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第1章 イトコと1つ、屋根の下
第4話 隣の部屋に、従妹 *加瀬拓哉*
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はあ……、幸せだ……。
今閉められたドアの向こう。
そこには彩梨ちゃんがいて、これから毎日この部屋の隣で過ごすんだ。
毎日彩梨ちゃんの姿を見て、毎日彩梨ちゃんと言葉を交わして、毎日彩梨ちゃんとの親交を深めていく。
夢みたい……。
今日は彩梨ちゃんの部屋も見れたし。
もっとファンシーな部屋を想像してたけど、思ってたより雑多で、でもそれが彩梨ちゃんってことで新たな一面を知れたし。
貸してはもらえなかったけど、彩梨ちゃんの愛読書もチェックできたし。
今度本屋で買って来よう。
明日にでも。
清花ちゃんの、男が抱き合うイラストが表紙の衝撃的過ぎる趣味の本も見ちゃったけど……。
しかもオススメされちゃったけど……。
アレは反応に困る……。
でも、うん。
幸せだ。
「たっくん、その顔……」
直樹君の部屋に入るなり、直樹君に言われた。
「破顔通り越して崩れてる」
「今更じゃん」
清花ちゃんにも言われた。
ヤバイのか!?
俺の今の顔!?
「で? どうだったの? ファーストコンタクト」
聞いてきた直樹君に答えたのは、清花ちゃん。
「温度差がたーのしっ!」
グッと親指を立てて、ものすごく楽しそう。
「えー? そんなに彩梨ちゃん冷めてた?」
俺の見た限り、そこまででもなかったと思ったんだけどな。
「え? あれがアットホームな歓迎ムードに見えたの?」
急に真剣なトーンで話し出した清花ちゃん。
「だって、喋ってくれたし……悪いこともないのかなあ……って」
「おめでたい頭」
清花ちゃんの言葉がグサグサと刺さる。
「否定はしない」
直樹君までヒドイっ!!
「ところでさ、たっくんってお姉ちゃんのどこが好きなの? 見た目? 外見良ければそれで良し? 中身、とかわかるほど親交ないし……あー、浮気してもバレなそうなとこ? むしろバレても丸め込めそうだよね」
「清花ちゃんっ!?」
何を言い出すのこの子はっ!?
「俺の彩梨ちゃんへの愛は、そんな生半可なものじゃないっ!!」
ちょうどいい。
今ここで、2人に俺の彩梨ちゃんへの愛を力説してあげよう!!
「俺は、彩梨ちゃんのすべてが好きなんだっ!! あの艶やかな流れるような黒髪! 愛くるしいつぶらな瞳! 透き通るような涼やかなあの声! しっかりしなっきゃって頑張る姿も、実は強がりで本当は泣き虫で臆病なところも、全部が愛おしい! 愛してるんだ!!」
さあ、わかっていただけただろうか?
俺の、彩梨ちゃんへのこの愛を!!
「……たっくんって、そんなにペラペラ恥ずかしいこと言える人だったっけ?」
清花ちゃんに少し、距離をとられてしまった。
「いや、いいんだ。いいんだよ? 発言するのは自由だし、たっくんなら……別に、ね。気持ち悪いとか、ないし……むしろ、様になってるというか……」
心なしか、直樹君とも心の距離が……。
「たださ、そういうのは本人に直接言ってあげよう? まあ、いまの全部聞こえてたかもしれないけど」
「え!?」
直樹君から衝撃の告白。
聞かれた!?
「大丈夫。お姉ちゃんの耳たぶん塞がってるから」
「塞がってる!?」
清花ちゃん!?
それどういうこと!?
「あー」
直樹君は理解できたみたいだけど。
ちょっと!!
のけ者にしないで!!
