【完結】守り姫[完全版]

桐生千種

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3章 旅する少年

7.帰路の先

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 少年は妖精を連れて、今まで歩いた道を戻った。

 魔物が現れた森。
 魔物に怯えていた村。
 少年の生まれた村よりも栄えた町。
 もっと貧しい村。

 少女のもとを離れて、旅をして来た道のりを巻き戻るように、少年は歩き続けた。

 その手に妖精の宿る花を持って。

 行きは、当てのない旅が途方もなく続く気がしていた。

 けれど帰りは、1歩ずつしか進めない自分の足をもどかしく感じた。

 早く、早く帰りたいと思っても少年の1歩は1歩でしかなく、それ以上距離を延ばすことはできない。

 それでも、少年は歩き続けた。

 1日でも早く、少女のもとに帰れるようにと。

 そして、少年は帰って来た。

 少女が眠るその場所は、少年が足を運ばなくなってから本当に誰も来ていないのだと嫌でも少年にわからせた。

 まるで、少女のことなんて忘れ去ってしまったみたいだった。

 伸び切ったツタに雑草。

 手入れのされていないその場所に、少年が旅立ったあの日から、少女は変わることなく眠っていた。

「ただいま」

 少年が声をかけても、変わることなく少女は眠っている。

「この子、ずっと、何年も眠ったままなんだ」

 少年が見下ろす少女に、妖精はひらりひらりと近づいた。

 じっと少女を見つめるけれど、妖精は何も言わない。

「すごく優しい子なんだ。僕たちが困っているとき、必ず助けてくれた」

 少年は、どんなに少女が優しいか、どんなにいい子か、話し続けた。

 『特別な蝶』の力を借りるために。

「今度は僕が助けるから。また、ひどい目に遭わせようとする大人がいたら、今度は僕が守るから。だから」

 少年がそう言ったとき、妖精はようやく声を発した。
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