【完結】好きです、ハナちゃんっ!

桐生千種

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3.好きな人

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 僕の好きな人。

 山下やました葉那はなちゃん、16歳。

 誕生日は8月10日。

 桜月さくらづき学園がくえん付属ふぞく桜ノ女子さくらのじょし高等学校こうとうがっこう1年B組所属。

 部活動には入っていなくて帰宅部。

 委員会にも入っていない。

 好きなものは小説。(特にファンタジー)

 いつでもどこでも小説を持ち歩いているくらい、ハナちゃんは小説が好き。

 それから、ハナちゃんの1番の仲良しは幼等部の頃から変わらずに、宮川みやかわ琴子ことねちゃん。

 ハナちゃんとは家が隣同士で、幼等部から小学校、中学校、高校、と同じ学校に進学して、すっごく羨ましい。

 僕だって本当は、ハナちゃんと同じ学校に進学したかった。

 ハナちゃんと同じ学校に通えるなら、どんなにだって勉強を頑張ろうって思ってたけど、ハナちゃんが進学したのは女子校だった。

 どんなに勉強を頑張っても、男の僕がハナちゃんと同じ学校に通える日は来なかった。

 そんな僕に唯一残されたハナちゃんとの接点は、たまに被る登下校の時間と年に1度の学園祭。

 とくに学園祭のときだけは、男の僕でも女子校に入っても許される。

 ハナちゃんと学園祭を過ごすことができるんだ。

 ……って言っても、ハナちゃんと直接約束してるわけじゃないんだけど……。

 学園祭の自由時間。

 桜ノ女子高等学校の敷地内に足を踏み入れた僕がはじめにするのは、ハナちゃんを探すこと。

 とりあえず、ハナちゃんのクラスである1年B組を目指す。

 外にテントを出して軽食を売ってるクラスもあるけど、ああいうのはだいたい3年生だから。

 1年生はほとんどがクラスで展示とかやってるはず。

 そう予想して、真っ先に校舎の中に入る。

 行き交う人。

 飾り付けられてる教室の前を抜けて、僕が探すのは1年B組。

「お! 月ノの男の子ー! キミだよ、キミ!」

 勘違い、でなく声をかけられた。

 僕が通うのは月ノつきの男子だんし高等学校こうとうがっこう

 制服を見れば、僕が月ノの生徒だってことはすぐわかるから。

「射的で豪華景品ゲットして行かない?」

「え、えっと……」

 ずずい、とたぶんお店の宣伝が書かれた紙を見せてくるその人にたじろぐ。

 2年B組の文字が目に入って、僕が行きたいのは1年B組……と思うけど、言葉にすることはしない。

「彼女に会う前に、可愛いプレゼントとかどう?」

「かっ……!?」

 かのじょっ……!?

 そんな、ハナちゃんが僕の彼女なんて、そんな、そんな……。

「お! 興味があるなら覗いて行こう! やってみよう!」

 僕が返事をする前に、声をかけてきたお姉さんは僕を教室の中に誘導する。

「サユリー! 1名様ご案内ー!」

 教室の中に居たお姉さんに声をかけて、いよいよ断れなくなった。

「ユイ、その子ホントにお客さん? 無理矢理連れて来たんじゃないでしょーね」

「え? やっていくよね? ね?」

 教室に居たお姉さんが心配してくれたけど、声をかけてきたお姉さんの圧に負けた。

「は、はい……」

 気づけばそう返事をしていた。

「えっと、じゃあ……」

 と、机を並べてつくられたカウンターの向こうから、お姉さんが紙でつくられたトレイを差し出してきた。

 トレイに乗ってるのは割り箸でつくられた銃と、輪ゴム。

「1回5発で、あそこにあるマトに当てたら下の景品ゲット。当てるのは1回でいいよ。がんばって」

 お姉さんが示した景品を見る。

 髪飾りだったり、ぬいぐるみだったり、手づくりっぽい可愛らしい景品が並んでいる。

 その中に、僕の視線を惹きつけたものがあった。

 水色の台紙で、ピンク色の花のしおり。

 小説が好きなハナちゃんだから、しおりならぴったりだと思った。

 何より、そのしおりがハナちゃんに似合いそうって思った。

 僕は、そのマトに狙いを定めた。

*****

「もう1回お願いします!」

「は、はーい……」

 何回チャレンジしたかわからないけど、一向に命中しない。

 何度目かわからないけど、またお姉さんに輪ゴムを貰う。

 1発目。

 マトの右上を通過して行った。

 2発目。

 マトの左下をくぐり抜けて行った。

 3発目。

 右真横。

 4発目。

 マト左。

 5発目――

「もういっ――」

 ペシッ!

