28 / 30
4章 少女と妖精
6.村人たち
しおりを挟む
泉で妖精ネッサと別れた少年は、少女を村に連れて行くことにした。
これからは、眠り続けるだけの少女ではなくなるから。
少女は自分の意思でどこにでも自由に動いて行けるのだから、きっと村人と顔を合わせることもあるだろうと思った。
それから、昔、少女をひどいことをした大人にちゃんと謝ってほしかった。
当時の大人たちはみんな歳を取ってしまって、ほとんど亡くなってしまっていたけれど……。
けれど少女は、少し困った顔をして村に入ることを拒んだ。
「ダメだよ。村の人は、きっと私を怖いと思うから」
少女は知っていたんだ。
村の大人たちが、少女を怖がっていたことを。
思い返すと、少女は子供に手を差し伸べることは多かったけど、大人に近づくことは少なかった。
少女を見かけるのはいつも村の外れの方で、中心まで来ることはなかった。
怖がらせないようにしていたのかもしれない。
でももう、そんなのは終わりにしようと少年は少女の手を引いた。
そして、当時の大人に引き合わせた。
「……その子は、もしかして」
少女の姿を見たその人は、すっかり老人になってしまっていたけれど、ちゃんと覚えていた。
少女の身体が緊張したのが伝わってきても、少年は少女をその場から逃がさなかった。
強く握った手のひらから、大丈夫だと伝わればいいと思った。
もう逃げたりする必要はないと、教えたかった。
もうこそこそと大人に気を使って生きなくていいと伝えたかった。
「すまなかった……。ほんとうに……。すまなかった……」
その人は、少女を見るなり頭を下げた。
あの当時、子供だった頃、とても大きくて、強くて、怖い存在だと思っていた大人が、とても小さくて、弱くて、脆い存在に少年には見えた。
これからは、眠り続けるだけの少女ではなくなるから。
少女は自分の意思でどこにでも自由に動いて行けるのだから、きっと村人と顔を合わせることもあるだろうと思った。
それから、昔、少女をひどいことをした大人にちゃんと謝ってほしかった。
当時の大人たちはみんな歳を取ってしまって、ほとんど亡くなってしまっていたけれど……。
けれど少女は、少し困った顔をして村に入ることを拒んだ。
「ダメだよ。村の人は、きっと私を怖いと思うから」
少女は知っていたんだ。
村の大人たちが、少女を怖がっていたことを。
思い返すと、少女は子供に手を差し伸べることは多かったけど、大人に近づくことは少なかった。
少女を見かけるのはいつも村の外れの方で、中心まで来ることはなかった。
怖がらせないようにしていたのかもしれない。
でももう、そんなのは終わりにしようと少年は少女の手を引いた。
そして、当時の大人に引き合わせた。
「……その子は、もしかして」
少女の姿を見たその人は、すっかり老人になってしまっていたけれど、ちゃんと覚えていた。
少女の身体が緊張したのが伝わってきても、少年は少女をその場から逃がさなかった。
強く握った手のひらから、大丈夫だと伝わればいいと思った。
もう逃げたりする必要はないと、教えたかった。
もうこそこそと大人に気を使って生きなくていいと伝えたかった。
「すまなかった……。ほんとうに……。すまなかった……」
その人は、少女を見るなり頭を下げた。
あの当時、子供だった頃、とても大きくて、強くて、怖い存在だと思っていた大人が、とても小さくて、弱くて、脆い存在に少年には見えた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる