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第2章 イトコの家の、ご近所さん
第2話 隣人、恋敵!? *加瀬拓哉*
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ダンッ!! と普段なら立てないような音を立てて勢いよく立ち上がった彩梨ちゃんは、立ち上がった勢いをそのままに玄関へと向かって行った。
ふわりと香った、彩梨ちゃんのいい匂い……。
あ、いやいや、それよりも、何があったのか確認しないと。
彩梨ちゃんが開けたドアの向こうに立っていたのはさっきモニター越しに見た男の子。
何を話しているのか、ここからじゃよく聞こえない。
だけど、なんとなく、なんとなくだけど、どことなく親密そうな、仲の良さそうな雰囲気を醸し出している。
いいなー。
どんな話をしてるんだろう。
俺も彩梨ちゃんとあんなふうに話したい。
だけど。
「ちょっと、雪音先輩のとこ行って来る!」
「!?」
なんでっ!?
あろうことか、彩梨ちゃんが男の子の手を握って玄関から出て行った。
彩梨ちゃんがっ!!
男と手を繋いでっ!!
子供とはいえ、男とっ!!!
何あいつ!!
彩梨ちゃんの何!?
雪音先輩ってのも、まさか彼氏とかじゃないよね!?
「直樹君!!」
「な、何?」
「今の誰!?」
「誰って聞かれても、見てないんだけど」
直樹君の冷めた目が向けられたのも一瞬。
直樹君はすぐに画面に視線を戻した。
直樹君、ゲームに夢中だもんね……。
「皐月君か桔梗君でしょ? 桜ちゃん言ってたし」
清花ちゃんの言葉に焦る。
男の名前が2つ!!
「誰ソイツ!! 桜ちゃんを探して、どうして彩梨ちゃんを連れて行くの!? しかも手まで繋いで!!」
状況がまったく掴めないんだけどっ!!
「小学生相手に何言ってんの?」
清花ちゃんの突き刺さるような冷たい視線も、今はまったく気にならない。
ことと次第によっては、きちんと話をつけさせてもらうよ!!
「落ち着け青年。たっくんが想像してるような展開ではないから」
コントローラーを置いた直樹君が、俺に目を向ける。
テレビ画面はしっかりと一時停止のポーズ画面。
「ウチの向かいにね、小野さんって家族がいてね、シングルマザーで子供が5人。しかも全員小学生」
なぜか突然、向かいの住人の話をしだした直樹君。
「俺が聞きたいのは向かいの住人の話じゃなくて」
「まあ、聞きなさい」
反論は許されないようだ。
「5兄弟がもっと小さかったときは、よくウチで預かったりもしていたわけで、当然姉ちゃんにも懐いてるわけ、その5兄弟の内の2人が皐月君と桔梗君」
「そして、お姉ちゃんの若紫」
「オイっ!!」
「……若紫?」
若紫って、あれだよな?
源氏物語の……。
どうしてここで源氏物語?
「ほら、源氏物語の光源氏が若紫を自分好みの女に育てたように、お姉ちゃんも幼い男の子を自分好みに」
「ねぇーよっ!!」
し、知らなかった……。
彩梨ちゃんがそんなことしてたなんて……。
「たっくん!? ウソだよ!? 冗談だからね!? 本気にしちゃダメだから!!」
「いやいや、あながちウソとも言い切れないよ? お姉ちゃん、よく言ってんじゃん。『その調子で、立派なジェントルマンになるんだよ』って」
「言ってるけど! 深い意味はねぇーだろ!?」
「それにお姉ちゃん、育成ゲームとか好きだし。あとヤンデレとか。てかお姉ちゃん自体がヤンデレ気質だと思うんだよね。これでホントに育ててたら本物のヤンデレっぽくない?」
「お前、自分の姉貴をなんだと思ってんだよ」
「え? お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ?」
目の前で繰り広げられる直樹君と清花ちゃんの会話。
だけど、俺は参加できずに頭の中が混乱している。
彩梨ちゃんはヤンデレ?
いやそれよりもさっきの男の子が何者なのかはわかったとしても、彩梨ちゃんが連れて行かれた理由はわかっていない。
っていうか、育てるって……。
やっぱり、そういうことなのか?
彩梨ちゃんは年下が好きってことで、俺になびいてくれないのは、俺が年上で育てられないから?
くそー!!
どうして俺、彩梨ちゃんより早く生まれてきたんだよ!!
俺のバカ!!
俺だって彩梨ちゃんに育てられたいっ!!
育ててほしいっ!!
