上 下
52 / 66
04 終わる世界

03 青い惑星

しおりを挟む
 それは青い惑星だった。

 アイラの目の前に現れた青く美しい惑星は、あらゆる生き物たちが住まう惑星だった。
 空を渡る鳥もいれば、海を泳ぐ魚、地を駆ける獣もいた。

 互いに互いを生かしあう、命の連鎖がそこにはあった。

 その中で、ある1種の生き物だけがその連鎖から逸脱していた。

 自らを「ニンゲン」と呼ぶ彼らは、空を渡るための翼もなく、海を泳ぐためのヒレもなく、地を駆けるための早い足も、身を守るなめの鎧もなかった。

 代わりに、空を渡るための機械を作り、海を渡るための機械をつくり、何よりも早く移動できる機械を作り、自らの鎧に代わる防具を着た。

 ニンゲンたちは、惑星のあらゆるもの管理した。

 増えすぎた種族は数を減らそう。
 減り過ぎた種族は数を増やそう。

 他の種族がニンゲンを殺すことは許さないけれど、ニンゲンが他の種族を殺すことは仕方のないこと。

 偶然その地に咲いた花の1本に至るまで、誰かニンゲンの管理する所有物となった。

 惑星のすべてを管理下に置いたニンゲンたちが、次に目を向けたのは空の向こう――宇宙だった。

 途方もない広い世界をニンゲンたちは知りたがった。
 そして、ほしがった。

 何度も何度も、宇宙へと飛び立つ挑戦を繰り返した。

 時には、空まで辿り着くことさえもできないこともあった。
 それでも、諦めることなく何度も繰り返し飛び立った。

 繰り返される挑戦の先に、いつか宇宙を旅する日も来るのだろうと、アイラはニンゲンたちを見ながら思っていた。

 もう少し見たら、次の場所に向かおうとアイラはアイラのこれからを考えた。

 けれど、アイラが次の惑星に向かうことはできなかった。

 地球から飛び立って来てロケットは、真っ直ぐにアイラに向かって来ていた。
 そのロケットにはニンゲンが乗っていた。

 ニンゲンたちは恐れおののいていた。

 あれにぶつかってはいけないと、アイラは思った。
 思うと同時に、アイラの身体はロケットを除けた。

 喜ぶニンゲンたちの声が聞こえた。
 宇宙へと突き進んでいくロケットを見送った。

 けれど、ロケットは飛んできたよりも早くアイラとの距離を離していった。

 同時に、青い惑星が近づいていた。

 戻ることはできなかった。
 何か強い力に引っ張られるように、アイラは青い惑星に近づいていた。

 また、ニンゲンたちの悲鳴が聞こえた。

 掴むことのできない、白く冷たい筋は雲。
 雲の中を抜けて、風を切るように進んだ。
 宇宙から見ていたときとは違う輝きを見せる海。
 宇宙にはなかった、優しい色合いで生い茂る緑。

 身体が熱く燃えるようで、けれどそれを心地よいと感じた。

 生き物たちがアイラを見上げた。
 ニンゲンたちがアイラを指差した。

 降り立った惑星はとても心地よかった。

 降り注ぐ太陽の光はあたたかく、見上げる空はどこまでも続いているように思えた。
 宇宙では聞くことのなかった、生き物たちの声も、触れる空気も、大地も心地よかった。

 こうしてアイラは地上へと降り立った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし

佐倉 蘭
歴史・時代
★第10回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ ある日、丑丸(うしまる)の父親が流行病でこの世を去った。 貧乏裏店(長屋)暮らしゆえ、家守(大家)のツケでなんとか弔いを終えたと思いきや…… 脱藩浪人だった父親が江戸に出てきてから知り合い夫婦(めおと)となった母親が、裏店の連中がなけなしの金を叩いて出し合った線香代(香典)をすべて持って夜逃げした。 齢八つにして丑丸はたった一人、無一文で残された—— ※「今宵は遣らずの雨」 「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

椿散る時

和之
歴史・時代
長州の女と新撰組隊士の恋に沖田の剣が決着をつける。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

処理中です...