 「もう1回」と言い終える前に、僕が狙ってたマトに輪ゴムが当たった。

 僕が撃った輪ゴムじゃない。

「おめでとう!」

 お姉さんが、景品を持って輪ゴムを当てた子の方に行った。

 マトの下には新しい景品が置かれていて、だけどそれはしおりではあるけど色違い。

 今度のは緑色の台紙に、黄色い花。

 さっきの、水色とピンクだったから、ハナちゃんにって思ったのに……。

 横取りされたような気持ちになって、僕は景品を受け取るその子を見た。

 そしたら――

 ――ハナちゃんっ……!?

 ハナちゃんだった。

 ハナちゃんの手に渡ったしおりは、馴染んでいて思った通りハナちゃんにぴったりだった。

 僕がプレゼントしたかったな……なんて思ったけど、仕方ないか……って思っていたら、ハナちゃんが僕に近づいて来た。

「え、え……?」

 ハナちゃんは受け取ったばかりのしおりを僕に差し出した。

「いやっ……えっと……」

 僕はハナちゃんにあげるためにほしくて、僕がほしかったわけじゃなくて、だから……。

 なんて言おうか言葉を詰まらせていると、ハナちゃんは差し出していた手を引っ込めた。

 そして、一緒にいた子たちのところに戻って行った。

 ああああ……折角ハナちゃんと話すチャンスだったのに僕のバカ!

 ハナちゃんは、もう1度割り箸の銃を手に取った。

 なにを取るんだろう、って見ていたら……。

 ペシッ!

 さっきと同じマトに当てた。

「おおっ!」

 お姉さんが拍手をして、また、ハナちゃんにしおりを手渡した。

 そうしたら、ハナちゃんはもう1度僕のところまで来た。

 そして、新しいしおりを差し出す。

「え……、僕に?」

 じっ……とハナちゃんが僕を見る。

 その視線に、ドキドキした。

「あ、ありがとう……」

 受け取ったしおりは、宝物みたいにキラキラして見えた。

 ハナちゃんが、僕のために取ってくれた宝物。

 一生大事にする。

 みんなのところに戻ったハナちゃんは、また、割り箸の銃を取った。

 ペシッ!

 と、同じマトに3回目を当てた。

「おおっ! 3回目!」

 お姉さんは3つめのしおりをハナちゃんに手渡す。

 今度は、ピンク色の台紙に赤い花だった。

「え? いいの?」

 ハナちゃんは、一緒にいた女の子にそれを渡した。

 名前はたしか、ツムギちゃん。

 ああ……、僕だけに取ってくれたわけじゃないか……。

 未だに僕は、ハナちゃんの特別にはなれない。

 ハナちゃんは残り2発も、マトに当てた。

 しおりじゃなくて、ストラップを2つ。

 その2つものストラップも一緒にいた女の子――コトネちゃんとミユちゃんに渡していた。

 5発使い切ったハナちゃんが、僕を見た。

 目が合って、ドキッとした。

「一緒に、まわる?」

 ハナちゃんが言った。

「え……」

 誘ってくれた。

 すごく嬉しい。

 けど。

 今年は、コトネちゃん以外にミユちゃんとツムギちゃんもいて、僕がその中に入っていいのか、考えてしまう。

「いい?」

 僕の思考に気づいたのか、ハナちゃんが振り返って聞いた。

「いいよ」

 そう言ってくれたのはツムギちゃん。

「一緒にまわろう」

 ミユちゃんも、そう言ってくれた。

「私も全然いいよ? ショータがついて来るの毎年のことだし」

 そう言ったのは、コトネちゃん。

 自分の顏が、熱くなるのがわかった。

「うっ……、ありがとう……」

 コトネちゃんには、バレちゃってるからなぁ……。

「いこう」

 ハナちゃんが声をかけてくれて、今年も、ハナちゃんと一緒に学園祭を過ごすことができた。
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