【完結】龍の姫君-序-

桐生千種

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第1話 箱入りの姫君

従者たちの隠しごと

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 優雅が部屋を出てほどなく、龍麗に声をかける者が現れた。

「ルリ!」

 その声は、扉の方ではなく窓の外から聞こえた。

 見れば窓の外には優雅とはまた別の少年――音葉(おとは)が立っていた。

「音葉っ!!」

 「お菓子」という単語を耳にしたときよりも、龍麗の瞳は一層の輝きを見せる。

 黄色く変色する龍麗の瞳だけれど、音葉がそれを気に留める様子はない。

「悪い、遅くなって。今日、補習になっちまって」

「ほしゅう?」

 音葉の言葉に、龍麗は首を傾げた。

「あ、いや、学舎でちょっと」

 慌てて取り繕おうとするも、墓穴を掘ってしまう音葉に、龍麗はますます疑問を投げかける。

「がくしゃ? 何、それ?」

 聞いてくる、真っ直ぐに見つめてくる龍麗の瞳に、音葉はたじろぐ。

「えっ、と……」

「音葉……、私に隠しごと、してるの……?」

 哀し気に揺れる龍麗の瞳からは、先ほどまでの輝きが失われ、黄色かったそれも、今では青色へと変わろうとしている。

「……みんなもう集まってるから! ルリも早く来いよな!!」

 龍麗からの視線を振り解くように、逃げるように、音葉は言い放ち駆けだした。

*****

「バカ音葉!」

 少女――凜音(りんね)の声が響く。

 緑が生い茂る中庭。
 そこが彼らの、いつも集まる場所。

「凜音……。凜音も私に隠しごと……?」

 龍麗の瞳は不安気に揺れる。

「ルリ」

 青年――紫季(しき)が呼びかける。

「俺が、教えて、あげる……」

「紫季!?」

 紫季の言葉に、異を唱えるのは凜音。

「凜音、私も、隠しごとはよくないと思う」

 少女――沙花(さか)が言う。

「沙花まで……。そんなこと言って、どうなるかなんて目に見えてるじゃない。許されると思う?」

「その考え自体、古い。本家筋でも、今は、学舎に通う」

「そうだけど……」

 そうして、凜音が折れた。

 龍麗の従者たちの隠しごとが、彼らの口から語られた。
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