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第1章 イトコと1つ、屋根の下
第1話 従兄が来る日 *加瀬彩梨*
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05年3月26日土曜日、夜。
弟――直樹の部屋にて。
「ねえ、直樹」
ベッドに寝転がって携帯ゲームをする直樹。
見慣れた光景。
「私、今ちょうど直樹と同じプレイ時間なんだけどさ」
「うん」
「レベルが倍近く違うんだけど。そもそも109レベルって何? どっから出てきたのこの9レベル」
話の内容は他愛ない、私が3日前に直樹から借りたゲーム『Quest Adventure』の話。
「それはさ、アレよ」
「なによ?」
「ウ・ラ・ワ・ザ」
「お前ー、正々堂々正攻法で挑めよー」
「え? ゲームで裏技は常識でしょ」
こんな話が、今の私にとってはとても貴重だ。
1分1秒でも、ムダにしたくない。
「ところで、今どの辺?」
直樹の質問に答えるべく、私は1番わかりさすそうな情報を述べる。
「えっとねー、3匹目のワンちゃんを仲間にしたとこー」
「……は?」
直樹が硬直した。
2、3回目を瞬かせる直樹。
「ウソだろ……?」
そう言う直樹に、私は持っていたゲーム機の画面を見せる。
映し出されている画面には、プレイヤーとなる主人公の他、デフォルトでついて来るお供の男を除くとワンちゃんが3匹。
ゲームを進めていく中で選択できる、途中から一緒に旅をしていく仲間に私はワンちゃんしか選んでいない。
「え……お姉さん、ちょっとちょっと……」
画面を見ながら直樹が言う。
「人は? 人。人間」
「いるじゃん。『シノくん』」
「それはデフォじゃん。それ以外」
「いないよ?」
「何で」
「いないから」
そんなの仲間に選んでないんだから当然じゃないか。
いないものは、いない。
「ここ来る直前にさ、町、あったじゃん?」
「うん」
森とか洞窟とかの前には、町とか村とかお城とかがあるのがよくあるパターンだよね。
「そこで仲間1人できるはずなんだけど」
「うん、知ってるよ。拒否したんだよ」
だから仲間の一覧にいないんだよ。
「……ここに来る前にも仲間できるポイントあったと思うんだけど。6つくらい」
「うん、拒否した」
「Why? ナゼ? ナニユエニ?」
その質問に対する答えなら、決まってる。
「可愛くなかったんだもん」
「確かに最初のはどっちかって言うと野性味あふれる感じのヤツだったけど、途中にいたよね? 可愛い女の子」
ほう……。
「……直樹はあーゆーのがタイプか」
「違うしっ!! そんな目で見るなっ!!」
直樹から盛大なツッコミが入れられた。
「姉ちゃん好みの女の子! いたじゃん! 金髪ツインテールの! フリフリの、ロリ的な!」
……私、そんな趣味ないんだけど。
確かに可愛いとは思ったけども。
「すでに『アイラちゃん』と『カイトくん』がいたんだもん」
すでに2匹のワンちゃんを仲間にしていた。
「ここまで来たら、全部動物で揃えたいって思うじゃん」
「犬しかいないけどね、このゲーム! しかもどっかの何かを連想するネーミング! ちなみにプレイヤーの名前は?」
「『アイちゃん』」
答えたら、直樹の表情が引きつった。
「いいじゃん、好きなんだからー」
私がゲームのキャラクターたちにつけている名前は、私が好きなWeb小説『EACH』の登場人物からとったもの。
「うん……まあ……ね……。いいんだけどさ……。けどさ……」
……別に、直樹の理解を得たいなんて思ってないもん。
「世の中にはいろんな縛りプレイをする人がいるけど、このゲームで犬だけってのは……無謀ってモンだよ」
直樹は言うけど、そんなことはない。
ここまでワンちゃんだけで来れたんだもん。
この先にだって、きっと進める。
もう10回戦っては戻されてるけど、きっと勝つ方法があるはず。
私は信じてる。
「ねえ! たっくん迎えに行くけど誰か一緒に行く?」
1階から、お母さんの声が響いてきた。
「行く行く行く行くっ! 清花行くっ! 絶対行くっ!」
真っ先に返事をしたのは、隣の部屋にいる妹――清花。
ドタバタと騒がしく動き回る音が壁越しに聞こえてくる。
「行く?」
私は直樹に聞く。
「ん、行かない」
その答えに、ホッとする私。
今は少しでも長く、直樹と一緒にいたい。
少しでも多く、直樹と話していたい。
「……お姉ちゃんは?」
直樹が、わかりきっていることを聞いてきた。
「行くわけがない」
答えついでに文句も言う。
「なんで私が、あの人のためにわざわざ出向かないとならないの。って言うかさ、なんでウチに来るの? 大学近くのアパートとか借りればいいじゃん」
「いや、それはさ、俺もお父さんもいなくなるからだって言ってたじゃん。ウチの方が安くつくし、たっくんの仕事的にも安心じゃん?」
「そうだけどさー」
直樹の言葉に頷くけど、やっぱり納得いかない!