「たっくんが面白いことになってるー!」
清花ちゃんが、俺を指差す。
「ってわけで、あとよろしく! 清花はお姉ちゃん回収しに行ってくる!」
「あ、オイ!」
清花ちゃんは玄関へと向かって行く。
「面倒なこと押し付けやがって……」
ぼそり、2人残されたリビングで直樹君の声が響いた。
「とりあえずたっくん」
……面倒って言われた。
「姉ちゃんに変な趣味はないから、変な方向に走らないように」
直樹君はいうけど、うーむ……。
彩梨ちゃん、さっきの子と仲良さそうだったしな……。
やっぱり年下が好きなんじゃ……。
「本当にないからね!? ただ将来は幼稚園か小学校で働きたいって言ってるから、子供は好きなんだろうけど、友愛的な意味での好きだからね!? 変な勘繰りしないでよ!?」
あ、なんだ……!
そうか!
そうなんだ!
彩梨ちゃん、子供が好きなのか!
彩梨ちゃんの保母さん姿。
きっと可愛いだろうなあ……。
それに、彩梨ちゃんなら世界一優しくて、宇宙一可愛いお母さんになるだろうなあ……。
隣には旦那さんがいて、それはもちろん俺っ!!
すごくイイ!!
……と、待って。
「雪音先輩ってのは何? 男?」
まだ謎は残っている。
どうして桜ちゃんを探してる男の子に連れられて、彩梨ちゃんが雪音先輩とやらのところに行くんだ?
「女だよ。ウチの斜め向かいに住んでる幼馴染で、姉ちゃんの部活の先輩」
なんだ、女か……。
よかった……。
「仮に、桜ちゃん失踪事件だと仮定すると、1番桜ちゃんが隠れてそうなところがソコなわけですよ。かくまうヤツがいるってことで、姉ちゃんがついて行った、と。理解?」
「……つまり、桜ちゃんをかくまう誰かを出し抜くために彩梨ちゃんはついて行った、と?」
「そうそう」
なんて優しいんだ、彩梨ちゃん!
小さい子のために、自分の朝ごはんも放り出して行くなんて!
天使! 女神!
よし。
ここは俺も、彩梨ちゃんに近づくために近所の小さい子たちに懐いてもらわねばっ!
そうと決まれば。
「直樹君!」
「……なに」
「近所に小さい子は他にもいるのかな? どんな子がいるのか教えてよ」
「えー……」
すごく、面倒臭そうな顔をされた。
ふわりと香った、彩梨ちゃんのいい匂い……。
あ、いやいや、それよりも、何があったのか確認しないと。
彩梨ちゃんが開けたドアの向こうに立っていたのはさっきモニター越しに見た男の子。
何を話しているのか、ここからじゃよく聞こえない。
だけど、なんとなく、なんとなくだけど、どことなく親密そうな、仲の良さそうな雰囲気を醸し出している。
いいなー。
どんな話をしてるんだろう。
俺も彩梨ちゃんとあんなふうに話したい。
だけど。
「ちょっと、雪音先輩のとこ行って来る!」
「!?」
なんでっ!?
あろうことか、彩梨ちゃんが男の子の手を握って玄関から出て行った。
彩梨ちゃんがっ!!
男と手を繋いでっ!!
子供とはいえ、男とっ!!!
何あいつ!!
彩梨ちゃんの何!?
雪音先輩ってのも、まさか彼氏とかじゃないよね!?
「直樹君!!」
「な、何?」
「今の誰!?」
「誰って聞かれても、見てないんだけど」
直樹君の冷めた目が向けられたのも一瞬。
直樹君はすぐに画面に視線を戻した。
直樹君、ゲームに夢中だもんね……。
「皐月君か桔梗君でしょ? 桜ちゃん言ってたし」
清花ちゃんの言葉に焦る。
男の名前が2つ!!
「誰ソイツ!! 桜ちゃんを探して、どうして彩梨ちゃんを連れて行くの!? しかも手まで繋いで!!」
状況がまったく掴めないんだけどっ!!
「小学生相手に何言ってんの?」
清花ちゃんの突き刺さるような冷たい視線も、今はまったく気にならない。
ことと次第によっては、きちんと話をつけさせてもらうよ!!
