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03 変わる世界
15 その手をとって
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今日は朝からリンの様子がおかしかった。
目に見えて「変」というわけではないけれど、何かいつもと様子が違っていた。
いつも同じ表情を見せながら、その瞳の奥は苦しみに揺れていた。
「アイラ、こんにちは」
「シノ!」
突然のシノの訪問にアイラは驚いた。
シノの訪問はいつも突然だったけれど、今回はリンは知っていた様子だった。
何か言いたそうな表情でシノを見て、けれど、何も言わなかった。
「アイラ!」
シノの後ろからサイトも顔を出した。
「サイト! 遊びに来たの?」
「アイラに会いたくて、会いに来ちゃったぁ!」
ぎゅうっ! と抱きしめるサイトにもアイラはすっかり慣れていた。
「今日もアイラはかわいい」
ぎゅうぎゅうと抱きしめるサイトは、いつも通りに思えたけれど違っていた。
離さないと言うような、行かないでとすがるような、そんな苦しさをアイラは感じた。
「サイト?」
「……」
いつもならすぐに返事をくれるはずのサイトは、何も言ってはくれなかった。
「アイラ」
呼びかけたシノの言葉に、どうしてかサイトの身体が跳ねた。
アイラは抱きしめてくるサイトの腕の中からシノを見上げた。
「今日は、アイラに来てほしいところがあるんだ」
シノの言葉に、アイラはきょとんと首を傾げた。
「会ってほしい人がいるんだ」
それはシノが何年も望み続けたこと。
その足がかり。
「彼女はここには来れないから、アイラが会いに行ってあげてほしいんだ」
シノは、シノだけはいつもと変わらなった。
いつもと変わらない笑みで、アイラを見ていた。
「そこは、近く?」
「そうだね、歩いてすぐだよ」
「いいよ」
歩いてすぐならば、きっと遅くならずに帰って来れるだろう。
そんな気持ちで、アイラは了承していた。
「ありがとう」
そう言った、シノの笑顔は今までにないくらい嬉しそうに見えた。
「サイトも一緒に行っていい?」
アイラの言葉に、サイトが微かに目を見開いた。
「どうして?」
そう聞いたシノに、アイラは当然のことのように答えた。
「サイトと約束したから。一緒に行こうって」
「どこかに行くときは一緒に」と、すがるように言っていたサイトの言葉をアイラは忘れていなかった。
「邪魔をしないなら、一緒においで」
そう言ったシノの言葉に、1番喜んでみせたのはアイラだった。
「よかったね、サイト。一緒に行けるね」
「……うん」
せっかく願っていた通りになったのに、サイトは泣きそうな顔で笑った。
やっぱり、今日はみんながどこか変だと、アイラは思った。
「それじゃあ、行こうか」
すっと、差し出されたシノの手をアイラはとった。
「だめ。アイラと手を繋ぐのは僕だよ」
ぐっと、サイトがシノからアイラの手を奪い取った。
シノは別段怒るような素振りも見せずに笑っていた。
「あ、そうだ」
部屋を出る直前、アイラが立ち止まって振り向いた。
そこには、リンがいた。
「リン! いってきます!」
屈託ない笑顔を向けてそういうアイラに、リンは平常心を取り繕うので精一杯だった。
「いってらっしゃい」
そう言うのがやっとで、扉が閉じてアイラの姿が完全に見えなくなってからリンはふらふらとテーブルに両手をついた。
俯いて、自分に問いかける。
「本当に、これでよかったのか――?」
けれど、その答えはどこからも帰って来ることはなかった。
目に見えて「変」というわけではないけれど、何かいつもと様子が違っていた。
いつも同じ表情を見せながら、その瞳の奥は苦しみに揺れていた。
「アイラ、こんにちは」
「シノ!」
突然のシノの訪問にアイラは驚いた。
シノの訪問はいつも突然だったけれど、今回はリンは知っていた様子だった。
何か言いたそうな表情でシノを見て、けれど、何も言わなかった。
「アイラ!」
シノの後ろからサイトも顔を出した。
「サイト! 遊びに来たの?」
「アイラに会いたくて、会いに来ちゃったぁ!」
ぎゅうっ! と抱きしめるサイトにもアイラはすっかり慣れていた。
「今日もアイラはかわいい」
ぎゅうぎゅうと抱きしめるサイトは、いつも通りに思えたけれど違っていた。
離さないと言うような、行かないでとすがるような、そんな苦しさをアイラは感じた。
「サイト?」
「……」
いつもならすぐに返事をくれるはずのサイトは、何も言ってはくれなかった。
「アイラ」
呼びかけたシノの言葉に、どうしてかサイトの身体が跳ねた。
アイラは抱きしめてくるサイトの腕の中からシノを見上げた。
「今日は、アイラに来てほしいところがあるんだ」
シノの言葉に、アイラはきょとんと首を傾げた。
「会ってほしい人がいるんだ」
それはシノが何年も望み続けたこと。
その足がかり。
「彼女はここには来れないから、アイラが会いに行ってあげてほしいんだ」
シノは、シノだけはいつもと変わらなった。
いつもと変わらない笑みで、アイラを見ていた。
「そこは、近く?」
「そうだね、歩いてすぐだよ」
「いいよ」
歩いてすぐならば、きっと遅くならずに帰って来れるだろう。
そんな気持ちで、アイラは了承していた。
「ありがとう」
そう言った、シノの笑顔は今までにないくらい嬉しそうに見えた。
「サイトも一緒に行っていい?」
アイラの言葉に、サイトが微かに目を見開いた。
「どうして?」
そう聞いたシノに、アイラは当然のことのように答えた。
「サイトと約束したから。一緒に行こうって」
「どこかに行くときは一緒に」と、すがるように言っていたサイトの言葉をアイラは忘れていなかった。
「邪魔をしないなら、一緒においで」
そう言ったシノの言葉に、1番喜んでみせたのはアイラだった。
「よかったね、サイト。一緒に行けるね」
「……うん」
せっかく願っていた通りになったのに、サイトは泣きそうな顔で笑った。
やっぱり、今日はみんながどこか変だと、アイラは思った。
「それじゃあ、行こうか」
すっと、差し出されたシノの手をアイラはとった。
「だめ。アイラと手を繋ぐのは僕だよ」
ぐっと、サイトがシノからアイラの手を奪い取った。
シノは別段怒るような素振りも見せずに笑っていた。
「あ、そうだ」
部屋を出る直前、アイラが立ち止まって振り向いた。
そこには、リンがいた。
「リン! いってきます!」
屈託ない笑顔を向けてそういうアイラに、リンは平常心を取り繕うので精一杯だった。
「いってらっしゃい」
そう言うのがやっとで、扉が閉じてアイラの姿が完全に見えなくなってからリンはふらふらとテーブルに両手をついた。
俯いて、自分に問いかける。
「本当に、これでよかったのか――?」
けれど、その答えはどこからも帰って来ることはなかった。
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