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02 青イ惑星 チキュウ
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それは、美しい惑星だった。
体表面のほとんどが水で占められたその惑星には、多種多様の生命が芽吹いていた。
多くの植物、多くの動物、互いに互いを生かし合う、生命の連鎖。
途切れることのない、生き死にの輪。
長い年月をかけて、様々な種が生まれ、滅び、生き残るための進化を続ける。
あるものは翼を得て空を渡り、あるものは飛ぶように水辺を渡る。鋭い牙と爪を得たものもいれば、堅い鎧を得たものもいた。
あらゆる生物たちが、その身体を、その惑星で生き残るために進化させている。
ある1種を除いて――
それは、「ニンゲン」という種族だった。
彼らは、ある一定の段階で進化することを辞めた。
彼らはこの先、翼を持つこともなければ、水辺を渡る力も持たない。鋭い牙も爪も、その身を守る鎧も得ることはない。
けれど彼らは、その身体的進化の代わりに高い知能を得た。
翼を得る代わりに「ニンゲン」たちは彼ら自身を乗せて空を渡る道具をつくり出した。
水辺を渡る力がなくとも、それに代わる道具をつくり、地球上の如何なる場所へも自由に向かって行った。
鋭い牙も爪も持たない代わりに、それに代わる武器を持った。
自らの身体に鎧を持たなくとも、それに代わるものをつくりあげた。
高い知能を持ち、科学を発展させた彼らは、そうして、その惑星の摂理から外れていった――
「ニンゲン」たちは早々に、太古からその惑星に根付いていた自然の中で生きることを辞めた。自分たちでつくりあげ、自由に管理できる自然を傍に置くことを選んだ。
「ニンゲン」たちは、自分たちが他の生き物を狩ることに対して何も思わないようだったが、他の生き物たちが人間を狩ることは許さなかった。
狩るものと狩られるものがいてこそ、連鎖が続いていくというのに、「ニンゲン」たちはその輪に入ることを拒絶した。
狩られることを拒絶していながら、けれど狩ることは躊躇なく続けていた。
そうして、生命の連鎖から逸脱した存在となった「ニンゲン」たちは、その惑星で急速にその数を増やしていった。
「ニンゲン」はまた、他の生き物に狩られることを拒絶していながら、「ニンゲン」が「ニンゲン」を狩ることを許すことがあった。
『聖戦』だと、彼らは双方共に主張していた。どちらもが、自らが正しいのだと主張し殺し合う。
それは何とも不可思議な行動だと「ワタシ」は思うけれども、彼らはそうではないらしい。それを残酷だと思う反面、興味深くもあった。それは「ワタシ」がこれまでに視てきたその他の生物には視られない行動だったのだから。
さらに「ニンゲン」は、突発的に特定の生物を狩り始めることが多々あった。
増えすぎた生物が、生態系のバランスを崩す。だから減らすのだと、それが人間たちの主張だった。
生命の連鎖から逸脱した人間が主張していた。
他の生物は一定の数を保たせるのに、人間の数に関してはそうではなかった。他の生物が増えすぎたと減らし、けれど「ニンゲン」の数が明らかに増加していると自覚を持っても、彼らが「ニンゲン」の数を減らすことはしなかった。
不思議なことだ。
増えすぎた生物を減らす一方で、極端に数が少ない種族は保護が必要だと、「ニンゲン」たちは管理した。「ニンゲン」の手によって、あらゆる危険から守られ、餌を与えられ、繁殖させられる。
すべては、「ニンゲン」たちの意思によるもの。
1度「ニンゲン」の手に堕ちた種族が、2度と元の生き方ができなくなるとしても、「ニンゲン」たちはそうすることを選んだ。
彼らは、この惑星を「チキュウ」と呼んでいた。青く美しい惑星、「チキュウ」はどこへ行っても「ニンゲン」の手が加えられている。
