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5.エピローグ
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ぱちぱちぱちぱち、と静かな拍手に我に返った。
口ずさむだけだった歌は、いつの間にか声を張り上げるようにして辺りに響いていたらしい。
手を鳴らしながら、近づいて来た男の姿に一瞬――ほんの一瞬だけ、カズキがダブって見えた。
ぜんぜん、まったく、ちっとも、似ても似つかない人だったけど。
「キミ、芸能活動に興味ない?」
「誰?」
不審者を見るようなボクに、男は名刺を差し出してきた。
中学生相手に、名刺。
「『トップ・スター』?」
「そう。新設したばかりのタレント事務所なんだけど、興味ない? キミの歌をもっと大勢の人に届ける気はない?」
大勢の人――もし、日本中の人がボクの歌を聴いてくれたら……。
その中に、カズキがいるかもしれない。
カズキがいなくても、カズキの知り合いが聴いてくれるかもしれない。
そうすれば、もう1度カズキに会えるかもしれない。
『ありがとう』と伝えられるかもしれない。
ボクがボクでいられたのは、カズキのおかげだから。
それに、この人の言う芸能活動っていうのが……。
「面白そう!」
*****
それから数年。
事務所にある会議室兼荷物置き兼フリースペースに行くと、ボクが荷物をおいたときにはいなかった人物が2人立っていた。
「何してるんだ?」
そう聞けば、片方――マナはボクの荷物を離れて、もう片方――花音はボクに返事をくれた。
「何でもないよ」
そう言って花音は空いてる机に向かう。
そんなに気になるものがあったか? と思ったけど、由梨亜が来たから考えるのをやめた。
「あ、由梨亜! CDありがとな!」
由梨亜から借りていたCDを返すと、真っ先に感想を聞かれた。
「どうだった? 『イット君』!」
「うーん、ボク的にはあんまりだったかなー?」
「え~? 絶対好きだと思ったのに~」
ボクがカズキに似ていると思った声の持ち主は『市原イット』という名前で活動していた。
それは、由梨亜がずっとファンでいる人で、ボクがCDを持っていることを知ってからこうしてよくCDを貸してくれる。
由梨亜曰く『最推しにしてほしい』らしいけど、たぶん、期待には答えられないと思う。
ボクがあのCDを聴いている理由は、違うから……。
ボクは今、ボクを認めてくれる仲間と毎日を過ごしている。
ボクがボクでいることを、自然に受け入れてくれる最高の仲間とステージの上で歌う。
こうして過ごせているのも、カズキのおかげだ。
だからいつか、やっぱりもう1度カズキに会いたい。
いつかボクの歌がカズキに届くように、響け、ボクの歌――
*** いつか、もう1度会いたい 終 ***
口ずさむだけだった歌は、いつの間にか声を張り上げるようにして辺りに響いていたらしい。
手を鳴らしながら、近づいて来た男の姿に一瞬――ほんの一瞬だけ、カズキがダブって見えた。
ぜんぜん、まったく、ちっとも、似ても似つかない人だったけど。
「キミ、芸能活動に興味ない?」
「誰?」
不審者を見るようなボクに、男は名刺を差し出してきた。
中学生相手に、名刺。
「『トップ・スター』?」
「そう。新設したばかりのタレント事務所なんだけど、興味ない? キミの歌をもっと大勢の人に届ける気はない?」
大勢の人――もし、日本中の人がボクの歌を聴いてくれたら……。
その中に、カズキがいるかもしれない。
カズキがいなくても、カズキの知り合いが聴いてくれるかもしれない。
そうすれば、もう1度カズキに会えるかもしれない。
『ありがとう』と伝えられるかもしれない。
ボクがボクでいられたのは、カズキのおかげだから。
それに、この人の言う芸能活動っていうのが……。
「面白そう!」
*****
それから数年。
事務所にある会議室兼荷物置き兼フリースペースに行くと、ボクが荷物をおいたときにはいなかった人物が2人立っていた。
「何してるんだ?」
そう聞けば、片方――マナはボクの荷物を離れて、もう片方――花音はボクに返事をくれた。
「何でもないよ」
そう言って花音は空いてる机に向かう。
そんなに気になるものがあったか? と思ったけど、由梨亜が来たから考えるのをやめた。
「あ、由梨亜! CDありがとな!」
由梨亜から借りていたCDを返すと、真っ先に感想を聞かれた。
「どうだった? 『イット君』!」
「うーん、ボク的にはあんまりだったかなー?」
「え~? 絶対好きだと思ったのに~」
ボクがカズキに似ていると思った声の持ち主は『市原イット』という名前で活動していた。
それは、由梨亜がずっとファンでいる人で、ボクがCDを持っていることを知ってからこうしてよくCDを貸してくれる。
由梨亜曰く『最推しにしてほしい』らしいけど、たぶん、期待には答えられないと思う。
ボクがあのCDを聴いている理由は、違うから……。
ボクは今、ボクを認めてくれる仲間と毎日を過ごしている。
ボクがボクでいることを、自然に受け入れてくれる最高の仲間とステージの上で歌う。
こうして過ごせているのも、カズキのおかげだ。
だからいつか、やっぱりもう1度カズキに会いたい。
いつかボクの歌がカズキに届くように、響け、ボクの歌――
*** いつか、もう1度会いたい 終 ***
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