【完結】EACH-アイラが愛した世界-

00 プロローグ

01 プロローグ

　アイラの世界はとっても小さい。
　アイラがアイラとして生き始めて、知っている場所はたったの1つ。
　アイラが生活する真っ白な部屋の中だけ。

　アイラが知っている人は、全部で6人。


　アイラがアイラとして生き始めて、たくさんのことを教えてくれたリン。

　初めて、自分と自分以外の存在について認識した。
　初めて、話しかけ、笑いかけ、触れ合ってくれた。

　言葉を教えてくれて、読み書きを教えてくれて、遊び相手にもなってくれた。


　小さい頃はいつも一緒にいてくれたカイト。
　いつの頃からか、アイラをおいて部屋を出るようになってしまったけれど、いつだって必ず帰って来てくれた。

　「いってきます」と言うから「いってらっしゃい」と見送ってほしい。
　「ただいま」と言うから「おかえり」と迎えてほしい。

　カイトの帰る場所はアイラがいる場所だから、と。


　レイナはアイラが初めて触れ合った女の子。
　小さい頃はいつもアイラの傍に寄り添ってくれていた。

　レイナも、カイトと同じように部屋を出るようになってしまったけれど、レイナもいつも必ず帰って来てくれた。

　いつも寄り添って、味方でいてくれる。

　どうしてかアイラのことなら何でもわかってくれる。


　サイトは、アイラに初めてできたお友達。

　「アイラと友達になりたい」と言ってくれた。
　たくさんの「好き」と「愛してる」をくれた。

　サイトと同じだけの「好き」と「愛してる」を返すことはできなったけれど、それでもいいと言ってくれた。
 
　外の世界を知らないアイラに、「いつか一緒に外に行こう」と言ってくれた。
　

　シノは、たまに会いに来るといつもニコニコして遊び相手にもなってくれた。


　そして、アイ。

　小さい頃からずっとアイラたちをみていた。

　どうしてか、触れることができなくて、アイラ以外の誰にもみることができなくて、初めは誰も信じてはくれなかったけれど。

　やっと、みんなにみられるようになったんだね。

　触れるように、話せるようになったんだね。


　どうしてみんな、変な顔をしているの？

　身体から、力が抜けていく。
　この感覚を、アイラは知っている。

　何度も繰り返し夢にみた。

　意識が身体を抜け出していく感覚。
　遠く遠く、空へ向かっていくような感覚。
　深く深く、沈んでいくような感覚。

　死の感覚。

　悲しくはない。
　寂しくもない。

　最期にみんなが、アイラの世界のすべてが傍にいてくれているから。

　アイラは今、すごく幸せな気持ちでいられているよ。

　だから、笑ってよ、泣かないで？

　最期にみる、大好きな人の顔は、笑っている顔がいいから。

　だから、ほら。

「わら、って……？」

　アイラの大切な人たち――