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01 小さな世界
15 サイト(03)
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その日、サイトはようやくアイラの姿をカイトの意識を通してではなく、自分の目で見るチャンスを得ることができた。
とは言っても、直接会えるわけではなく、モニターを通しての映像でしか許してはもらえなかったけど、それでもカイトとは違う視点から、カイトの知らないアイラを見ることができるのはこの上なく幸福なことだった。
「早くっ、早くっ」
モニターの調整をしているシノを、サイトは急かす。
サイトの腕には、いつかシノから貰ったウサギのぬいぐるみが抱えられていた。
『アイラとお揃いのぬいぐるみ』は、これまでのぬいぐるみと違って引き裂かれることはなかった。
[カイトが教えてくれたの!]
スピーカーから聞こえて来た声に、サイトはすぐに耳を傾けた。
アイラの声だと、すぐに気付くことができた。
続けて映し出された映像に、釘付けになる。
アイラの部屋に設置されているカメラの映像が、サイトの部屋のモニターへと送られてくる。
1番、2番、3番、4番、5番……いくつも設置されたカメラからいくつも設置されたモニターへ、さまざまな角度からのアイラが映し出される。
アイラの周囲には、アイラ以外の人物――カイトやリンが映るけれど、サイトはアイラに夢中だった。
周りが見えなくなるくらいに。
シノがどこかへ席を外したことに気付かないくらいに。
モニターの中でアイラが動く。
真っ白な髪がさらさらと揺れる。
真っ赤な瞳がきらきらしている。
弾むような声が心地好くて、ずっと聞いていたいと思った。
けれど――
[今度はアイラがレイナに教えてあげるの!]
その言葉を聞いた途端、サイトの心臓はツンと冷えていくのを感じた。
「……誰」
ぼぞりと呟いた、その言葉にアイラが答えてくれるはずもなく、シノも今はいない。
[早く会いたいなあ……。いつになったらレイナに会える?]
――――っ!
音もなく、モニターから映像が消えた。
音もなく、コンピューターが破壊された。
もう、ソレがアイラの映像を映し出してくれることはないと簡単に想像することができた。
「……」
静まり返った部屋で、サイトはひとり憤りを感じていた。
――どうして……。
――僕は、アイラに存在すら認識されていない。
――僕は、生まれることさえも否定されていたのに。
――僕はこんなにもアイラに会いたいと願っているのに。
――どうして僕じゃない、他の誰かがアイラに望まれて会うことが許されているのか。
――ぽっと出のちっぽけなソイツ。
「許せない……」
サイトはそっと、抱えていたぬいぐるみを手放した。
これから自分がしようとしていることを、ぬいぐるみとはいえアイラとお揃いのものに知られたくなかった。
どこに行けばいいかは知っていた。
部屋を抜け出す方法も、レイナがいるであろう場所にも見当がついていた。
だからサイトは、こっそりと抜け出した。
レイナという存在を、アイラに会う資格を無条件に与えられたソイツを消してしまうために――
とは言っても、直接会えるわけではなく、モニターを通しての映像でしか許してはもらえなかったけど、それでもカイトとは違う視点から、カイトの知らないアイラを見ることができるのはこの上なく幸福なことだった。
「早くっ、早くっ」
モニターの調整をしているシノを、サイトは急かす。
サイトの腕には、いつかシノから貰ったウサギのぬいぐるみが抱えられていた。
『アイラとお揃いのぬいぐるみ』は、これまでのぬいぐるみと違って引き裂かれることはなかった。
[カイトが教えてくれたの!]
スピーカーから聞こえて来た声に、サイトはすぐに耳を傾けた。
アイラの声だと、すぐに気付くことができた。
続けて映し出された映像に、釘付けになる。
アイラの部屋に設置されているカメラの映像が、サイトの部屋のモニターへと送られてくる。
1番、2番、3番、4番、5番……いくつも設置されたカメラからいくつも設置されたモニターへ、さまざまな角度からのアイラが映し出される。
アイラの周囲には、アイラ以外の人物――カイトやリンが映るけれど、サイトはアイラに夢中だった。
周りが見えなくなるくらいに。
シノがどこかへ席を外したことに気付かないくらいに。
モニターの中でアイラが動く。
真っ白な髪がさらさらと揺れる。
真っ赤な瞳がきらきらしている。
弾むような声が心地好くて、ずっと聞いていたいと思った。
けれど――
[今度はアイラがレイナに教えてあげるの!]
その言葉を聞いた途端、サイトの心臓はツンと冷えていくのを感じた。
「……誰」
ぼぞりと呟いた、その言葉にアイラが答えてくれるはずもなく、シノも今はいない。
[早く会いたいなあ……。いつになったらレイナに会える?]
――――っ!
音もなく、モニターから映像が消えた。
音もなく、コンピューターが破壊された。
もう、ソレがアイラの映像を映し出してくれることはないと簡単に想像することができた。
「……」
静まり返った部屋で、サイトはひとり憤りを感じていた。
――どうして……。
――僕は、アイラに存在すら認識されていない。
――僕は、生まれることさえも否定されていたのに。
――僕はこんなにもアイラに会いたいと願っているのに。
――どうして僕じゃない、他の誰かがアイラに望まれて会うことが許されているのか。
――ぽっと出のちっぽけなソイツ。
「許せない……」
サイトはそっと、抱えていたぬいぐるみを手放した。
これから自分がしようとしていることを、ぬいぐるみとはいえアイラとお揃いのものに知られたくなかった。
どこに行けばいいかは知っていた。
部屋を抜け出す方法も、レイナがいるであろう場所にも見当がついていた。
だからサイトは、こっそりと抜け出した。
レイナという存在を、アイラに会う資格を無条件に与えられたソイツを消してしまうために――
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