【完結】EACH-アイラが愛した世界-

桐生千種

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03 変わる世界

05 記録と記憶③

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 ここからは、現在のリンが実際に経験した記憶。

 2度目の光を経験したあとも、リンという存在は消えてはいなかった。
 記録上、リンという人物は存在し続けている。
 たとえそれが、3つめの身体だったとしても。

 アイナが光となったあと、リンはまた新たな子と生活を共にすることになった。

 それが、アイラだった。

 今まで犠牲になってきた、アイシー、アイハ、アイヒ、アイカ、アイナからもたらされたデータをもとに、改良を重ねて生み出されたアイラは今までの子たちよりも遥かに長い月日を生き延びていた。

 白い髪、赤い瞳、その顔立ち。
 その姿は、ある人物の生き写しのようだった。

 シノが救いたいと願う、彼女と同じ顔立ち。

 幼少期の彼女を彷彿とさせた。

 もっとも、アイラの方が遥かに感情豊かだったけれど……。

 アイラは、悲しければ泣き、嬉しければ笑い、癇癪も起こす、どこにでもいる普通の子供だった。

 ただひとつ、その能力の大きさを除いては……。

 かつて、ネオが生み出されはじめた頃、身体が耐えられないほど、釣り合わない強さの能力を持たされていた。

 それを原因とする死亡例も少なくなかったが、シノが関わり始めてそれもなくなった。

 身体に見合うだけの、身体が耐えられる程度の能力しか持たさない。

 そう、決められているはずだった。
 普通なら。

 けれどアイラは――アイラたちは、特別な理由のためにその決まりから逸脱して生み出されていた。

 
 耐えられるか耐えられないかぎりぎりのところで生かされ、耐えられなければそこで終わり。
 次を用意すればいい。

 今もなお、コンピューターに囚われている彼女の代わりとなる子をつくりだす。

 それがシノの望みだった。

 そしてリンは、それを手伝う者。

 2度の生の終わりを経験して、リン自身もあとには引けないところに来ていた。

 もしも、アイラが失敗に終わったならば、シノは次を用意し、またリンが育てる。
 その繰り返し。

 それは、きっと、シノの望みが叶うまで、彼女がコンピューターの呪縛から解放され、目覚めるその日まで続く。

 けれどそれは、代わりとなる少女がコンピューターに囚われるということだ。
 今ならば、アイラがそれに最も近い存在だった。

 10年間、アイラの傍に居続けたリンは思う。

 奇跡が起きればいいのに、と。

 奇跡的に、彼女が目覚めアイラがごく普通のネオ――というのは難しいかもしれないけれど少なくとも死への危険やその他の危険に晒されることのない生活を送れるようなことはないだろうか。

 奇跡的に、アイラを代わりにするこなく彼女を呪縛から救い出す方法が見つかりはしないか、と。

 どちらも不可能なことだとわかっている。

 20年以上も目覚めることのなかった彼女が突然目覚める奇跡は起こり得ない。
 何年も何十年も方法を探し続けているシノが見つけた唯一の方法に代わる手だてが、他の誰かに、ましてやリンに見つけられるはずがない。

 どうすることもできない無力感に苛まれながら、リンは覚悟を決めるほかなかった。

 ならばせめてアイラが。
 アイラに関わるすべての子たちが、少しでも毎日を楽しく、幸せだと思えるような日々を送れるように、努めよう。

 そんな思いを胸に、リンは教え子たちの待つ部屋の扉を開けた。
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