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01 小さな世界
13 サイト(01)
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少年――サイトはいつも苛立っていた。
真っ黒な髪から覗くその瞳はいつも煌々と赤く輝いていた。
――どうして僕が、僕だけが……。
そんな感情を抱えてひとり、その苛立ちを向ける矛先は意図せず離れ離れになった片割れ。
初めは1人だった。
1人として生まれるはずだった。
それが、まだ胚と呼ばれる、人の形をなす前に1人だったものは2人へと別れた。
別れさせられた。
その力は、明らかにサイトの存在を否定し生まれることを許そうとしなかった。
2人に別れ、片割れはサイトから逃げた。
取り戻すことはできなかった。
カイト――片割れがそう呼ばれていることをサイトは知っている。
カイトが、アイラと共に普通の生活を送っていることも知っている。
もとは1つだったものが、無意識に伝えて来る2人だけの繋がり。
サイトには、手に入らない生活。
サイトに持たされた強い能力は、すべてサイトに残っていた。
カイトが持っていったものといえば、その頭脳くらい。
強すぎるくらいの能力は、半分になってしまったサイトの身体に容赦なく負担を強いていた。
――僕がこんなに苦しいのは、全部アイツのせい……っ!!
カイトがカイトにならなければ。
そうすれば、この大きな能力も負担なく制御できたと思うのに。
「また、癇癪を起しているね」
シノが言った。
サイトの能力は強すぎる。
制御も上手くできない、破壊衝動に駆られやすいサイトは、シノ以外の人間と直接会ったことがなかった。
「それでサイトの気が済むのなら、いくらでも壊せばいいよ」
もうすでに、サイトの周りには壊れたおもちゃが散乱していた。
破られた本。
砕けた積み木。
引き裂かれたぬいぐるみ。
シノが何を与えても、サイトはすぐに壊してしまう。
けれど、シノがそれについてサイトを叱ることはなかった。
サイトには、必要なことだったから。
その能力をもってサイト自身の身体を傷つけないためには、必要なことだった。
「でも、いつまでもそれが続くならアイラには会わせてあげられない」
パリンッ! と音を立てて、天井の明かりが破壊された。
ガラス片が降り注ぎ、シノの身体に触れる直前――
吹くはずのない風が、降り注ぐガラス片をさらっていった。
シノの身体にもサイトの身体にも傷ひとつつけることなく、ガラス片は少し離れた床の上へと固まって置かれていた。
「……よくできました」
そう告げたシノは、サイトへと手を差し出す。
その手にあるのは、真っ白なウサギのぬいぐるみ。
「アイラが持っているのと同じウサギだよ」
その言葉を聞いた途端、サイトの手は勢いよくシノの手からウサギをさらっていった。
「今度は大事にできるといいね」
シノの言葉が届いているのか、いないのか。
サイトはただ、ぎゅっとウサギを抱きしめた。
――アイラと一緒……。
サイトの心はウサギ――アイラが持つものと同じものを持てているということに夢中だった。
カイトの意識の中でしか知らないアイラに、サイトはどうしようもなく恋焦がれていた。
真っ黒な髪から覗くその瞳はいつも煌々と赤く輝いていた。
――どうして僕が、僕だけが……。
そんな感情を抱えてひとり、その苛立ちを向ける矛先は意図せず離れ離れになった片割れ。
初めは1人だった。
1人として生まれるはずだった。
それが、まだ胚と呼ばれる、人の形をなす前に1人だったものは2人へと別れた。
別れさせられた。
その力は、明らかにサイトの存在を否定し生まれることを許そうとしなかった。
2人に別れ、片割れはサイトから逃げた。
取り戻すことはできなかった。
カイト――片割れがそう呼ばれていることをサイトは知っている。
カイトが、アイラと共に普通の生活を送っていることも知っている。
もとは1つだったものが、無意識に伝えて来る2人だけの繋がり。
サイトには、手に入らない生活。
サイトに持たされた強い能力は、すべてサイトに残っていた。
カイトが持っていったものといえば、その頭脳くらい。
強すぎるくらいの能力は、半分になってしまったサイトの身体に容赦なく負担を強いていた。
――僕がこんなに苦しいのは、全部アイツのせい……っ!!
カイトがカイトにならなければ。
そうすれば、この大きな能力も負担なく制御できたと思うのに。
「また、癇癪を起しているね」
シノが言った。
サイトの能力は強すぎる。
制御も上手くできない、破壊衝動に駆られやすいサイトは、シノ以外の人間と直接会ったことがなかった。
「それでサイトの気が済むのなら、いくらでも壊せばいいよ」
もうすでに、サイトの周りには壊れたおもちゃが散乱していた。
破られた本。
砕けた積み木。
引き裂かれたぬいぐるみ。
シノが何を与えても、サイトはすぐに壊してしまう。
けれど、シノがそれについてサイトを叱ることはなかった。
サイトには、必要なことだったから。
その能力をもってサイト自身の身体を傷つけないためには、必要なことだった。
「でも、いつまでもそれが続くならアイラには会わせてあげられない」
パリンッ! と音を立てて、天井の明かりが破壊された。
ガラス片が降り注ぎ、シノの身体に触れる直前――
吹くはずのない風が、降り注ぐガラス片をさらっていった。
シノの身体にもサイトの身体にも傷ひとつつけることなく、ガラス片は少し離れた床の上へと固まって置かれていた。
「……よくできました」
そう告げたシノは、サイトへと手を差し出す。
その手にあるのは、真っ白なウサギのぬいぐるみ。
「アイラが持っているのと同じウサギだよ」
その言葉を聞いた途端、サイトの手は勢いよくシノの手からウサギをさらっていった。
「今度は大事にできるといいね」
シノの言葉が届いているのか、いないのか。
サイトはただ、ぎゅっとウサギを抱きしめた。
――アイラと一緒……。
サイトの心はウサギ――アイラが持つものと同じものを持てているということに夢中だった。
カイトの意識の中でしか知らないアイラに、サイトはどうしようもなく恋焦がれていた。
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