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01 小さな世界

11 レイナ(03)

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 月日が経って、レイナの睡眠時間がアイラよりも短くなってもレイナにはどうしても慣れないことがあった。

 真っ黒な髪。
 真っ黒な瞳。

 瞳の色こそ違えど、どうしてもカイトの姿を同じ姿、同じ顔をしたその人と重ねてビクリと肩を揺らしては固まってしまう。

「……そろそろ慣れてよ」

 カイトはその度にそう言葉にして、自分がカイトであることを示す。

 レイナ自身、わかってはいる。

 カイトと、レイナの存在を強く否定したその人とは、全く違う別の人間であることくらい、わかってはいる。

 けれどその人と同じ顔を持つカイトを見ると、反射的にレイナの身体は固まってしまう。

「ほら、赤がほしかったんでしょ?」

 カイトはめげずに赤色の色鉛筆をレイナに差し出した。

 傷ついていないと言えば嘘になるけれど、レイナが受けた仕打ちを思えば仕方のないことだと思えた。

 アイラの目が覚めるまでの間、カイトはレイナと時間を潰している。

 アイラが眠っているので、起こさないように静かな遊びを。

 その日は絵を描いていて、レイナが何色かを探し視線を彷徨わせていたところで、カイトがレイナの視界に入った。

 カイトから差し出された赤色の色鉛筆をレイナは見つめて、恐る恐る手を伸ばす。

「……」

 緊張で張り詰める空気の中、やっとの思いで受け取ったレイナの瞳は赤みがかっていた。

「痛くない……?」

「……?」

 突然のカイトの問に、レイナは意味がわからず答えることができなかった。

「目」

 わかりやすいように、カイトは自分の目を指さす。

 ふるふると、レイナは首を横に振った。

「そう……。ならいい」

 カイトは、用は済んだと言わんばかりに、口を閉ざしていまったけれど、レイナの方はじっとカイトを見つめていた。

 その瞳は、レイナが落ち着いてくるのに併せて茶色へと変化する。

「……何?」

 珍しく自分を見ているレイナにそう聞けば、レイナはぽそりと言葉を紡いだ。

「……痛い?」

 言葉は少なかったけれど、カイトには理解できた。

 「カイトは痛いのか?」と、そうレイナは聞いている。

 ふっと、カイトは笑みをこぼした。

「痛くない」

 そう答えて、ほんの少し嬉しいと感じた。

 レイナは、カイトのことを心配してくれるくらいには心を開いてくれているのかもしれないと。

 身体が固まってしまうのは仕方がないことだと、些細なことのように思えた。

 けれど、レイナが「痛くないのか?」とそう聞いた本当の理由にまでは気付くことがなかった。

 カイトも、レイナと同じ、色が変化する瞳の持ち主だった――
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