【完結】EACH-愛を胸に眠る-

桐生千種

文字の大きさ
上 下
8 / 15
05 気がつけば ひとり

01

しおりを挟む
 美咲と出会って、2年が経とうとしていた。
 美咲は、出会った頃と変わらずに私とずっと一緒にいてくれている。

「みさき」

「なあに?」

 声をかければ、いつだって美咲は答えてくれた。

「どうして、あいなの?」
「んー?」
「みんな、えーあいっていうの。みさきがあいっていうの。どうして?」

 ずっと疑問だった。
 大人たちはみんな私をAIと呼んだ。
 AIが私を示す言葉なのだと思っていた。

 けれど美咲は出会ったそのときから、私をアイと呼んでいたから。

「AIなんて、人間の名前じゃないもの。アイはモルモットじゃないんだから」

 そこで言葉を切った美咲は、けれどすぐに言葉を続けた。

「アイって呼ばれるの、嫌だった……?」

 戸惑いがちに言う美咲に、まさか、と思った。

 2年も一緒にいて、今更。

 もしも、嫌、なんて思っていたとしたら、とっくに主張している。

 その呼び方は嫌だ、って。

「あい、すき。あいがいい」

 冷たい音のAIよりも、美咲が呼んでくれるアイの方が、ずっとあたたかくて嬉しい。

「良かった!」

 ニコリと美咲が笑う。
 美咲が笑うと、私も嬉しい。

「そうだ、明日はアイの誕生日だから、今年も2人でお祝いしようね!」

「うん」

 誕生日は、家族でケーキを食べて、プレゼントを用意して、みんなでお祝いする日。

 美咲が教えてくれた。

 本物のケーキも、プレゼントもないけど、ケーキの絵とプレゼントの絵で、お祝いする。

 家族はいないけど。
 美咲がいてくれる。
 美咲が喜んでくれる。

 それだけで、私は嬉しいから。

「おやすみ、アイ」

「おやすみ、みさき」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...