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03 変わる世界
01 重なるふたり
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アイラは読んでいた絵本から顔を上げた。
その手に抱えられているのは、『守り姫の夢』と題された絵本。
前作『眠りの守り姫』に続く一冊。
「ねえ、リン」
「ん? どうかしたかい?」
読めない文字か、わからない言葉でもあったのかと、リンはアイラを見た。
けれど、アイラから問われた言葉はリンの予想とは大きく違っていた。
「この男の子は、シノ?」
『この男の子』とアイラに示された絵本の中の少年。
その少年はシノのように金色の髪を持っていて、そして絵本の中の少女のもとへ日々通っていた。
日々、少女が目覚める日を待ち焦がれながら、祈り願いながら、少女のもとへ通うその姿は、なるほどたしかに。
その少年は、シノと重なった。
シノも日々、暇さえあればある人のところへ通っていた。
アイラによく似た彼女――否、アイラが彼女に似ているのだ。
アイラは、彼女がもとになっているのだから。
けれど、アイラはそれを知らないはずだ。
絵本の中の少女のような、真っ白な髪を持つ彼女のもとへ、目覚めることのない彼女のもとへ、シノが日々通っていることを知っているはずがなかった。
「……どうしてそう思うの?」
リンの問いにアイラは考えるように視線を下げた。
けれど、答えは出てこなかった。
「……わかんない」
アイラ自身もわかっていなかった。
ただなんとなく、シノとその男の子が重なって思えた。
そんな気がした。
ただそれだけのことだった。
「そうだね」
リンが言った。
その言葉に、アイラはリンを見た。
リンのその瞳は、どこか悲しげで、切なげで、微笑んでいるのに泣いているような、そんな瞳だった。
「リン? 大丈夫……?」
心配そうに問うアイラに、リンは不意をつかれたような気持ちになった。
「え?」
驚くリンに、アイラは言った。
「泣いてるみたいだったから」
リンが、そんな顔をするのを見たことがなかった。
リンはいつだって、疲れた顔も、泣いた顔もみせたことがなかったから。
「ごめん。何でもないんだ」
そう言ったリンは、もういつものリンだった。
いつものアイラたちを優しく見守り、ときには厳しく指導する、手本のような保護者の顔だった。
今の一瞬が、リンが初めてアイラにみせた素の一面だったのかもしれない。
リンは、何を思っているのだろう。
何を知っているのだろう。
それが語られることは、誰かに知られることは、なかった。
その手に抱えられているのは、『守り姫の夢』と題された絵本。
前作『眠りの守り姫』に続く一冊。
「ねえ、リン」
「ん? どうかしたかい?」
読めない文字か、わからない言葉でもあったのかと、リンはアイラを見た。
けれど、アイラから問われた言葉はリンの予想とは大きく違っていた。
「この男の子は、シノ?」
『この男の子』とアイラに示された絵本の中の少年。
その少年はシノのように金色の髪を持っていて、そして絵本の中の少女のもとへ日々通っていた。
日々、少女が目覚める日を待ち焦がれながら、祈り願いながら、少女のもとへ通うその姿は、なるほどたしかに。
その少年は、シノと重なった。
シノも日々、暇さえあればある人のところへ通っていた。
アイラによく似た彼女――否、アイラが彼女に似ているのだ。
アイラは、彼女がもとになっているのだから。
けれど、アイラはそれを知らないはずだ。
絵本の中の少女のような、真っ白な髪を持つ彼女のもとへ、目覚めることのない彼女のもとへ、シノが日々通っていることを知っているはずがなかった。
「……どうしてそう思うの?」
リンの問いにアイラは考えるように視線を下げた。
けれど、答えは出てこなかった。
「……わかんない」
アイラ自身もわかっていなかった。
ただなんとなく、シノとその男の子が重なって思えた。
そんな気がした。
ただそれだけのことだった。
「そうだね」
リンが言った。
その言葉に、アイラはリンを見た。
リンのその瞳は、どこか悲しげで、切なげで、微笑んでいるのに泣いているような、そんな瞳だった。
「リン? 大丈夫……?」
心配そうに問うアイラに、リンは不意をつかれたような気持ちになった。
「え?」
驚くリンに、アイラは言った。
「泣いてるみたいだったから」
リンが、そんな顔をするのを見たことがなかった。
リンはいつだって、疲れた顔も、泣いた顔もみせたことがなかったから。
「ごめん。何でもないんだ」
そう言ったリンは、もういつものリンだった。
いつものアイラたちを優しく見守り、ときには厳しく指導する、手本のような保護者の顔だった。
今の一瞬が、リンが初めてアイラにみせた素の一面だったのかもしれない。
リンは、何を思っているのだろう。
何を知っているのだろう。
それが語られることは、誰かに知られることは、なかった。
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