「ほら、イヤホンで。最近なんか聴いてるっぽい」
直樹君がちょんちょんと自分の耳を差してジェスチャーをする。
そうか。
音楽、かな。
「なるほど、今度なに聴いてるのか教えてもらおう」
そして同じの聴こう。
「いやー、無理じゃない?」
「え?」
直樹君がそんなことを言う。
「うん、たっくんには無理だよ」
「え?」
清花ちゃんまで。
「なんで?」
「だって、清花にも教えてくれないんだもん」
「清花でダメならたっくんには無理だよ」
2人がかりで無理だと言ってくる。
俺も彩梨ちゃんと同じ曲聴きたい。
「いや、でも、もしかしたら」
「ないない」
清花ちゃんに秒速で否定された。
「だって、たっくんて2歳のときに赤ちゃんだったお姉ちゃんに一目惚れでしょ? 正直、それだけでも若干引く」
グサリと心に刺さる、清花ちゃんの言葉。
「それから16年と続く、たっくんの猛アタックもいい加減しつこいし」
グサリと、また心に刺さる。
「正直なところ、お姉ちゃんがたっくを塵ほどにでも好いているとは思えないし、むしろ嫌い」
「清花、その辺にしてやれ」
クサグサグサと、清花ちゃんのおかげで俺の心はズタズタだ。
「……そうなんだよなあ……こんなに俺は彩梨ちゃんが好きなのに……愛してるのに……何かなあ……避けられてる気がするんだよなあ……何でだ? もしかして、他に好きな男が? ……誰だソイツ……ブッ殺」
「たっくん怖い!! 怖いよ!? アイドルなんだか、ね? イメージ崩れまくってるよ!?」
直樹君は言うけど。
「彩梨ちゃんのためならこんな仕事、辞めていい……」
彩梨ちゃんが振り向いてくれないなら、こんな仕事、やってる意味がない。
「お姉ちゃんは好きだよ!! 『スカイアクア』!!」
「……」
……。
一瞬にして停止した思考が、清花ちゃんの言葉を解析する。
好き?
彩梨ちゃんが?
『スカイアクア』を、好き?
確かに清花ちゃんは「好き」と言った。
「ごめんね、変なところ見せちゃって」
彩梨ちゃんが『スカイアクア』を好き。
彩梨ちゃんが『スカイアクア』を好き。
彩梨ちゃんが『スカイアクア』を好き。
何度も何度も頭の中で清花ちゃんから聞いた言葉を反復させる。
彩梨ちゃんが『スカイアクア』を好き。
彩梨ちゃんは『スカイアクア』が好き。
彩梨ちゃんが、……好き。
彩梨ちゃんは、……好き。
「ちょっと動揺しちゃって」
拡大解釈だと言われようと関係ない。
これは、つまりはそういうことだ。
俺が構成メンバーの1人である『スカイアクア』を好きってことは、俺を好きってことと同じ!!
そう! 同じ!!
(大事なことなので2回!!)
もっともっと、世の人々に認められるようになればきっと、彩梨ちゃんも俺自身に振り向いてくれるようになるはず!!
よし!!
気合を新たに、俺は今後のことを考える。
これからの生活についてはもちろん、仕事についても彩梨ちゃんが好きだと言ってくれるなら!!!
頑張ろう、俺っ!!
今閉められたドアの向こう。
そこには彩梨ちゃんがいて、これから毎日この部屋の隣で過ごすんだ。
毎日彩梨ちゃんの姿を見て、毎日彩梨ちゃんと言葉を交わして、毎日彩梨ちゃんとの親交を深めていく。
夢みたい……。
今日は彩梨ちゃんの部屋も見れたし。
もっとファンシーな部屋を想像してたけど、思ってたより雑多で、でもそれが彩梨ちゃんってことで新たな一面を知れたし。
貸してはもらえなかったけど、彩梨ちゃんの愛読書もチェックできたし。
今度本屋で買って来よう。
明日にでも。
清花ちゃんの、男が抱き合うイラストが表紙の衝撃的過ぎる趣味の本も見ちゃったけど……。
しかもオススメされちゃったけど……。
アレは反応に困る……。
でも、うん。
幸せだ。
「たっくん、その顔……」
直樹君の部屋に入るなり、直樹君に言われた。
「破顔通り越して崩れてる」
「今更じゃん」
清花ちゃんにも言われた。
ヤバイのか!?
俺の今の顔!?
「で? どうだったの? ファーストコンタクト」
聞いてきた直樹君に答えたのは、清花ちゃん。
「温度差がたーのしっ!」
グッと親指を立てて、ものすごく楽しそう。
「えー? そんなに彩梨ちゃん冷めてた?」
俺の見た限り、そこまででもなかったと思ったんだけどな。
「え? あれがアットホームな歓迎ムードに見えたの?」
急に真剣なトーンで話し出した清花ちゃん。
「だって、喋ってくれたし……悪いこともないのかなあ……って」
「おめでたい頭」
清花ちゃんの言葉がグサグサと刺さる。
「否定はしない」
直樹君までヒドイっ!!
「ところでさ、たっくんってお姉ちゃんのどこが好きなの? 見た目? 外見良ければそれで良し? 中身、とかわかるほど親交ないし……あー、浮気してもバレなそうなとこ? むしろバレても丸め込めそうだよね」
「清花ちゃんっ!?」
何を言い出すのこの子はっ!?
「俺の彩梨ちゃんへの愛は、そんな生半可なものじゃないっ!!」
ちょうどいい。
今ここで、2人に俺の彩梨ちゃんへの愛を力説してあげよう!!
