【完結】EACH-アイラが愛した世界-

桐生千種

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01 小さな世界

16 サイト(04)

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 カイトが教育プログラムを受けるようになったのは、6歳のとき。
 サイトが教育プログラムを受けるようになったのは、10歳になってから。

 どちらかと言えば遅い方で、奇しくもレイナと同時期となった。

 かつて自分が消そうとした存在は、弊害なく生き延びていた。
 カイトや、友人に囲まれていた。

 ――あのときは、悪かった……。

 そんな感情をレイナに伝えるすべを、サイトは持ち合わせていない。

 ただ、レイナが無事にすごしているならそれでよかった。

 アイラが大切にしている存在ならば、サイトも大切にしてあげよう。

 そんな気持ちだった。

 けれど、そんな気持ちは誰にも知られることはなかった。

*****

 その日の講義が終われば、サイトは一目散に何をおいても帰宅する。

「シノっ! 今日はアイラに会ったんでしょう? 早くっ! 早く見せてっ!」

 サイトは帰って早々にシノに強請る。

 サイトが初めてアイラの姿をモニター越しに目にした日、コンピューター壊した日、勝手に部屋を抜け出して、レイナを殺めに行った日、その日から再び同じ設備を用意してもらえることはなかった。

 代わりに、定期的にシノがアイラの様子を見に行った日、その瞳に仕込まれたコンタクトレンズでアイラの姿を撮影したものをサイトは見せてもらっていた。

 そしてその映像は、ある意味特別な映像だった。

[シノ!]

 そう言って、目を見開くアイラと目が合う。

[どうしたの? 遊びに来たの?]

 アイラは画面の向こうから目を逸らすことなくサイトを見ている。

 正確にはシノを見ているだけなのだけれど、記録を録っているカメラがシノのコンタクトレンズであるが故に、アイラの表情を真正面から見ることができて、一方的にではあるけれど目を合わせることができる。

 シノは偶然なのか、意図的なのか、ほぼずっとアイラを捉え続けていた。

 画面の中で、正面に座るアイラとトランプを広げて、一緒に遊べている気になれた。

「アイラはまだ、視えないんだね」

 画面の中で、真剣な表情でシノの持つカードを選ぶアイラの姿にサイトの頬は緩んだ。

「そんな顔もかわいい」

 答えなんて返ってこないことはわかっているけれど、ついつい口をついて出てしまう。
 かわいい。かわいい。かわいい。

 早く会いたい。

「僕、頑張るよ」

 教育プログラムをシノに指定された科目をすべてクリアして卒業したら、アイラに会える。

 それがシノと交わされた約束だった。

[バイバイ! シノ!]

 画面の中のアイラが、手を振る。

「もう終わっちゃった……」

 新しいアイラの映像が途切れると、サイトは今度は古い映像を流しはじめた。

[シノ!]

 画面の中で、再びアイラが映し出されて、過去の映像が流れ始める。
 最新の映像よりも幼い姿のアイラも、サイトは何度も見返していたせいで見慣れた姿だった。

「小さいアイラもかわいい」

 そうしてアイラの映像を見て、会えない寂しさや空しさを紛らわせるのが、サイトの日課になていた。
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