【完結】イトコに恋して

桐生千種

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第1章 イトコと1つ、屋根の下

第3話 隣の部屋に、従兄 *加瀬彩梨*

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 邪魔された。

「今日からお世話になりますっ!」

 目の前でニヤケ顔を披露するソノ人に、直樹との貴重な時間を邪魔された。

 ついに来た。
 私の従兄――加瀬拓哉。

 4月から、桜月学園大学文学部国際文学科1年になる18歳。

 そして、今や毎日テレビや雑誌で見ない日はない、人気アイドルグループ『スカイアクア』のメンバーであり、最年長であり、リーダーを務める。

 ……コレの一体どこがいいのか、全日本国民に問いたい。

「じゃあ、私部屋に戻る」

 私はゲーム機片手に立ち上がる。

 今日からコノ人が直樹の部屋を使うわけで。
 荷物整理とかあるだろうし、私が陣取ってゲームしてるわけにはいかないし。

 何より一緒にいたくない。

「彩梨ちゃんの部屋、見てみたいな」

 ……は?

 相変わらずのニヤケ顔で私を見る加瀬拓哉。

 一体、なんのつもり?
 誰が! あんたなんかに! 見せるかっ!

「いいよ!」

 は!?

「お姉ちゃんと清花、同じ部屋だよ! こっち!」

 私の心の叫びも虚しく、清花が加瀬拓哉の手を引いて行ってしまった。

 清花が、加瀬拓哉と、手を繋いで部屋に……。

 むー……。

 私の清花が。
 私の清花なのに。

 ムカツク。
 キライ。

 でも、だからと言って清花と加瀬拓哉を放置するのはイヤだし、そもそも私の部屋でもあるし、勝手に物色されたらイヤだし。

 2人を追って、部屋に行く。

「わあ! ここが彩梨ちゃんの部屋かあ!」

 他人の部屋を、不自然に高いテンションで眺めまわす、加瀬拓哉。

「こっちが清花ちゃんの机? じゃあこっちが彩梨ちゃん? イメージと違う」

 ジロジロ見ないでよ。
 イメージって何。

「あ、本棚。どんな本読むの?」

 今度は本棚に近づく、加瀬拓哉。

「上の2段は清花のだから、気になるのあったら貸してあげる。ちなみにオススメは……」

 清花は加瀬拓哉にベッタリ。
 本棚からオススメの1冊を出して加瀬拓哉に見せる。
 本当に、こんな人の何がいいの。

「……あー、えんりょ、しておくよ」
「そう? 残念」

 清花に見せられた2人の男の子が抱き合うイラストの表紙に、加瀬拓哉が硬直する。
 清花のお気に入り作品は、男性同士の恋愛を描いたいわゆるボーイズラブというやつで……。

 読み手を選ぶジャンルだとは思う。

 本人曰く、その作者さんの絵が好きらしいけど……。

 硬直した加瀬拓哉を気にする様子も見せず、清花は取り出した本を元の場所に戻した。

「読みたくなったらいつでも言って! 貸してあげる!」
「あ、うん……。そのときは、よろしく……」

 そんな日は来ないだろうなと、加瀬拓哉の返事からわかる。

「上の2段が清花ちゃんってことは、下の3段が彩梨ちゃんの?」

 あからさまに話題を変える加瀬拓哉。

 清花の趣味が受け入れがたいのはわかる。
 人を選ぶ趣味だとは思うから。

 だけど、こっちに話を振るなっ!

「お姉ちゃんのは下の2段。真ん中は共有だよ」
「そうなんだ。あっ!」

 急に変な声を出した、加瀬拓哉。

「『トップ・スター』! 読んでくれてるんだ! 嬉しいなあ!」
「『スカイアクア』の本だもん! 当然!」

 『トップ・スター』は、加瀬拓哉が所属するグループの事務所が発行してる、小さな冊子。
 毎月7日に発行される冊子を、私と清花はせっせと集めて読んでいたりする。

 清花の目当ては加瀬拓哉だけど、私の目当ては女の子たち。
 男女混合の珍しいグループ『スカイアクア』は、女の子たちがみんな可愛い。

 ちなみに1推しは三好小春ちゃん。
 2推しで近江花音ちゃん。

「共有ってことは、彩梨ちゃんも読んでくれてるんだよね?」
「うん。たっくんの出てるページ以外」
「あ、そう……」

 楽しそうに、清花はお喋りしてる。
 私のことなんて、アウトオブ眼中。

 コノ人がいると、いつもそうだ……。
 私が入るスキが、一瞬だってない。

 ……って言うか、清花はいいかもしれないけど「私のスペースを見ていい」なんてひと言も言ってない。

 何をそんなにジロジロと。

「彩梨ちゃん、もしよかったらオススメの本、貸してほしいな」

 加瀬拓哉が唐突に、そんなことを言う。

「……よくないからオススメしないし貸さない」

 そんなニヤケ顔でこっちを見るなっ!

「そろそろ着替えたいんだけど」
「っ!?」

 並々ならない驚きの表情を見せる加瀬拓哉。

 何だって言うの。
 私が着替えるのがそんなに驚くこと?

「ご、ごめんねっ! すぐ出て行くねっ!」
「じゃあ、お兄ちゃんのとこ行こっ!」

 グイグイと、清花が加瀬拓哉の背中を押して加瀬拓哉を部屋の外に押し出す。

 パタンと閉められるドア。

 思惑通り、加瀬拓哉は出て行った。

 だけど、清花も出て行った。

 1人取り残された自分の部屋が、世界から隔離されたかのような妙な錯覚を覚える。

 隣の直樹の部屋には、直樹がいて、そこに清花と加瀬拓哉が行って、楽しくお喋るするんだ。

 私だって直樹と話したいのに。
 清花とイチャイチャしたいのに。

 加瀬拓哉がいるその場所は、昨日までは、ほんのつい数分前までは、私がいる場所だったのに。

 加瀬拓哉が来て、その場所は加瀬拓哉に持っていかれた。
 何食わぬ顔で、そこにいるのが当然だとでも言うように……。

 隣の部屋から聞こえてくる、話し声。

 何を話しているんだろう……。

 はっきりとした言葉として聞き取ることができないけど、楽しそうだってことだけはわかる。

 イライラとモヤモヤを抱えて、私は着替える。

 あー! もう!

 どうにも心が落ち着かない。

「よしっ」

 こんなときは、アレを聴こう。

 シチュエーションドラマCD『独り語り-甘い後輩-』の可愛い後輩くんの音声ドラマで癒しをもらおう。
 リフレッシュしよう。

 そしてそのあとにゲームの続きをしよう。

 加瀬拓哉が来たらこうなるって、わかっていたことだけど……こんな日常、やっぱりイヤっ!
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