「俺は、彩梨ちゃんのすべてが好きなんだっ!! あの艶やかな流れるような黒髪! 愛くるしいつぶらな瞳! 透き通るような涼やかなあの声! しっかりしなっきゃって頑張る姿も、実は強がりで本当は泣き虫で臆病なところも、全部が愛おしい! 愛してるんだ!!」
さあ、わかっていただけただろうか?
俺の、彩梨ちゃんへのこの愛を!!
「……たっくんって、そんなにペラペラ恥ずかしいこと言える人だったっけ?」
清花ちゃんに少し、距離をとられてしまった。
「いや、いいんだ。いいんだよ? 発言するのは自由だし、たっくんなら……別に、ね。気持ち悪いとか、ないし……むしろ、様になってるというか……」
心なしか、直樹君とも心の距離が……。
「たださ、そういうのは本人に直接言ってあげよう? まあ、いまの全部聞こえてたかもしれないけど」
「え!?」
直樹君から衝撃の告白。
聞かれた!?
「大丈夫。お姉ちゃんの耳たぶん塞がってるから」
「塞がってる!?」
清花ちゃん!?
それどういうこと!?
「あー」
直樹君は理解できたみたいだけど。
ちょっと!!
のけ者にしないで!!
「ほら、イヤホンで。最近なんか聴いてるっぽい」
直樹君がちょんちょんと自分の耳を差してジェスチャーをする。
そうか。
音楽、かな。
「なるほど、今度なに聴いてるのか教えてもらおう」
そして同じの聴こう。
「いやー、無理じゃない?」
「え?」
直樹君がそんなことを言う。
「うん、たっくんには無理だよ」
「え?」
清花ちゃんまで。
「なんで?」
「だって、清花にも教えてくれないんだもん」
「清花でダメならたっくんには無理だよ」
2人がかりで無理だと言ってくる。
俺も彩梨ちゃんと同じ曲聴きたい。
「いや、でも、もしかしたら」
「ないない」
清花ちゃんに秒速で否定された。
「だって、たっくんて2歳のときに赤ちゃんだったお姉ちゃんに一目惚れでしょ? 正直、それだけでも若干引く」
グサリと心に刺さる、清花ちゃんの言葉。
「それから16年と続く、たっくんの猛アタックもいい加減しつこいし」
グサリと、また心に刺さる。
「正直なところ、お姉ちゃんがたっくを塵ほどにでも好いているとは思えないし、むしろ嫌い」
「清花、その辺にしてやれ」
クサグサグサと、清花ちゃんのおかげで俺の心はズタズタだ。
「……そうなんだよなあ……こんなに俺は彩梨ちゃんが好きなのに……愛してるのに……何かなあ……避けられてる気がするんだよなあ……何でだ? もしかして、他に好きな男が? ……誰だソイツ……ブッ殺」
「たっくん怖い!! 怖いよ!? アイドルなんだか、ね? イメージ崩れまくってるよ!?」
直樹君は言うけど。
「彩梨ちゃんのためならこんな仕事、辞めていい……」
彩梨ちゃんが振り向いてくれないなら、こんな仕事、やってる意味がない。
「お姉ちゃんは好きだよ!! 『スカイアクア』!!」
「……」
……。
一瞬にして停止した思考が、清花ちゃんの言葉を解析する。
好き?
彩梨ちゃんが?
『スカイアクア』を、好き?
確かに清花ちゃんは「好き」と言った。
「ごめんね、変なところ見せちゃって」
彩梨ちゃんが『スカイアクア』を好き。
彩梨ちゃんが『スカイアクア』を好き。
彩梨ちゃんが『スカイアクア』を好き。
何度も何度も頭の中で清花ちゃんから聞いた言葉を反復させる。
彩梨ちゃんが『スカイアクア』を好き。
彩梨ちゃんは『スカイアクア』が好き。
彩梨ちゃんが、……好き。
彩梨ちゃんは、……好き。
「ちょっと動揺しちゃって」
拡大解釈だと言われようと関係ない。
これは、つまりはそういうことだ。
俺が構成メンバーの1人である『スカイアクア』を好きってことは、俺を好きってことと同じ!!
そう! 同じ!!
(大事なことなので2回!!)
もっともっと、世の人々に認められるようになればきっと、彩梨ちゃんも俺自身に振り向いてくれるようになるはず!!
よし!!
気合を新たに、俺は今後のことを考える。
これからの生活についてはもちろん、仕事についても彩梨ちゃんが好きだと言ってくれるなら!!!
頑張ろう、俺っ!!
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