなり上!!
 しかも訂正理由がかっこよくないって……。 

「それだと花咲ママより年上だよ?」

 彩梨ちゃんが言う。

「うん! 39!」

 リンちゃんが言い切った。

 花咲さんって、小野さん家5兄弟のママさんだよね!?

 その人より年上に見えるって……俺、そんな老けてるのか……?

「リンちゃん、お兄さん落ち込んじゃったよ? こういうときは社交辞令で20歳は若く言っておくものだよ」

 彩梨ちゃんの隣に座る男の子がそんなことを言ったけど、全然フォローになってないよ!?

「社交辞令で29歳!」
「社交辞令は言わなくていいんだよ!?」

 お兄ちゃん! そこじゃない!

 39歳から20歳引いたら19歳だから!
 俺、今年19歳になるから!!

 なんだか、最初から打ちのめされた。
 俺、こんなんでうまくやっていけるのか……?
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