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02 広がる世界

11 似ているふたり

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 初めて部屋の外に出たアイラには、何もかもが新鮮だった。

 例えば、アイラの部屋を出たそのすぐ先には、もうひとつ部屋があったこと。
 例えばその部屋を出た先は、長い廊下だったこと。

 同じ扉が並ぶだけのただの廊下も、アイラには見たことのない長い廊下でドキドキした。

 歩いたことのない距離を歩いて、乗ったことのないエレベーターに乗ってサイトの部屋まで行った。

 サイトの部屋はアイラの部屋のある階よりも上にあった。

「ここが僕の部屋!」

 慣れた手つきで扉の横のパネルを操作するサイトを、アイラはただ見ていた。

 ――サイトは、開けられるんだ……。

 ほんの少し、寂しく思った。

 アイラの小さな世界では、アイラ以外のみんなが自分で扉を開けることができるのだから。

「入って入って!」

 くいっとアイラの手を引くサイトにつられて中に入ると、そこにはどうしてかシノがいた。

「いらっしゃい、アイラ」

「シノ?」

 眩しいほどの金色の髪。
 真っ白な白衣。
 にこにことした笑顔。

 いつもの見慣れたシノの姿がそこにはあった。

「まだいたんだ」

 サイトは事も無げに言ってのけた。

「もう行くよ。サイト、アイラを困らせないようにね」
「そんなことしないよ」

 どこか気安くシノと話すサイトに、何だか変な感じがした。

「アイラ、ゆっくりして行くといいよ」
「うん?」

 まるで自分の部屋のように言うシノに、首を傾げながらも返事をした。

 そんなアイラの様子にくすりと笑ってシノは言った。

「それじゃあ、行ってくるよ。いい子にしていてね」

「はーい。ねえ、アイラ! 何する?」

 シノとの会話は終わりとばかりにアイラへと話題を振るサイト。

 そんなサイトに気をとられている間に、シノはどこかへ行ってしまっていた。

「トランプもあるし、積み木も、パズルもあるよ。それから、アイラのために新しい塗り絵ももらったんだ! アイラは何がしたい?」

 ぐいぐい、と部屋の奥へとアイラを案内するサイトは、至極楽しそうだった。

 サイトの部屋を見て、アイラの部屋とは違うなとアイラは思った。

 アイラの部屋には、カイトのベッドとレイナのベッドを併せて3つのベッドがあるけれど、サイトの部屋は2つだ。

 おもちゃの棚も、おもちゃも、アイラの部屋には3つずつだけれどサイトの部屋には1つだけ。

「サイトは、シノと一緒なの?」

 アイラが辿り着いた答えはソレだった。

「なあに? アイラは僕と遊ぶより、シノのことが気になるの?」

 むーっと拗ねたように言うサイトに、アイラは慌てた。

「ち、ちがうよ! そうじゃなくて……!」

 そんなアイラの様子に、今度はサイトは笑いだした。
 突然拗ねたり笑ったりするサイトにアイラはきょとんとするけれど、そんなアイラをサイトはぎゅむりと抱きしめた。

「慌てるアイラも、きょとんってするアイラもかわいい!」

ぎゅうと抱きしめてそれが気にいったのか、サイトはアイラを抱きしめたまま話し出した。

「ここはね、シノと一緒の、僕の2つめの部屋なんだ」
 『シノと一緒』とサイトは言ったけれど、アイラはサイトが『2つめ』と言ったことのほうが気になった。

 なぜ2つめなのだろう……?

 けれど、その疑問はサイトがすぐに答えをくれた。

「僕ね、能力が強すぎて、簡単に何でも傷つけて、何でも壊していたから、ちゃんと制御できるようになるまでずっと、ひとりだったんだ」

 強すぎる能力。
 アイラと同じだ。

 アイラも、能力が強いといわれていた。
 制御しきれないほどに。

「アイラに会いたくて、アイラに会うために頑張ったらちゃんと制御できるようになって、シノと同じ部屋になったんだ。だから、ここは2つめの部屋」

 ――アイラが望んでくれたら、アイラと一緒に3つめの部屋に住むことも許されているんだよ?

 その言葉は、言わなかった。
 まだ早いと、踏みとどまった。

 もっとアイラに気を許されて、心からアイラがそれを望むまでは――

「サイト、すごいね! えらいね!」
「え……?」

 アイラのその言葉は、サイトにとっては予想していなかったものだった。

「アイラもね、能力が強いんだよ。でも、サイトみたいにちゃんと制御できなくて、だから、制御できるようになったサイトすごい! すごくえらい!」

「っ……!」

 ぎゅっと、サイトは抱きしめるアイラをもっと強く抱きしめた。

「どうしたの? 泣いてるの? お腹痛い?」

 サイトの顔は隠されて見えなかったけれど、肩が震えていた。

「……嬉しくて。……頑張ってよかった。ありがとう……」

 嬉しくて涙を流したのは初めてだった。

 初めて、サイトの努力が報われた気がした。
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