36 / 66
03 変わる世界
03 記録と記憶①
しおりを挟む
シノと別れて、自分の持ち場へ、アイラとカイトとレイナがいる部屋へと向かう途中、リンは記憶を呼び起こしていた。
かつて、アイラが生まれるよりも前に短くも同じ時間を過した少女たち。
初めの子は、アイシー。
笑顔の絶えない子だった。
小さな身体で、好奇心旺盛で、何にでも興味を示しては、コロコロと表情を変えて、そうして最後には笑っていた。
そんなアイシーは、リンと出会ってから3ヶ月ほどで帰ることのない光になった。
初めからわかっていたことだった。
アイシーは、ある一定値以上の能力を持たせたら、どれだけ身体がもつのか。
それを知るために、データを取るために生み出された子だった。
アイシーは長く生きられない。
出会ったときからわかっていたことだったけれど、最期の瞬間までアイシーは笑っていて、リンはひどく苦しくなった。
アイシーがいなくなってすぐ、リンのところにはアイハが来た。
アイハはアイシーとは正反対の子だった。
いつも怯えて、笑顔をみせることはなかった。
アイハはそこに存在しないものに怯えていた。
過去の、ネオが生まれはじめたばかりの頃の幻。
ずさんな管理体制に、劣悪な生活環境。
虐待する大人たち。
アイハの現在の時間には存在しないものばかりが、アイハを苦しめていた。
「怖い大人はいない。悪いことは起こらない」
リンがそう言葉をかけても、アイハには届かなかった。
存在しない過去に怯え、そんな生活が半年間続いた。
皮肉にも、アイシーから取れたデータをもとにして改良されたアイハという個体は、3ヶ月から半年へと能力に対する身体の耐久性を上げていた。
けれど、心ばかりはどうすることもできずに、アイハの心は限界を迎え、同時に身体も半年が限界だった。
アイハが帰らない光となったとき、リンはほっとしていた。
もう、アイハが過去に苦しめられることはないのだから、と。
アイヒがいなくなって、間を置かずしてアイヒがやって来た。
出会った瞬間、リンは悟った。
リンは、アイヒと共に光になるのだろう、と。
アイヒはとても賢く、優しい子だった。
強い能力を持ちながら、それに耐えうる可能性を持った身体を持ち、それでいて心も正常。
だからこそ、アイヒは怯えていた。
心身ともに問題がなく、周囲の状況を的確に判断できるアイヒだからこそ、自身でコントロールしきれない能力の存在に怯えていた。
日増しに強くなるアイヒの能力は、アイヒの意志ではどうにもできないほどに増大し、遂には周囲のものを手当たり次第に破壊するようになってしまった。
その原因が自分にあると、アイヒは理解し、その小さな心では抱えきれない不安や悲しみを背負って、「誰も近づくな」と泣いていた。
本当は、アイヒの方が誰かに泣きついてしまいたいはずなのに、助けてほしいと願っているはずなのに、アイヒはそれをしなかった。
そうすれば、相手がどうなるかアイヒはわかっていた。
だからこそ、リンは逃げるアイヒを捕まえて抱きしめたのだ。
「大丈夫だよ」
その声が、アイヒに届いたかは定かではないけれど、アイヒはリンを最期には抱きしめ返していた。
――僕が一緒にいるからね……。
その言葉は、もう声にはならなかったけれど、きっとアイヒには届いたはずだ。
こうしてリンは、アイヒと共に1度目の光を経験した。
かつて、アイラが生まれるよりも前に短くも同じ時間を過した少女たち。
初めの子は、アイシー。
笑顔の絶えない子だった。
小さな身体で、好奇心旺盛で、何にでも興味を示しては、コロコロと表情を変えて、そうして最後には笑っていた。
そんなアイシーは、リンと出会ってから3ヶ月ほどで帰ることのない光になった。
初めからわかっていたことだった。
アイシーは、ある一定値以上の能力を持たせたら、どれだけ身体がもつのか。
それを知るために、データを取るために生み出された子だった。
アイシーは長く生きられない。
出会ったときからわかっていたことだったけれど、最期の瞬間までアイシーは笑っていて、リンはひどく苦しくなった。
アイシーがいなくなってすぐ、リンのところにはアイハが来た。
アイハはアイシーとは正反対の子だった。
いつも怯えて、笑顔をみせることはなかった。
アイハはそこに存在しないものに怯えていた。
過去の、ネオが生まれはじめたばかりの頃の幻。
ずさんな管理体制に、劣悪な生活環境。
虐待する大人たち。
アイハの現在の時間には存在しないものばかりが、アイハを苦しめていた。
「怖い大人はいない。悪いことは起こらない」
リンがそう言葉をかけても、アイハには届かなかった。
存在しない過去に怯え、そんな生活が半年間続いた。
皮肉にも、アイシーから取れたデータをもとにして改良されたアイハという個体は、3ヶ月から半年へと能力に対する身体の耐久性を上げていた。