どこへ行っても、何をとっても、それは誰かが管理している「ニンゲン」の所有物。
偶然その土地に育った木は、その意思とは関係なく所有者を名乗る「ニンゲン」の意思1つで簡単に切り倒される。花1輪でさえ、咲くのも散るのも人間の意思。
生命の生き死にさえをも、「ニンゲン」たちは管理しようとしているようだった。
古び、傷つき、衰えた身体を捨て、代替え品を用意し、生きながらえる。
そうして、それが当たり前となったそのときまでに、どれだけの犠牲を払ったのか。
その姿は、なんとも滑稽だ。
そう思う反面、興味深くもあった。
自らの身体を捨て、代わりの部品を得てまで、存在し続けたいと思うその世界は、どんなに素晴らしい世界なのだろう、と。
それはどんなに素晴らしい生き様なのだろう、と。
けれど、どんなに彼らを視続けても「ニンゲン」たちの生きながらえたいと思う理由はわからなかった。
やがて「ワタシ」は、生に対する異常なまでの執着は、「ニンゲン」特有の現象なのだろうと、そう納得することにした。他に、それを説明できる理由を「ワタシ」は見出すことができなかった。
生き死にさえも管理しようとする「ニンゲン」は、その歴史を刻む中で「チキュウ」に存在するあらゆるものを管理していった。
次いで、「ニンゲン」たちが目を向けたのは宇宙。「ワタシ」が旅をする、途方もなく広い空間をも管理下に置こうとしているように思えた。
空を越えたその先を、「ニンゲン」たちは夢見る。
「ニンゲン」たちの知能は本当に高い。溢れんばかりの好奇心に、実行力。数多くの失敗を重ね、ついに「ニンゲン」たちは宇宙へと飛び立つ手段を得た。
幾度となく繰り返される試験的な旅立ち。
今はまだ、そのときではないのだろうけれど、いつの日か「ニンゲン」たちは宇宙へ来るのだろう。
そのとき、「ワタシ」は再び彼らを視るためにこの場所に戻って来よう。
「ワタシ」は旅するモノ。
誰と共に行くでもない、何にも止められず、縛られず、自由な独り旅。
最後に、この美しい惑星を目に焼き付けよう。いつか再び、この惑星を目にするそのときまで――
体表面のほとんどが水で占められたその惑星には、多種多様の生命が芽吹いていた。
多くの植物、多くの動物、互いに互いを生かし合う、生命の連鎖。
途切れることのない、生き死にの輪。
長い年月をかけて、様々な種が生まれ、滅び、生き残るための進化を続ける。
あるものは翼を得て空を渡り、あるものは飛ぶように水辺を渡る。鋭い牙と爪を得たものもいれば、堅い鎧を得たものもいた。
あらゆる生物たちが、その身体を、その惑星で生き残るために進化させている。
ある1種を除いて――
それは、「ニンゲン」という種族だった。
彼らは、ある一定の段階で進化することを辞めた。
彼らはこの先、翼を持つこともなければ、水辺を渡る力も持たない。鋭い牙も爪も、その身を守る鎧も得ることはない。
けれど彼らは、その身体的進化の代わりに高い知能を得た。
翼を得る代わりに「ニンゲン」たちは彼ら自身を乗せて空を渡る道具をつくり出した。
水辺を渡る力がなくとも、それに代わる道具をつくり、地球上の如何なる場所へも自由に向かって行った。
鋭い牙も爪も持たない代わりに、それに代わる武器を持った。
自らの身体に鎧を持たなくとも、それに代わるものをつくりあげた。
高い知能を持ち、科学を発展させた彼らは、そうして、その惑星の摂理から外れていった――
「ニンゲン」たちは早々に、太古からその惑星に根付いていた自然の中で生きることを辞めた。自分たちでつくりあげ、自由に管理できる自然を傍に置くことを選んだ。
「ニンゲン」たちは、自分たちが他の生き物を狩ることに対して何も思わないようだったが、他の生き物たちが人間を狩ることは許さなかった。
狩るものと狩られるものがいてこそ、連鎖が続いていくというのに、「ニンゲン」たちはその輪に入ることを拒絶した。
狩られることを拒絶していながら、けれど狩ることは躊躇なく続けていた。
そうして、生命の連鎖から逸脱した存在となった「ニンゲン」たちは、その惑星で急速にその数を増やしていった。
「ニンゲン」はまた、他の生き物に狩られることを拒絶していながら、「ニンゲン」が「ニンゲン」を狩ることを許すことがあった。
『聖戦』だと、彼らは双方共に主張していた。どちらもが、自らが正しいのだと主張し殺し合う。
それは何とも不可思議な行動だと「ワタシ」は思うけれども、彼らはそうではないらしい。それを残酷だと思う反面、興味深くもあった。それは「ワタシ」がこれまでに視てきたその他の生物には視られない行動だったのだから。
さらに「ニンゲン」は、突発的に特定の生物を狩り始めることが多々あった。
増えすぎた生物が、生態系のバランスを崩す。だから減らすのだと、それが人間たちの主張だった。
生命の連鎖から逸脱した人間が主張していた。
他の生物は一定の数を保たせるのに、人間の数に関してはそうではなかった。他の生物が増えすぎたと減らし、けれど「ニンゲン」の数が明らかに増加していると自覚を持っても、彼らが「ニンゲン」の数を減らすことはしなかった。
不思議なことだ。
増えすぎた生物を減らす一方で、極端に数が少ない種族は保護が必要だと、「ニンゲン」たちは管理した。「ニンゲン」の手によって、あらゆる危険から守られ、餌を与えられ、繁殖させられる。
すべては、「ニンゲン」たちの意思によるもの。
1度「ニンゲン」の手に堕ちた種族が、2度と元の生き方ができなくなるとしても、「ニンゲン」たちはそうすることを選んだ。
彼らは、この惑星を「チキュウ」と呼んでいた。青く美しい惑星、「チキュウ」はどこへ行っても「ニンゲン」の手が加えられている。
どこへ行っても、何をとっても、それは誰かが管理している「ニンゲン」の所有物。
偶然その土地に育った木は、その意思とは関係なく所有者を名乗る「ニンゲン」の意思1つで簡単に切り倒される。花1輪でさえ、咲くのも散るのも人間の意思。
生命の生き死にさえをも、「ニンゲン」たちは管理しようとしているようだった。
古び、傷つき、衰えた身体を捨て、代替え品を用意し、生きながらえる。
そうして、それが当たり前となったそのときまでに、どれだけの犠牲を払ったのか。
その姿は、なんとも滑稽だ。
そう思う反面、興味深くもあった。
自らの身体を捨て、代わりの部品を得てまで、存在し続けたいと思うその世界は、どんなに素晴らしい世界なのだろう、と。
それはどんなに素晴らしい生き様なのだろう、と。
けれど、どんなに彼らを視続けても「ニンゲン」たちの生きながらえたいと思う理由はわからなかった。
やがて「ワタシ」は、生に対する異常なまでの執着は、「ニンゲン」特有の現象なのだろうと、そう納得することにした。他に、それを説明できる理由を「ワタシ」は見出すことができなかった。
生き死にさえも管理しようとする「ニンゲン」は、その歴史を刻む中で「チキュウ」に存在するあらゆるものを管理していった。
次いで、「ニンゲン」たちが目を向けたのは宇宙。「ワタシ」が旅をする、途方もなく広い空間をも管理下に置こうとしているように思えた。
空を越えたその先を、「ニンゲン」たちは夢見る。
「ニンゲン」たちの知能は本当に高い。溢れんばかりの好奇心に、実行力。数多くの失敗を重ね、ついに「ニンゲン」たちは宇宙へと飛び立つ手段を得た。
幾度となく繰り返される試験的な旅立ち。
今はまだ、そのときではないのだろうけれど、いつの日か「ニンゲン」たちは宇宙へ来るのだろう。
そのとき、「ワタシ」は再び彼らを視るためにこの場所に戻って来よう。
「ワタシ」は旅するモノ。
誰と共に行くでもない、何にも止められず、縛られず、自由な独り旅。
最後に、この美しい惑星を目に焼き付けよう。いつか再び、この惑星を目にするそのときまで――
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