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02 広がる世界
08 視えなくなった人
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扉が開く音がしたのと、サイトの声がしたのはほとんど同時だった。
「アイラ! 迎えに来たよ! 何々? アイラがすごくかわいい顔してる! 何してるの?」
それは本当に瞬きをする間の一瞬の出来事で、扉の前にいたはずのサイトはアイラのすぐ目の前に現れていた。
文字通り、現れていた。
「サイト、アイラが驚いているよ」
リンが言うと、サイトは気が付いたようにほんの少しだけ、アイラから距離をとった。
「ごめんアイラ、びっくりした?」
サイトの言葉に答えることもできずに、アイラはぽかんと目を丸くしていた。
「サイト、今……」
何が起きたのか、わからなかった。
サイトは確かに扉から入って来たはずなのに、扉からアイラのところまで歩く姿をアイラが目にすることなく、サイトはアイラの目の前に現れていた。
「ごめん……」
しょぼん……、とわかりやすくサイトは落ち込んでみせた。
「もう、無暗に瞬間移動したりしないから、きらいにならないで……」
すがるようなサイトの言葉に、アイラは慌てた。
「きらいにならないよ!」
サイトはどうしてか、アイラに嫌われることを恐れているようにみえた。
「よかった! アイラ大好き!」
嫌われていないとわかると、すぐさまアイラに抱きつく。
出会って1日しか経っていないけれど、ことあるごとにサイトはアイラに抱きついてくるのでアイラもすっかり慣れてしまっていた。
「ほらサイト、それくらいにして。アイラの用意ができないよ」
「そっか」
リンの言葉に、今度こそサイトは離れた。
「アイラ、行っておいで」
「うん」
ベッドから降りたアイラは洗面所へと向かった。
部屋の中は散らかり果てていたけれど、アイラが通るところだけは物が除けられてガラス片も落ちてはいなかった。
顔を洗って、着替えて、リンのところに向かう。
そして、気が付いた。
もうひとり、いつもいるはずの――視えるはずの人がいない。
『自分と同じお友達がほしいんじゃないか』
いつかの言葉が頭をよぎった。
アイラと同じ髪と瞳の色を持つその人は、アイラがつくり出した空想上の友達だったのだとすれば、サイトという友達ができたからもう視えなくなったのだろうか。
そんな考えが頭をよぎったけれど、それはないとアイラは考えを改めた。
あの人は存在している。
アイラがつくり出した空想のお友達なんかじゃない。
どうしてか確信があった。
「アイラ、どうしたの?」
アイラの様子にいち早く気が付いたのはサイトだった。
「……なんでもない」
少し考えてから、アイラは答えた。
『いつも視えてた人が視えなくなった』などと言って、信じてもらえるとは思えなった。
小さいころは、よくその人のことを話していたけれど、誰にもみえないその人のことをアイラは次第に話さなくなっていった。
だから、サイトにも話すことはしなかった。
アイラにしか視えないその人のことは、アイラの中にだけあるアイラだけの秘密だ。
「アイラ! 迎えに来たよ! 何々? アイラがすごくかわいい顔してる! 何してるの?」
それは本当に瞬きをする間の一瞬の出来事で、扉の前にいたはずのサイトはアイラのすぐ目の前に現れていた。
文字通り、現れていた。
「サイト、アイラが驚いているよ」
リンが言うと、サイトは気が付いたようにほんの少しだけ、アイラから距離をとった。
「ごめんアイラ、びっくりした?」
サイトの言葉に答えることもできずに、アイラはぽかんと目を丸くしていた。
「サイト、今……」
何が起きたのか、わからなかった。
サイトは確かに扉から入って来たはずなのに、扉からアイラのところまで歩く姿をアイラが目にすることなく、サイトはアイラの目の前に現れていた。
「ごめん……」
しょぼん……、とわかりやすくサイトは落ち込んでみせた。
「もう、無暗に瞬間移動したりしないから、きらいにならないで……」
すがるようなサイトの言葉に、アイラは慌てた。
「きらいにならないよ!」
サイトはどうしてか、アイラに嫌われることを恐れているようにみえた。
「よかった! アイラ大好き!」
嫌われていないとわかると、すぐさまアイラに抱きつく。
出会って1日しか経っていないけれど、ことあるごとにサイトはアイラに抱きついてくるのでアイラもすっかり慣れてしまっていた。
「ほらサイト、それくらいにして。アイラの用意ができないよ」
「そっか」
リンの言葉に、今度こそサイトは離れた。
「アイラ、行っておいで」
「うん」
ベッドから降りたアイラは洗面所へと向かった。
部屋の中は散らかり果てていたけれど、アイラが通るところだけは物が除けられてガラス片も落ちてはいなかった。
顔を洗って、着替えて、リンのところに向かう。
そして、気が付いた。
もうひとり、いつもいるはずの――視えるはずの人がいない。
『自分と同じお友達がほしいんじゃないか』
いつかの言葉が頭をよぎった。
アイラと同じ髪と瞳の色を持つその人は、アイラがつくり出した空想上の友達だったのだとすれば、サイトという友達ができたからもう視えなくなったのだろうか。
そんな考えが頭をよぎったけれど、それはないとアイラは考えを改めた。
あの人は存在している。
アイラがつくり出した空想のお友達なんかじゃない。
どうしてか確信があった。
「アイラ、どうしたの?」
アイラの様子にいち早く気が付いたのはサイトだった。
「……なんでもない」
少し考えてから、アイラは答えた。
『いつも視えてた人が視えなくなった』などと言って、信じてもらえるとは思えなった。
小さいころは、よくその人のことを話していたけれど、誰にもみえないその人のことをアイラは次第に話さなくなっていった。
だから、サイトにも話すことはしなかった。
アイラにしか視えないその人のことは、アイラの中にだけあるアイラだけの秘密だ。
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