【完結】EACH-ハジマリの旅路-

桐生千種

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01 旅 ノ ハジマリ

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 キラキラと瞬く星。
 どこまでも続く、広い空間。
 これは、ハジマリの記憶。
 「私」が「私」という存在になる前の、「私」という自己意識ができあがる前の、かつての「ワタシ」の遠い記憶――


 いつからそうだったのかはわからない。かつての「ワタシ」が、自我を持ち始めた頃には既に、「ワタシ」は宇宙という空間を漂うように旅をしていた。
 今の「私」のように、自由に動かせる手足はなく、意思を伝える声もその相手もなく、けれどその旅に不自由はなかった。

 「ワタシ」の意思ひとつで、「ワタシ」はどこへでも向かうことができた。

 遠くに視える生命芽吹く豊な惑星。
 行こうと思えば、簡単に「ワタシ」のカラダはその場所へと向かった。
 遠くから眺める、惑星。
 近づくことも、遠ざかることも、「ワタシ」は自由にできた。その惑星の引力圏に入りさえしなければ、「ワタシ」は自由。

 どこまでも、自由。

 降り立つことをしなくても、その惑星の様子を視ようと思えば、簡単に視ることができた。生命が芽吹き始めたばかりの真新しい惑星には、希望に満ちた多くの可能性を秘めた未来を視た。生物たちが生き死にを繰り返し、生命の連鎖が続いている惑星には、長い歴史の中で生まれた強固な絆を視た。すでに生命が息絶え、古び、滅びた惑星には力強い生命の再生の兆しを視た。

 「ワタシ」は永い旅の中、多くのモノを視た。多くの生命の誕生と、滅びる様を「ワタシ」はただ眺め、通り過ぎる。

 そうして、多くの星々とすれ違った。

 「ワタシ」と同じように、広い宇宙を旅する星々。中には、軌道を違え惑星へと墜ちていく星もあった。そして、惑星へと向かった彼らが、再びこの宇宙へと戻ってくることはなかった。
 彼らが降り立った惑星が、余程の楽園なのか、それとも、戻る術(すべ)を失ってしまったのか。
 その答えを知るときは、「ワタシ」が惑星へと墜ちるときだろう。

 「ワタシ」は多くの星々とすれ違ったけれど、「ワタシ」と同じように意思を持つモノと出会うことはなかった。

 「ワタシ」はヒトリ、旅を続ける。

 寂しさも、楽しさも、「ワタシ」には何もない。
 けれどそれが苦痛だとは、思わない。
 それが「ワタシ」の当然だ。

 ただ、この広い宇宙に「ワタシ」という個体が存在する。
 ただ、それだけの事実を「ワタシ」は受け入れている。

 隣には誰もなく、これまでも、これからも、共に旅するモノはない。これまでも、これからも、変わることのない永遠の独り旅。何に引き止められることも、縛られることもない、自由な旅。
 どの惑星にも降り立つことはなく、ただ視るだけの旅。
 「ワタシ」は、視るだけの存在。そうで在り続ける。

 これまでも、これからも、永遠に、永久に――このカラダが朽ちるまで……。
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