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幼等部
年少さん
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93年4月15日木曜日。天気は晴れ。
今日は入園式。ようやく小春が入園してくる。小春と出会ったあの日から、僕の頭からは小春のことが離れない。
始業式の日、入園式もまだだと言うのに僕は小春の姿を探していた。いるはずがないのに。そのことに気がついてガックリとうなだれたのは3日前。
でも今日は、今日こそは、小春が入園してくる。頭の中に刻み付けた小春じゃなくて、本物の小春に会うことができる。
体育館にイスを並べて座る。何度も練習した。小春の前で恥はかきたくない。歌だって、誰よりも上手に歌いたい。
入園式が始まって、先生のうしろについて、入場して来た小春をひと目で見つけることができた。
僕の目は、小春ばかりを追いかける。かわいい、かわいい、かわいい、かわいい。この場にいる誰よりも、小春が1番かわいい。
あの日とは違う、僕と同じ桜月学園の制服を着た小春。歩くたびにぴょこぴょこと揺れる髪の毛。どこをとっても小春は僕を完璧に魅了した。
入場が終って、イスに座ってしまった小春。他の子に埋もれて、小春の姿を見ることができなくなっても、僕は小春がいるであろう場所を見つめる。
年中組と年長組からの歌のプレゼント。このときは、僕たちがイスから立って歌う。だから、小春が見れる。
――僕を見つけてくれないかな……。
そんな期待を抱いて、僕は小春のために歌った。
入園式が終って、小春は体育館から退場して教室に向かう。
僕たちも教室に行って、帰りの仕度。
少し早く終わってくれれば、小春に会えるかもしれない。そんな希望を抱いて、先生のお話が早く終わってくれるように祈った。
先生のお話が終ってすぐ、僕は教室を出た。そこはすでに、みんなのお父さんやお母さんがいて、それでも僕は小春の姿を探した。
僕が1番に「小春」って呼びたい。
僕が1番に「おめでとう」って言いたい。
誰かに先を越される前に、小春の1番になりたい。
そうして、僕は見つけた。
たくさんの大人たちがいても、小さな子がたくさんいても、僕は小春を見つけられた。
「小春」
呼びかけて、振り向いた小春はどうしてかお母さんのうしろに隠れてしまった。
「この前小春を助けてくれた子? あのときはありがとう」
お母さんは、僕のことを覚えていた。
「ほら小春、この間のお兄ちゃんにありがとうは?」
訝し気に僕を見る、そんな小春もかわいいと思ってしまった。
「……お兄ちゃんじゃないもん。お姉ちゃんだったもん」
……小春は、僕の顔を覚えていなかった。それどころか、あの日の僕を女の子だと思っていた。
たしかに、髪が伸びて女の子みたいだと言われて、始業式の前の日に髪を切った。
だけど、それにしても僕の顔を見ても同じ人だと思わないなんて……ひどすぎる。
今日は入園式。ようやく小春が入園してくる。小春と出会ったあの日から、僕の頭からは小春のことが離れない。
始業式の日、入園式もまだだと言うのに僕は小春の姿を探していた。いるはずがないのに。そのことに気がついてガックリとうなだれたのは3日前。
でも今日は、今日こそは、小春が入園してくる。頭の中に刻み付けた小春じゃなくて、本物の小春に会うことができる。
体育館にイスを並べて座る。何度も練習した。小春の前で恥はかきたくない。歌だって、誰よりも上手に歌いたい。
入園式が始まって、先生のうしろについて、入場して来た小春をひと目で見つけることができた。
僕の目は、小春ばかりを追いかける。かわいい、かわいい、かわいい、かわいい。この場にいる誰よりも、小春が1番かわいい。
あの日とは違う、僕と同じ桜月学園の制服を着た小春。歩くたびにぴょこぴょこと揺れる髪の毛。どこをとっても小春は僕を完璧に魅了した。
入場が終って、イスに座ってしまった小春。他の子に埋もれて、小春の姿を見ることができなくなっても、僕は小春がいるであろう場所を見つめる。
年中組と年長組からの歌のプレゼント。このときは、僕たちがイスから立って歌う。だから、小春が見れる。
――僕を見つけてくれないかな……。
そんな期待を抱いて、僕は小春のために歌った。
入園式が終って、小春は体育館から退場して教室に向かう。
僕たちも教室に行って、帰りの仕度。
少し早く終わってくれれば、小春に会えるかもしれない。そんな希望を抱いて、先生のお話が早く終わってくれるように祈った。
先生のお話が終ってすぐ、僕は教室を出た。そこはすでに、みんなのお父さんやお母さんがいて、それでも僕は小春の姿を探した。
僕が1番に「小春」って呼びたい。
僕が1番に「おめでとう」って言いたい。
誰かに先を越される前に、小春の1番になりたい。
そうして、僕は見つけた。
たくさんの大人たちがいても、小さな子がたくさんいても、僕は小春を見つけられた。
「小春」
呼びかけて、振り向いた小春はどうしてかお母さんのうしろに隠れてしまった。
「この前小春を助けてくれた子? あのときはありがとう」
お母さんは、僕のことを覚えていた。
「ほら小春、この間のお兄ちゃんにありがとうは?」
訝し気に僕を見る、そんな小春もかわいいと思ってしまった。
「……お兄ちゃんじゃないもん。お姉ちゃんだったもん」
……小春は、僕の顔を覚えていなかった。それどころか、あの日の僕を女の子だと思っていた。
たしかに、髪が伸びて女の子みたいだと言われて、始業式の前の日に髪を切った。
だけど、それにしても僕の顔を見ても同じ人だと思わないなんて……ひどすぎる。
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