【完結】龍の姫君-序-

桐生千種

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第4話 従者と姫君

本当の気持ち

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 キバも、泣いていた。

 心の中で。

 けれど、涙を見せるわけにはいかなかった。

 早く、この場を立ち去りたかった。

「待って」

 それを止めたのは、紫季。

 紫季の声が風に乗る。

 立ち止まったキバは、けれど振り返ることはしない。

「ルリ」

 屈み込み、龍麗を覗き込むように見上げた紫季は告げる。

「ルリは、どうしたい?」

 その問の意味を、理解するのには時間を要した。

「せっかく、できた友達。このまま、離れも、いい? 初めての恋も、恋心は、大事な気持ち」

 紫季の言葉に、キバは驚きを隠せない。

 まるで、野良の自分と仲良くすることを咎めていない。

 むしろ、勧めているようにさえ聞こえる。

「でも、龍雅が……」

 龍雅がそれを許さない。

 恐ろしいほどに龍麗は知ってしまった。

「龍雅は、関係、ない」

 紫季は、何の迷いも見せず言う。

「俺が仕えているのは、ルリ。龍雅じゃない」

 その言葉に込められた、紫季の強い意志を龍麗は感じ取った。

「俺の主は、次期当主のルリ。だから、ルリが望むなら、応援、する。ルリの、本当の気持ち、教えて?」

「……わたし」

 ポタリ、ポタリ、零れ落ちた涙が地面へと吸い込まれていく。

「わたし……」

 1度零れ始めた龍麗の涙は、止まることを忘れる。

「キバと、ともだちでいたい……」

「うん」

「もっといっぱい、おしゃべりしたい……」

「うん」

 溢れ出した感情は、もう止められない。

「もっと、いっぱい、いっしょにいたいっ」

「うん」

「私っ、キバが好きっ。離れるの、やだあ!」

 大声をあげて、小さな子供のように泣き出した龍麗を、紫季は自身の着物が濡れるのも構わず抱き締めた。

 周囲の学徒たちが、何ごとかと注目する中、気にも留めずにに龍麗の背中を優しく叩く。

「よしよし。よく、言えました」

 その腕の中で龍麗を宥めながら紫季は、今度はキバに向かって声をかける。

「そういうわけ、だから、まだルリと、友達でいて」

「いや、でも……」

 チラリ、とキバは紫季以外の面々を見る。

 これは家の問題で、一族の内の1人が「許す」と言ったところで龍麗の一族の人間は他にもいる。

 告げ口などされたものならば、今度こそ本当に、文字通り2度と会うことも、その姿を見ることも叶わなくなる可能性だってある。

 自主退学を強いられる可能性もゼロではない。

 あんなに学舎というものに目を輝かせていた龍麗を、そんな目に合わせたくはなかった。

 キバの口から、「友達だ」と宣言することはできなかった。
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