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03 変わる世界
10 サイトの願い
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アイラはサイトと一緒にいた。
サイトと2人きりになるのはこれで2度目だった。
「シノと大事な話があるから」と部屋を出たリンは、一体の何の話をしているのだろうとアイラは考えるけれど、その答えがわかるはずもなく大人しくサイトと遊んでいることにした。
サイトと一緒なら、ひとりでは遊び飽きていたことも新鮮なことのように思えた。
「この絵本……」
サイトが言った。
「知ってるの?」
サイトが見ているのは、『守り姫の待ち人』と題された絵本だった。
サイトが来る前に、読んでいたものをまだ片付けていなかった。
「うん……」
頷くサイトは、何か言いたそうだった。
サイトの言葉を、アイラは待った。
「僕ならさ」
サイトが呟いた。
「こうなる前に、大人たちをやっつけて逃げるのにって思うんだ」
「サイト……?」
見慣れないサイトの様子に、アイラは困惑した。
サイトと出会ってまだ数回だけれど、サイトはいつだってアイラに笑顔を振りまいてくれていた。
そのサイトからどうしてかほの暗い空気を纏っているような気がしてならなかった。
「ねえ、アイラ。もしもアイラがここから逃げたいなら、僕、シノとだって戦うよ」
「逃げるって、どうして……?」
サイトがどうしてそんなことを言い出したのか、アイラにはまるで理解できなかった。
アイラが育ってきたこの部屋は、アイラが生活するこの部屋は、カイトとレイナが帰って来るこの部屋は、危険があるはずのない場所だったから。
逃げたい理由があるはずなかった。
「……なんでもない」
ゆるりと、微かに目を見開いたサイトは、何かに気づいたようだった。
「そうだよね」
それは、どこかがっかりしたようにも、寂しそうにも見えた。
「サイト?」
今日のサイトは、どこか様子がおかしいとアイラは思った。
「でも、お願い。約束して。アイラがどこかに行くときは必ず僕も連れて行って。一緒にいさせて。お願い」
そう言うサイトはどこか必死で、小さな子供のようだった。
「どこにも行かないよ?」
どこに行くはずもないと、アイラは思っていた。
けれど、サイトは納得できない様子でアイラにすがった。
「お願い。お願い。お願い。何でもする。アイラのためだったら何だってできる。どこにだって行ける。だから、僕をおいて行かないで」
まるで本当に、アイラがどこかへ行ってしまうと思っているようだった。
アイラも、どこかへ行く日が来るのかもしれないと思い始めていた。
「うん」
アイラは頷いた。
「一緒に行こう」
「どこへ」なんてことはわからない。
けれど、それでサイトが安心できるのなら、そんなあるかどうかもわからない未来の行き先だけれどサイトがいるならアイラも安心できる気がした。
「……っ!」
アイラの言葉に、ぱっと表情を明るくしたサイトはいつものサイトに戻っていた。
「うんっ! アイラ大好きっ!」
サイトと2人きりになるのはこれで2度目だった。
「シノと大事な話があるから」と部屋を出たリンは、一体の何の話をしているのだろうとアイラは考えるけれど、その答えがわかるはずもなく大人しくサイトと遊んでいることにした。
サイトと一緒なら、ひとりでは遊び飽きていたことも新鮮なことのように思えた。
「この絵本……」
サイトが言った。
「知ってるの?」
サイトが見ているのは、『守り姫の待ち人』と題された絵本だった。
サイトが来る前に、読んでいたものをまだ片付けていなかった。
「うん……」
頷くサイトは、何か言いたそうだった。
サイトの言葉を、アイラは待った。
「僕ならさ」
サイトが呟いた。
「こうなる前に、大人たちをやっつけて逃げるのにって思うんだ」
「サイト……?」
見慣れないサイトの様子に、アイラは困惑した。
サイトと出会ってまだ数回だけれど、サイトはいつだってアイラに笑顔を振りまいてくれていた。
そのサイトからどうしてかほの暗い空気を纏っているような気がしてならなかった。
「ねえ、アイラ。もしもアイラがここから逃げたいなら、僕、シノとだって戦うよ」
「逃げるって、どうして……?」
サイトがどうしてそんなことを言い出したのか、アイラにはまるで理解できなかった。
アイラが育ってきたこの部屋は、アイラが生活するこの部屋は、カイトとレイナが帰って来るこの部屋は、危険があるはずのない場所だったから。
逃げたい理由があるはずなかった。
「……なんでもない」
ゆるりと、微かに目を見開いたサイトは、何かに気づいたようだった。
「そうだよね」
それは、どこかがっかりしたようにも、寂しそうにも見えた。
「サイト?」
今日のサイトは、どこか様子がおかしいとアイラは思った。
「でも、お願い。約束して。アイラがどこかに行くときは必ず僕も連れて行って。一緒にいさせて。お願い」
そう言うサイトはどこか必死で、小さな子供のようだった。
「どこにも行かないよ?」
どこに行くはずもないと、アイラは思っていた。
けれど、サイトは納得できない様子でアイラにすがった。
「お願い。お願い。お願い。何でもする。アイラのためだったら何だってできる。どこにだって行ける。だから、僕をおいて行かないで」
まるで本当に、アイラがどこかへ行ってしまうと思っているようだった。
アイラも、どこかへ行く日が来るのかもしれないと思い始めていた。
「うん」
アイラは頷いた。
「一緒に行こう」
「どこへ」なんてことはわからない。
けれど、それでサイトが安心できるのなら、そんなあるかどうかもわからない未来の行き先だけれどサイトがいるならアイラも安心できる気がした。
「……っ!」
アイラの言葉に、ぱっと表情を明るくしたサイトはいつものサイトに戻っていた。
「うんっ! アイラ大好きっ!」
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