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02 広がる世界

09 外に踏み出す

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 アイラは混乱していた。

「どうして……?」

 今、リンに言われたことが理解できなかった。
 理解したくなかった。

「部屋を片付けないといけないから、その間、サイトの部屋に行って待っていてほしいんだ」

 リンのその言葉を何度聞いたって、意味が変わることはない。

 リンは、アイラに部屋を出るようにと言っている。
 今までそんなことは1度だってなかったのにだ。

 たしかに、部屋の中は今までにないひどい散らかりようで、ガラス片もあちこちに落ちていて危ないことはアイラにもわかる。

 けれど、だからと言ってどうして外に出ることになるのかわからない。

「アイラは、僕と一緒にいるのはいや? 僕の部屋には来たくない?」

「そ、じゃな……」

 そうじゃない。
 そうじゃないけれど、どう言えばいいかわからなかった。

「でも、でも……」

 ゆるゆると首を振り、動こうとしないアイラの言葉をリンもサイトもゆっくりと待った。

「……待ってないと。アイラは、カイトとレイナを待ってないと。『おかえり』って言うって約束だから」

 アイラは必死で、真剣だった。

 カイトとレイナに『おかえり』と言うために、アイラはこの部屋で待っているのだと、幼い頃からの約束だったから。

「なんだ、そんなことか!」

 サイトは、何でもないことのようにそう言った。

「それなら、2人が帰って来る前に、アイラが帰って来れば問題ないよ! それまでには片付けも終わるでしょう?」

 明るい調子で言うサイトに、リンは少し困ったように頷いた。

「それは、そうだけど……」

「ね! リンが片付けしてる間だけ、僕の部屋においでよ! 終わったら帰って来ればいいんだからさ!」

 サイトは、これですべて解決だと言うようにアイラの手を取った。

 けれど、リンは違った。

「アイラが行きたくないなら、行かなくてもいいよ。アイラなら隅の方で静かにしていられるだろう?」

「えー! そんなのつまらないよ! せっかく迎えに来たのに!」

 行かなくていいと言うリンと、外へ行こうと誘うサイト。

 2人の意見に挟まれて、アイラは――

「……行く」

 アイラの言葉に、サイトは大げさに喜んだ。

「やった!」

 リンは確認するようにアイラに聞く。

「本当にいいのかい?」

「うん。リンの邪魔、したくないから。あとね、カイトとレイナが帰って来る前に帰って来るから」

「そうか。それじゃあ、片付けが終わったら迎えに行くからね」
「いらないよ。僕が送って来る」

 リンの言葉を遮るように、サイトが言った。

「そういうわけにもいかないだろう? 片付けが終わったら連絡を入れるからね。シノとサイトに」

「……わかった」

 けれど、すぐに諦めたのか納得した。

「行こう、アイラ!」

 こうしてアイラは人生で初めて、育った部屋から外の世界へと足を踏み出した。
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