けれど、心ばかりはどうすることもできずに、アイハの心は限界を迎え、同時に身体も半年が限界だった。
アイハが帰らない光となったとき、リンはほっとしていた。
もう、アイハが過去に苦しめられることはないのだから、と。
アイヒがいなくなって、間を置かずしてアイヒがやって来た。
出会った瞬間、リンは悟った。
リンは、アイヒと共に光になるのだろう、と。
アイヒはとても賢く、優しい子だった。
強い能力を持ちながら、それに耐えうる可能性を持った身体を持ち、それでいて心も正常。
だからこそ、アイヒは怯えていた。
心身ともに問題がなく、周囲の状況を的確に判断できるアイヒだからこそ、自身でコントロールしきれない能力の存在に怯えていた。
日増しに強くなるアイヒの能力は、アイヒの意志ではどうにもできないほどに増大し、遂には周囲のものを手当たり次第に破壊するようになってしまった。
その原因が自分にあると、アイヒは理解し、その小さな心では抱えきれない不安や悲しみを背負って、「誰も近づくな」と泣いていた。
本当は、アイヒの方が誰かに泣きついてしまいたいはずなのに、助けてほしいと願っているはずなのに、アイヒはそれをしなかった。
そうすれば、相手がどうなるかアイヒはわかっていた。
だからこそ、リンは逃げるアイヒを捕まえて抱きしめたのだ。
「大丈夫だよ」
その声が、アイヒに届いたかは定かではないけれど、アイヒはリンを最期には抱きしめ返していた。
――僕が一緒にいるからね……。
その言葉は、もう声にはならなかったけれど、きっとアイヒには届いたはずだ。
こうしてリンは、アイヒと共に1度目の光を経験した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
つきが世界を照らすまで
kiri
歴史・時代
――頃は明治 絵描きの話をしよう――
明治二十二年、ひとりの少年が東京美術学校に入学するために上京する。
岡倉天心の「光や空気を描く方法はないか」という問いに答えるために考え描かれていく彼の作品は出品するごとに議論を巻き起こす。
伝統的な絵画の手法から一歩飛び出したような絵画技術は、革新的であるゆえに常に酷評に晒された。
それでも一歩先の表現を追い求め、芸術を突き詰める彼の姿勢は終生変わることがない。
その短い人生ゆえに、成熟することがない「不熟の天才」と呼ばれた彼の歩んだ道は決して楽ではなかっただろう。
その人は名を菱田春草(ひしだしゅんそう)という。
表紙絵はあニキ様に描いていただいたものです。
父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
佐倉 蘭
歴史・時代
★第10回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
ある日、丑丸(うしまる)の父親が流行病でこの世を去った。
貧乏裏店(長屋)暮らしゆえ、家守(大家)のツケでなんとか弔いを終えたと思いきや……
脱藩浪人だった父親が江戸に出てきてから知り合い夫婦(めおと)となった母親が、裏店の連中がなけなしの金を叩いて出し合った線香代(香典)をすべて持って夜逃げした。
齢八つにして丑丸はたった一人、無一文で残された——
※「今宵は遣らずの雨」 「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
うつしよの波 ~波およぎ兼光異伝~
春疾風
歴史・時代
【2018/5/29完結】
これは、少年と共に天下分け目を斬り拓いた刀の物語。
豊臣秀次に愛された刀・波およぎ兼光。
血塗られた運命を経て、刀は秀次を兄と慕う少年・小早川秀秋の元へ。
名だたる数多の名刀と共に紡がれる関ヶ原の戦いが今、始まる。
・pixivにも掲載中です(文体など一部改稿しています)https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9864870
・本作は史実を元にしたフィクションです。IF展開・恋愛描写はありません。
・呼称は分かりやすさ優先で基本的に名前呼びにしています。
・武将の悪役化なし、下げ描写なしを心がけています。当初秀吉が黒い感じですが、第七話でフォローしています。
・波およぎ兼光は秀次→秀吉→秀秋と伝来した説を採用しています。
pixiv版をベースに加筆・修正・挿絵追加した文庫版もあります。
https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=74986705
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる