【完結】EACH-アイラが愛した世界-

04 終わる世界

08 大切な人

　アイは独り、孤独となった。
　共に生まれた者たちはみんな、アイをおいて逝ってしまった。

　どんなに周りに大人が集まってもアイは孤独だった。

　誰も、アイを人間の子供として扱ってはくれなかった。

　大人たちが人工的につくりだした、マウスと同じ扱いだった。

　親から与えられる愛情も、アイには与えられることがなかった。
　何より、アイには親と呼べるような存在がいなかった。

　誰にも守られることなく、孤独の中でアイは自分の番を待ち続けていた。
　逝ってしまった、唯一の仲間たちのようにアイ自身が逝くそのときを小さな身体でひたすらに待ち続けた。

　そんな日々の中でだった。
　彼女が現れたのは。

「あなたが、アイ？」

　そう声をかけて来た彼女の言葉を、アイはまるで理解できなかった。
　アイに対して、ひとりの人間として話しかけてくるような大人はいなかったから。

　アイのことを「アイ」と呼ぶような大人もいなかったから。
　アイは識別コード「AI」と呼ばれていた。

　突然現れた彼女を、アイはただ見上げることしかできなかった。
　子供らしからぬ反応を見せるアイに、彼女は嫌な顔をひとつもせずに笑った。

「私、美咲！　よろしく、アイ！」

　他の大人たちとは違う、無垢な笑顔だった。

　美咲は、アイに何も求めなかった。

　地に足を付けずに移動することも、視覚を塞いで歩くことも、聴覚を閉ざして聞くことも、何も求めなかった。

　何も求めなかったけれど、美咲はアイにたくさんのものを与えた。

　アイと言う名前。
　言葉で意思を伝えること。
　文字。
　楽しい気持ち。
　悲しい気持ち。
　寂しい気持ち。
　嬉しい気持ち。
　幸せだと思う気持ち。
　好きという気持ち。
　愛するということ。

　美咲がいたから、アイは世界を恨まずに生きることができた。
　美咲が教えてくれた、ここではない場所には優しい世界が広がっていた。

　小さなアイの世界では、美咲がすべてだった。
　美咲のために、アイは生きた。
　もっと美咲と一緒にいるために、明日も生きようと思えた。

　世界でたったひとりの大切な美咲。

　ずっと一緒にいたいと思っていた。
　大好きだった美咲を、アイが殺した――