【完結】龍の姫君-序-

桐生千種

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第4話 従者と姫君

従者の後悔

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 3日。

 龍麗が、龍雅の私室から出て来なくなって3日。

 正確には、龍雅が龍麗を私室に閉じ込めて3日。

 屋敷は静まり返っていた。

 龍麗の姿がないだけで、空気は重く沈んでいるようだった。

 龍麗の声が聞こえないだけで、世界から音が失われたようだった。

 従者たちはそれぞれに、今回のできごとを受け止めていた。

 中でも、1番に自分を責めていたのが音葉だった。

「音葉」

 かけられた声に、音葉が顔をあげる。

「沙花……」

 沙花の様子は、普段と変わらないように見えた。

 もっと自分のことを責めてもいいはずなのに、と音葉は苦しみを覚えた。

 この事態を招いたのは、自分の責任であるのだから、と。

「後悔、してる……?」

 その問は、音葉が龍麗を1人で中庭に行かせたことについて、か。

 キバと2人きりで会うように、取り計らうことになったことについて、か。

 どちらにせよ、音葉は安心した。

 自分は責められる立場にあると。

 罰を受け、許しを請うことができるのだと。

「俺が、行かせなければ、こうはならなかったんだ……」

 音葉が龍麗を1人にしなければ、龍麗がキバと会うことはなかった。

 音葉が龍麗を送り出したりしなければ、龍雅が嫉妬することもなかった。

 それはきっと、そうなのだろう。

 けれど、沙花の見解は違っていた。

「音葉は、間違ってない」

 沙花のその言葉を、音葉は受け入れることができなかった。

「そんなわけないだろ。俺は、ルリの傍を離れるべきじゃなかった」

 そう言う音葉に、沙花は首を振った。

「それは、違う。私たちは、ルリの自由を縛る存在じゃ、ない。ルリは、友達を望んだ。それなら、その願いを叶えようとした、音葉の判断は正しい。私たちは、友達には、なれないから」

 友達にはなれない。

 それは、龍麗がどんなに望んだとしても、叶えることのできない願いだった。

「私の主は、ルリ。だから、ルリが望むことは、叶えたい。友達ができたって、ルリ、とても嬉しそうだった」

 たしかに、龍麗は嬉しそうで、だから音葉も送り出したんだ。

 龍麗の笑顔を、壊したくなかった。

「そうだな……。俺、きっと、また同じことがあったら、同じことするな……。ルリ、ずっと友達欲しがってたし……」

「それで、いい。私たちの主は、ルリ、だから。ルリが1番、幸せでいられる選択を、する」

「ああ」

 心に決めた。

 従者としての、あるべき姿を想い描いて音葉は龍麗を待つことにした。
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