「落ち着け青年。たっくんが想像してるような展開ではないから」
コントローラーを置いた直樹君が、俺に目を向ける。
テレビ画面はしっかりと一時停止のポーズ画面。
「ウチの向かいにね、小野さんって家族がいてね、シングルマザーで子供が5人。しかも全員小学生」
なぜか突然、向かいの住人の話をしだした直樹君。
「俺が聞きたいのは向かいの住人の話じゃなくて」
「まあ、聞きなさい」
反論は許されないようだ。
「5兄弟がもっと小さかったときは、よくウチで預かったりもしていたわけで、当然姉ちゃんにも懐いてるわけ、その5兄弟の内の2人が皐月君と桔梗君」
「そして、お姉ちゃんの若紫」
「オイっ!!」
「……若紫?」
若紫って、あれだよな?
源氏物語の……。
どうしてここで源氏物語?
「ほら、源氏物語の光源氏が若紫を自分好みの女に育てたように、お姉ちゃんも幼い男の子を自分好みに」
「ねぇーよっ!!」
し、知らなかった……。
彩梨ちゃんがそんなことしてたなんて……。
「たっくん!? ウソだよ!? 冗談だからね!? 本気にしちゃダメだから!!」
「いやいや、あながちウソとも言い切れないよ? お姉ちゃん、よく言ってんじゃん。『その調子で、立派なジェントルマンになるんだよ』って」
「言ってるけど! 深い意味はねぇーだろ!?」
「それにお姉ちゃん、育成ゲームとか好きだし。あとヤンデレとか。てかお姉ちゃん自体がヤンデレ気質だと思うんだよね。これでホントに育ててたら本物のヤンデレっぽくない?」
「お前、自分の姉貴をなんだと思ってんだよ」
「え? お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ?」
目の前で繰り広げられる直樹君と清花ちゃんの会話。
だけど、俺は参加できずに頭の中が混乱している。
彩梨ちゃんはヤンデレ?
いやそれよりもさっきの男の子が何者なのかはわかったとしても、彩梨ちゃんが連れて行かれた理由はわかっていない。
っていうか、育てるって……。
やっぱり、そういうことなのか?
彩梨ちゃんは年下が好きってことで、俺になびいてくれないのは、俺が年上で育てられないから?
くそー!!
どうして俺、彩梨ちゃんより早く生まれてきたんだよ!!
俺のバカ!!
俺だって彩梨ちゃんに育てられたいっ!!
育ててほしいっ!!
「たっくんが面白いことになってるー!」
清花ちゃんが、俺を指差す。
「ってわけで、あとよろしく! 清花はお姉ちゃん回収しに行ってくる!」
「あ、オイ!」
清花ちゃんは玄関へと向かって行く。
「面倒なこと押し付けやがって……」
ぼそり、2人残されたリビングで直樹君の声が響いた。
「とりあえずたっくん」
……面倒って言われた。
「姉ちゃんに変な趣味はないから、変な方向に走らないように」
直樹君はいうけど、うーむ……。
彩梨ちゃん、さっきの子と仲良さそうだったしな……。
やっぱり年下が好きなんじゃ……。
「本当にないからね!? ただ将来は幼稚園か小学校で働きたいって言ってるから、子供は好きなんだろうけど、友愛的な意味での好きだからね!? 変な勘繰りしないでよ!?」
あ、なんだ……!
そうか!
そうなんだ!
彩梨ちゃん、子供が好きなのか!
彩梨ちゃんの保母さん姿。
きっと可愛いだろうなあ……。
それに、彩梨ちゃんなら世界一優しくて、宇宙一可愛いお母さんになるだろうなあ……。
隣には旦那さんがいて、それはもちろん俺っ!!
すごくイイ!!
……と、待って。
「雪音先輩ってのは何? 男?」
まだ謎は残っている。
どうして桜ちゃんを探してる男の子に連れられて、彩梨ちゃんが雪音先輩とやらのところに行くんだ?
「女だよ。ウチの斜め向かいに住んでる幼馴染で、姉ちゃんの部活の先輩」
なんだ、女か……。
よかった……。
「仮に、桜ちゃん失踪事件だと仮定すると、1番桜ちゃんが隠れてそうなところがソコなわけですよ。かくまうヤツがいるってことで、姉ちゃんがついて行った、と。理解?」
「……つまり、桜ちゃんをかくまう誰かを出し抜くために彩梨ちゃんはついて行った、と?」
「そうそう」
なんて優しいんだ、彩梨ちゃん!
小さい子のために、自分の朝ごはんも放り出して行くなんて!
天使! 女神!
よし。
ここは俺も、彩梨ちゃんに近づくために近所の小さい子たちに懐いてもらわねばっ!
そうと決まれば。
「直樹君!」
「……なに」
「近所に小さい子は他にもいるのかな? どんな子がいるのか教えてよ」
「えー……」
すごく、面倒臭そうな顔をされた。
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