お父さんと直樹が家を出るのは仕方ないとは思う。
お父さんは4月から仕事の関係で転勤が決まっちゃったから、それは仕方がない。
直樹は第一志望の高校に合格したけど、家からじゃ通えないからって寮に入ることになったのも、仕方がない。
でも、だけど、どうして、だからって……。
あの人がくることないじゃんっ!!
「何がそんなにイヤかね? たった1人の従兄じゃないか」
直樹の言葉に即答する。
「目、顔、性格」
「……いいとこないじゃん。仮にもアイドルなのに」
残念そうに言う直樹だけど、イイトコなんてどこにあるのか全日本国民に私は問いたい!
問いただしたい!!
「だって親戚で集まるたびに変な視線を向けられて、目が合ったらニヤケ顔だよ?」
思い出したくもない、あの顔。
「なのに清花はベッタリだし」
何がいいの?
あの人の。
「お父さんもお母さんも気に入っちゃってるし」
どんな手を使って取り入ったんだか。
「直樹だって、好きでしょ?」
「まあ……、お兄ちゃんみたいだし」
「ホラ! ヤツは私から家族を取り上げる気なんだ!!」
「何!? その発想!?」
直樹がビックリして目を丸くしてるけど、だってそうじゃないか。
あの人がいると、直樹も清花もお父さんもお母さんも、みんなあの人を選んで、あの人のところに行くんだ。
一体、何の恨みがあってこんな嫌がらせをしてくるの?
あの人と今日から1つ屋根の下、一緒に暮らさなきゃならないなんて……。
ありえないっ!!
弟――直樹の部屋にて。
「ねえ、直樹」
ベッドに寝転がって携帯ゲームをする直樹。
見慣れた光景。
「私、今ちょうど直樹と同じプレイ時間なんだけどさ」
「うん」
「レベルが倍近く違うんだけど。そもそも109レベルって何? どっから出てきたのこの9レベル」
話の内容は他愛ない、私が3日前に直樹から借りたゲーム『Quest Adventure』の話。
「それはさ、アレよ」
「なによ?」
「ウ・ラ・ワ・ザ」
「お前ー、正々堂々正攻法で挑めよー」
「え? ゲームで裏技は常識でしょ」
こんな話が、今の私にとってはとても貴重だ。
1分1秒でも、ムダにしたくない。
「ところで、今どの辺?」
直樹の質問に答えるべく、私は1番わかりさすそうな情報を述べる。
「えっとねー、3匹目のワンちゃんを仲間にしたとこー」
「……は?」
直樹が硬直した。
2、3回目を瞬かせる直樹。
「ウソだろ……?」
そう言う直樹に、私は持っていたゲーム機の画面を見せる。
映し出されている画面には、プレイヤーとなる主人公の他、デフォルトでついて来るお供の男を除くとワンちゃんが3匹。
ゲームを進めていく中で選択できる、途中から一緒に旅をしていく仲間に私はワンちゃんしか選んでいない。
「え……お姉さん、ちょっとちょっと……」
画面を見ながら直樹が言う。
「人は? 人。人間」
「いるじゃん。『シノくん』」
「それはデフォじゃん。それ以外」
「いないよ?」
「何で」
「いないから」
そんなの仲間に選んでないんだから当然じゃないか。
いないものは、いない。
「ここ来る直前にさ、町、あったじゃん?」
「うん」
森とか洞窟とかの前には、町とか村とかお城とかがあるのがよくあるパターンだよね。
「そこで仲間1人できるはずなんだけど」
「うん、知ってるよ。拒否したんだよ」
だから仲間の一覧にいないんだよ。
「……ここに来る前にも仲間できるポイントあったと思うんだけど。6つくらい」
「うん、拒否した」
「Why? ナゼ? ナニユエニ?」
その質問に対する答えなら、決まってる。
「可愛くなかったんだもん」
「確かに最初のはどっちかって言うと野性味あふれる感じのヤツだったけど、途中にいたよね? 可愛い女の子」
ほう……。
「……直樹はあーゆーのがタイプか」
「違うしっ!! そんな目で見るなっ!!」
直樹から盛大なツッコミが入れられた。
