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ボクには兄貴が1人いる。
ボクよりも4つ上の、ボクにしてみればうんとずっと大人の兄貴。
なんでもできる兄貴。
なんでも知ってる兄貴。
それは憧れで、兄貴みたいにボクはなりたかった。
なんでも兄貴を真似していた。
あるときから、兄貴は自分のことを「伊吹」と言っていたのを「僕」と言うようになった。
だからボクも、「伊織」と言っていたのを「ボク」に変えた。
兄貴の真似をした。
ほんの少し兄貴に近づいた気がして、ほんの少し大人になった気がして、くすぐったい気持ちになった。
だけど、周りの子はそんなボクを受け入れてはくれなかった。
「変なヤツ」
誰かが言った。
「女の子が『ボク』って言っちゃダメなんだよ」
誰に言われたかなんてもう覚えていない。
ただ、そんなことを言われたという事実だけがボクの中にいつまでも残り続けていた。
あのときのあの子がどうして、なにを思ってそんなことを言ったのか、ボクには理解できなかった。
ボクはただ、兄貴みたいになりたくて、兄貴の真似をしていただけで、でもそれが酷く悪いことのように言われた。
今ならわかる。
その子たちが生きる世界では、『ボク』は男の子が使うもので、女の子が使うべきなのは『わたし』だった。
ただ、それだけの価値観の違いだってこと。
あの人が、ボクに教えてくれた――
ボクよりも4つ上の、ボクにしてみればうんとずっと大人の兄貴。
なんでもできる兄貴。
なんでも知ってる兄貴。
それは憧れで、兄貴みたいにボクはなりたかった。
なんでも兄貴を真似していた。
あるときから、兄貴は自分のことを「伊吹」と言っていたのを「僕」と言うようになった。
だからボクも、「伊織」と言っていたのを「ボク」に変えた。
兄貴の真似をした。
ほんの少し兄貴に近づいた気がして、ほんの少し大人になった気がして、くすぐったい気持ちになった。
だけど、周りの子はそんなボクを受け入れてはくれなかった。
「変なヤツ」
誰かが言った。
「女の子が『ボク』って言っちゃダメなんだよ」
誰に言われたかなんてもう覚えていない。
ただ、そんなことを言われたという事実だけがボクの中にいつまでも残り続けていた。
あのときのあの子がどうして、なにを思ってそんなことを言ったのか、ボクには理解できなかった。
ボクはただ、兄貴みたいになりたくて、兄貴の真似をしていただけで、でもそれが酷く悪いことのように言われた。
今ならわかる。
その子たちが生きる世界では、『ボク』は男の子が使うもので、女の子が使うべきなのは『わたし』だった。
ただ、それだけの価値観の違いだってこと。
あの人が、ボクに教えてくれた――
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