「姉ちゃん好みの女の子! いたじゃん! 金髪ツインテールの! フリフリの、ロリ的な!」
……私、そんな趣味ないんだけど。
確かに可愛いとは思ったけども。
「すでに『アイラちゃん』と『カイトくん』がいたんだもん」
すでに2匹のワンちゃんを仲間にしていた。
「ここまで来たら、全部動物で揃えたいって思うじゃん」
「犬しかいないけどね、このゲーム! しかもどっかの何かを連想するネーミング! ちなみにプレイヤーの名前は?」
「『アイちゃん』」
答えたら、直樹の表情が引きつった。
「いいじゃん、好きなんだからー」
私がゲームのキャラクターたちにつけている名前は、私が好きなWeb小説『EACH』の登場人物からとったもの。
「うん……まあ……ね……。いいんだけどさ……。けどさ……」
……別に、直樹の理解を得たいなんて思ってないもん。
「世の中にはいろんな縛りプレイをする人がいるけど、このゲームで犬だけってのは……無謀ってモンだよ」
直樹は言うけど、そんなことはない。
ここまでワンちゃんだけで来れたんだもん。
この先にだって、きっと進める。
もう10回戦っては戻されてるけど、きっと勝つ方法があるはず。
私は信じてる。
「ねえ! たっくん迎えに行くけど誰か一緒に行く?」
1階から、お母さんの声が響いてきた。
「行く行く行く行くっ! 清花行くっ! 絶対行くっ!」
真っ先に返事をしたのは、隣の部屋にいる妹――清花。
ドタバタと騒がしく動き回る音が壁越しに聞こえてくる。
「行く?」
私は直樹に聞く。
「ん、行かない」
その答えに、ホッとする私。
今は少しでも長く、直樹と一緒にいたい。
少しでも多く、直樹と話していたい。
「……お姉ちゃんは?」
直樹が、わかりきっていることを聞いてきた。
「行くわけがない」
答えついでに文句も言う。
「なんで私が、あの人のためにわざわざ出向かないとならないの。って言うかさ、なんでウチに来るの? 大学近くのアパートとか借りればいいじゃん」
「いや、それはさ、俺もお父さんもいなくなるからだって言ってたじゃん。ウチの方が安くつくし、たっくんの仕事的にも安心じゃん?」
「そうだけどさー」
直樹の言葉に頷くけど、やっぱり納得いかない!
お父さんと直樹が家を出るのは仕方ないとは思う。
お父さんは4月から仕事の関係で転勤が決まっちゃったから、それは仕方がない。
直樹は第一志望の高校に合格したけど、家からじゃ通えないからって寮に入ることになったのも、仕方がない。
でも、だけど、どうして、だからって……。
あの人がくることないじゃんっ!!
「何がそんなにイヤかね? たった1人の従兄じゃないか」
直樹の言葉に即答する。
「目、顔、性格」
「……いいとこないじゃん。仮にもアイドルなのに」
残念そうに言う直樹だけど、イイトコなんてどこにあるのか全日本国民に私は問いたい!
問いただしたい!!
「だって親戚で集まるたびに変な視線を向けられて、目が合ったらニヤケ顔だよ?」
思い出したくもない、あの顔。
「なのに清花はベッタリだし」
何がいいの?
あの人の。
「お父さんもお母さんも気に入っちゃってるし」
どんな手を使って取り入ったんだか。
「直樹だって、好きでしょ?」
「まあ……、お兄ちゃんみたいだし」
「ホラ! ヤツは私から家族を取り上げる気なんだ!!」
「何!? その発想!?」
直樹がビックリして目を丸くしてるけど、だってそうじゃないか。
あの人がいると、直樹も清花もお父さんもお母さんも、みんなあの人を選んで、あの人のところに行くんだ。
一体、何の恨みがあってこんな嫌がらせをしてくるの?
あの人と今日から1つ屋根の下、一緒に暮らさなきゃならないなんて……。
ありえないっ!!
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